第24話 vs 科学者×夏祭りの終わり
「まったく・・・」
あとちょっとで祭りが終わるっていうのに、どうして変に怖がらないといけないかな・・・。私を恐怖に陥れた綾貸くんも帰っちゃうし。いや、別に気にしてないけどね?私も霊なんて信じてないし、どうせ何かがどうかなって何故か写真に霊的なものが映っただけだし。
「よし、別に問題ないよね、っと・・・」
「・・・なぁ・・・」
「うわぁっ!?」
え、こ、声!?ま、まさか、やっぱり霊の声が・・・。
「・・・って、木陽くん・・・?」
・・・あ、彼、まだ帰ってなかったんだっけ・・・。
「・・・僕のこと忘れていただろう・・・」
「あ、うん、ごめん・・・。霊騒ぎで頭いっぱいになっちゃって・・・」
「・・・それだけじゃない・・・。・・・僕は気配を自由自在に操ることができるからな・・・」
「別にいいから、その中二設定・・・」
と、いいながら、今はお化け騒動を誤魔化せるからありがたかったりもする。
「木陽くんは怖くないわけ?お化けとか・・・」
「・・・僕が邪眼を解放するときは、魔界から来る魑魅魍魎を目に焼き付けているんだ・・・。・・・霊の一つや二つ、恐れるに値しない・・・」
「ふーん、へー、そう」
聞く相手を間違えた。
「・・・そんなことより・・・、・・・僕がここに来たのはその浴衣の中身を透視したかったからじゃないんだ・・・」
「いや初めて聞いたんだけど、その仮目的」
さらっとセクハラ発言してるし。
「・・・ぐふっ・・・」
「え?」
さっきまでピンピンしていた木陽くんが、急にお腹を押さえてどさっと片膝を付いた。
「え、何?どうしたの?」
「・・・だ、駄目だ・・・。・・・もう僕に、あいつは止められない・・・!」
いや、さっきまで全然元気だったじゃん・・・。何で急に息遣い荒くなってんの・・・?
「あのさ、木陽くん・・・」
「・・・」
「何か大事なことあるならさっさと言ってくれない?」
「・・・」
「ほら、周りに人もいるし・・・」
「・・・」
「・・・はぁ」
ぜんっぜん喋らなくなったし。これはあれだね。乗れってことね、この寸劇に。
「だ、誰?あいつって・・・!?」
一応しぶしぶながら乗ってあげる。
「あいつは・・・狂気のマッドサイエンティストは・・・、・・・この祭りを滅茶苦茶にする気だ・・・!」
* * *
狂気のマッドサイエンティスト。私は、いや、私の同学年の生徒すべては、この呼び名を聞いて思い浮かべる人が一人いる。
実験命の科学者・柳田
狂気だマッドだと言っても、もちろん柳田くんはクラスメイトで、祭りを破壊するようなことをする人じゃないっていうのは分かってるんだけど・・・。
「ちょっと不安なんだよな・・・」
滅茶苦茶、とまではいかなくても、何かやらかしてはくれそうだし・・・。彼には以前、実験の為に私を拉致して静電気でビリビリってさせたっていう前科があるからね・・・。というわけで私は一応、彼を止めに動いているのだった。
「・・・ここか」
この公園には端の方に大きな管理棟のような建物がある。祭りの時は全面的に閉鎖されていて立ち入り禁止というのはもう何年も続いている常識だから、誰も近づかない。ただ、木陽くんの話によれば、この時間だけは建物の扉は開いていて、屋上に彼がいるとのことだった。
「・・・本当に開いた・・・」
私はこっそり扉を開けて中へと入る。不法侵入ってわけじゃないと思うけど、やっぱり立ち入り禁止のところに入るってどきどきするな・・・。私はできるだけ音をたてないように気を付けながら、階段を登り屋上への扉を開けた。
「・・・来たか」
開けた屋上に一人、白衣の男がそこにはいた。
「やっぱり君が来たか。無論、そうだとは思っていたがね」
