第23話 vs 患者×サッカー部×厨二×オカ研

「ん~、なんやかんや終わるってなると寂しいね」


祭りももう終わる。最初から最後まで、結局振り回されっぱなしで余計に疲れてはいるけれど、そうはいっても楽しい思い出には違いないわけで。もう夜も更けてきてあとちょっとで年に一度の大祭りが終わると思うと、やっぱり少し物悲しくなって、私はぽつりと独り言をこぼした。


「本当だよね~。ぼくも歯医者の治療が終わるときはどうしようもなく寂しくなるもんなぁ~」

「ほんっと、凄凄切切せいせいせつせつって感じだよね」

「・・・当たり前のように会話に入ってこないでくれる?」


びっくりした・・・。いつの間にいたの、この二人。

歯医者フェチ・士会しかい志羽しばと肉体派文系・古寺こでらげん


「堤さんも帰ったらまず歯を磨いてね。夏祭りはりんご飴やら綿菓子やら、虫歯になりやすいものの宝庫なんだから!」

「あ、うん、それはまぁ・・・」

的確なアドバイスだけど・・・。

「他の夏祭り参加者もしっかりしてもらいたいよ。虫歯になって歯医者へ行く人が急増したら、ぼくを見てくれている女子歯科衛生士さんが、『あの子以外の歯をみないといけないなんて・・・』って泣いて悲しむに決まってるし」

「なわけないでしょうが・・・」

ほーら、やっぱり禄な目的のアドバイスじゃないし。

「それで?一応聞いてあげるけど、凄凄切切ってどういう意味?」

「あ、堤んってば、『せ』が多いからこの四字熟語いやらしい意味だと思ってるでしょ?」

「思ってないから・・・」

どんな理屈?

「極めて寂しいって意味だよ。この祭りの終わりを表したの」

「へー、そうなのね・・・」

余計なこと言わなきゃ、普通に博識ってことで尊敬できるのに・・・。

「っていうか堤んさ、何かテンション低くない?」

「そうだよ、いつものならもっとびしっとツッコんでくれるのに」

「いろいろあったんだよ、今日も・・・」

一日ツッコんでばっかりで体力いつも以上に使ってるし・・・。

「祭りも終わり際じゃなかったら私ももう少しは・・・ってうわぁっ!!」

私はびくっ、と体を震わせて大声を出した。

「も、木陽くんっ!?」

今まで確かに二人しかいなかった筈なのに、いつの間にか私の真隣に、寡黙な中二病患者・木陽もくひしゅんくんがいた。

「び、びっくりした・・・。気配消してたわけ・・・?」

あ。言ってしまって私は気づく。

「・・・当然だろう・・・。・・・僕にかかれば、気配を消すことなんて自由だ・・・」

ほらねー、がっつりのって来ちゃったよ・・・。『気配を消す』なんて、木陽くんにとっては恰好のワードだよね・・・。

「・・・甘いな、堤・・・。・・・こうも容易く背中を取られるとは・・・。・・・戦場だったらもうすでに死んでいるぞ・・・」

「うん、別にここ戦場でも何でもない平和な世界だから」

祭りでテンションあがってるのか、今日はよくしゃべるな・・・。

「ん?何だ堤じゃないか」

・・・また来たよ。しかも、出来るだけ夜には会いたくない人が・・・。

「綾貸くん・・・」


超霊媒体質なオカルト研究部・綾貸紀太。


「男三人も連れて祭りを闊歩とは。そいつが噂の堤逆ハーレムか?」

「いや、違うわ!ってか、噂のって何!?」

とんでもない噂流れてんの!?

「ま、ハーレム云々というより、浴衣の堤ってのがレアだもんな。似合ってるじゃねぇか、堤。可愛いぞ」

「ぅえ?あ、ありがと・・・」

何だろ、普通に褒められたら逆に変な感じだな・・・。

「あっ!ほ、ホントだよ!そんな綺麗な浴衣が似合うのなんて堤さんか純白の八重歯くらいだよ!」

「八重歯と比肩されても嬉しくないし!!」

「ま、馬子に衣装って感じだよね!」

「それ若干悪口じゃん!」

「・・・・・・」

「何か言えよ!!」

かんっぜんにこいつら私の浴衣目に入ってなかったよね・・・。しかもそのフォローも超下手だし。

「よし、折角の浴衣姿の堤だ。俺が一枚撮ってやる」

「いやちょっと待って!!」

スマホを構える綾貸くんを、私は喰い気味で制止する。

「んだよ、照れんなって」

「照れてないから!!綾貸くんの写真って一番ペアにしちゃ駄目なやつだから!!」

彼が映りこむ写真には五割で霊的なものが映るらしい。彼がカメラマンだったとしても、やっぱり縁起が悪すぎる。

「気にすんな。はい、チーズ」

「ちょっとぉ!?」

彼はお構いなしにシャッターを切った。

「ほら、見てみろよ」

綾貸くんは、私たち四人に今撮った写真を見せる。

「ふー良かったぁ。私の背中から抱きしめている半透明の白い手しか映ってないやー・・・じゃねぇんだけど!?ちょ、何これ!!思いっきり何か映ってるんだけど!?」

絶対ヤバいやつこれ!!

「あっ、ぼく、歯医者予約してるから、じゃあね!みんな!」

「ちょ、士会くん!?」

思いっきり逃げた・・・。こんな時間に歯医者やってないのに・・・。

「何してくれてんだよ、綾貸くん!!」

「いや別に、俺のせいじゃないだろ」

「そうだけど、ほぼ綾貸くんのせいだと思うよ!?」

私、今まで心霊写真なんて撮れたことなかったし!!

「まぁ落ち着きなよ、堤ん。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って言うしさ」

「ど、どういう意味なの、それ・・・?」

「恐怖心や疑いの気持ちがあると、何でもないものまで恐ろしいものに見えるってことだよ」

「・・・そ、そうだよね・・・。ただの勘違いだよね?」

「・・・まぁ、『尾花』はススキの穂のことなんだけど、ここにそんなものないし・・・。これはその、ガチなやつかもしれないけど」

「フォローか恐怖させるか、どっちだよ!!」

「ま、『逃げるが勝ち』ということで」

「ちょ、古寺くん!?」

上手いこと諺使って逃げられた・・・。

「い、いやだなぁ、男の子のくせにびびっちゃって・・・。綾貸くんはこれ本物だと思ってないよね?綾貸くん、オカ研だけどオカルトなこと信じてないもんね?」

・・・何か、この原因を作った張本人に最後に一縷の望みをかけるっていうのも変な気分だけど・・・。

「う~ん・・・」

「え。何でそんな歯切れ悪いの?」

「いや。今まで俺が関わって映って来たモノの中でもトップクラスにヤバそうな雰囲気がするが・・・まぁ、大丈夫だろ。・・・多分な」

「いやそこは完全に霊を信じてないってスタンスを貫けよ!!」

祭りも終わり際だと言うのに、とんでもない思い出が出来てしまった私だった。


to be continued...

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