とんでもないヒーロー
夢ムラ
とんでもないヒーロー
それはとんでもないヒーローだった。
突然通行人をぶん殴り、泥棒だと警官に突き出す。店の窓ガラスを割り、麻薬を売っているとわめき散らす。
果てにはテロリストをひっとらえるために鉄道を拳で止めて、ひと騒ぎを起こす。
しかし、それらは事実無根証拠不在の罪。つまり冤罪だ。ヒーローに殴られた人達は無実であった。
なぜヒーローはそんなことをしてしまうのか。
重たい精神病と警察は話した。理想と現実の区別がヒーローにはつかないのだと。
ゆえヒーローとの会話は困難である。それでも私はヒーローに聞いてみた。
「アナタは無実の人を捕まえている自覚はありますか?」
ヒーローはボロボロの赤いマフラーを靡かせ喋る。少し怒りをこめてヒーローは喋った。
「俺が捕まえているのは悪党だ」
「でも警察や裁判所は無罪だと言っています」
「俺が悪だと思った奴が悪だ」
とんでもないジャイアニズムな発言だった。
「それではアナタがずっと正しいことになる。そんなことは誰も許さない」
「俺を許さない奴が悪だろう。俺もそいつを許さない。見つけ次第ぶっとばすだろうな」
ヒーローは首をひと回しして「じゃあな」と言い、飛び去ってしまった。
私は思う。独裁政治は独裁者が有能でなければならない。
その点ヒーローが君臨するには評判が悪かった。彼と出会えば殴り飛ばされないほうがおかしいぐらいだ。
町の人々は決まって彼を避ける。または監視して暴れないように誘導する。人災扱いである。
子供から卵を投げつけられた話も聞いたことがある。すぐにヒーローから反撃をくらったらしい。
この町にヒーローはいらない、とされている。
そうとも。ここは腐ったマフィアがのさばる町。泥棒やスリが平然と歩き店では当然のように麻薬を売っている。
警察や裁判官も賄賂で腐臭を撒き散らす。
それでもこの町にはヒーローが必要だ。
重い精神病を患ったと噂を撒き散らされたヒーロだけが哀れな平民達が願う最後の希望なのだ。
とんでもないヒーロー 夢ムラ @zinkey
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