ポケットに手を突っ込みながら、ばたばたと風で服がはためいている。
「やはり、私を止められるのは君を置いて他にいないと思っていたから。なぁ、堤くん?」
抜かりなくライトアップされた屋上で、柳田くんはにやりと笑った。
「・・・ねぇ、一言、言っていい?」
「何だ?」
すぅ、と私は大きく息を吸った。
「面倒くさいわぁぁぁあああ!!」
「いや、何これ!?何この無駄なドラマ的な展開!?私女優でもないしイチイチその展開に乗らないよ!?」
「ふっふっふっ、私が犯人だと知って、信じられないといった様子だな」
「まだ続けるんかい、その黒幕ポジション!!」
面倒くさいって一喝したんだから終われよ、そこで・・・。
「大体何なわけ、これ・・・。木陽くんに言伝してまで私を巻き込んで・・・。柳田くんのことだから、これで何もなしで終わりってわけじゃないんでしょ?」
「よく分かっているじゃないか、私の性格を。ならば聞くが、堤くん。仮に私が何らかの事件の犯人だとして、どうして私はこんなにも余裕でいるのだと思う?」
「え?」
「それはな・・・。すべてが終わった後だからだよ」
そう言った彼の手には、何かのスイッチが握られていた。いや、何かじゃない。その時私は直感した、それが何なのかということを。
「爆弾っ・・・!?」
「気付いたときには、もう遅い・・・!」
どかんっ!!
* * *
耳をつんざくような、凄まじい音の爆発音。私の直感は間違っていなかった。柳田くんがスイッチを押したことで、確かに爆発が起きたのだ。みんなが、まだ、祭りが終わっていないその時に。そして私はつぶやいた。
「・・・綺麗・・・」
暗闇の空に浮かぶ、その無数の爆発を見て。
「私は職人ではない。故に質は数段落ちるが・・・。それでもそこそこの自信作なのだよ、この花火は」
「・・・本当に性格悪いよ、柳田くんは。無駄にハラハラさせちゃって」
「より心を震わせる方法をとったまでだ。当然祭り開催者に話は通してあるが、一般客にはサプライズだった。どうだ?悪くないだろ?」
「うん、悪くない」
私は空に咲くいくつもの花火に見蕩れる。
「・・・あれ?そういえば何で私を呼びだしたりしたの?」
「まったく、鈍いな堤くんは。夏祭りの夜、男が女を呼び出して二人きり。こんなもの、答えは一つしかないだろ?」
「・・・へ?」
柳田くんは急に私の目をまっすぐ見た。
「ここまで近いんだ。花火の音で私の声がかき消される、なんてことはあるまい」
「・・・え、あ、え・・・?」
こ、これって・・・そ、その、まさか・・・?
「堤くん、私の─」
「モルモットになってくれないか?」
「何でだよっ!!」
花火に負けないくらいの大声だった。
「何、モルモットって!!それってつまり実験道具になってくれないか、ってこと!?」
「嫌か?」
「嫌に決まってんだろ!!」
どんな告白だよ・・・。不覚にも緊張しちゃったじゃん、もう・・・。
「冗談だ。本当の理由は、ここが一番花火が綺麗に見える場所だからだよ」
「ここが・・・?」
「堤には夏休み前に世話になったからな。それに君のことだ。どうせ今日も皆に付き合ってあげたのだろう?」
「流石、鋭いね・・・」
「この花火はクラスメイト全員の想いだと思ってくれ。謝辞だとな」
「・・・ふぅ、まったく・・・。みんなももっとお手柔らかだと、こっちも楽なんだけど」
「迷惑か?」
「ううん、全然。みんなといると飽きないよ、本当にね。ありがと、柳田くん」
私は笑った。そして、ゆっくりと花火を見る。その時に見た花火は、今までの中で、一番綺麗だった。
next to a seaside school...
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