第22話 vs ネガ男×ヒール
「あぁ~、何か疲れた・・・」
私は一人、祭りの中央部から離れて、木陰に腰を下ろす。休みの日くらい、もとい、祭りの日くらい、何も考えずにのんびりゆっくり過ごしたいんだけどなぁ・・・。妙なことに巻き込まれて結局いつも通りだし。別に楽しくないことはないけど、素直になれないそう思えないっていうか。
「・・・・・・るの・・・」
「うん?」
休憩しているとちょっと離れたとこから聞き覚えのある声がした。私は気になって物陰に隠れながらその声の方向を覗く。
「・・・え、あれって・・・」
懐疑主義者のネガティブ男子・瀬那嘉幸&故意な悪役・庵千夏。
「・・・どんな組み合わせなワケ・・・?」
私のクラスでもかなり面倒くさい方の二人が、何故だか一緒になって話していた。あの二人、話しているところ学校でもほとんど見たことないんだけどな・・・。別にクラスメイトで会話をすることは全然おかしなことじゃなくてむしろいいことだから、私が介入しないで放っておいてもいいんだけど・・・。
「何でアンタみたいな陰キャラがここにいるわけ?祭りっていうのはぱーっと華やかな人が来るところでしょ!?」
「まさか僕に“陰”というキャラ付をしてくれるなんて・・・。てっきり僕はみんなにとっての“空気”だと思っていたよ。庵さんって良い人なんだね」
・・・やっぱりだよ。想像通りのこの上ない面倒臭さだよ・・・!学年一のネガティブ男子と、全然悪役になりきてないヒール女子が一緒って・・・。放っておいたら後あと面倒なことになる気がする・・・。ここは陰に隠れて会話を聞いて、何かあったら参入するか・・・。
「は?意味分かんないんだけど。空気ってなによ?高校生にもなって、まともな会話もできないって言うの?」
「ああ、そうだね。人間に限らず、この地球上のほとんどの生物は空気が無いと生きていけないのに、そんな偉大な空気に僕なんかを当てはめるなんて・・・。おこがましいにもほどがあったね」
ネガティブぅ~~~!!こんなわいわいがやがや盛り上がってる祭りで何でここまで自分を卑下できるかな!?
「だとしたら僕は何だろう・・・。僕という存在にふさわしいものは・・・」
「あ、えっと・・・」
瀬那くんが思考モードに入っちゃったよ、千夏ちゃんほったらかしにして。
「いや、待てよ?僕というものに例えられる存在はつまり、僕よりも下か同等だと捉えられるわけで、だとするとそれは地球上でもっとも不名誉なことじゃないか」
「いや、その・・・」
「僕以上に劣っているものなどこの世に存在するはずもないし、即ち僕が僕というものを僕以外の存在で喩えようとしていることが大罪に値するほどの愚行で・・・」
「ちーがーうー!!」
「うおっ・・・」
「違うからー!!アンタにもいいところはいっぱいあるからー!!それはあたしが知ってるからー!あたしも言い過ぎたこと謝るからぁ!そんなに自分のことをマイナスに考えないでよぉ!」
千夏ちゃんは突然叫んでぎゅっ、と瀬那くんを抱きしめた。その顔は若干泣きそうになっている。瀬那くんのメガティブ思考に居たたまれなくなったのだろう。それにしても・・・。
かわいー!!ほんっと、可愛いんだけど、千夏ちゃん!っていうか、ほんっとネガティブだよ、瀬那くんの奴!!自信持ってないことに自信持ち過ぎなんだけど!!
「・・・ハ、ハグ・・・!?この僕が女の子に、ハグされるなんて・・・!!」
地球崩壊するくらいの勢いで驚いてるじゃん、瀬那くん・・・。
「ああ、そうか。僕は今日死ぬのか」
死なねぇよ!!
「え、ごめん、苦しかった・・・?いや、死なないで・・・!」
だから死なねぇったら!!何で千夏ちゃんもマジになって心配してんの!?
「ほ、ほら、行くよ!」
とりあえず二人とも落ち着いた後、千夏ちゃんが瀬那くんに向かって手を差し伸べた。
「・・・?この手は一体・・・?」
「勘違いしないでよね!せっかくの一年に一度のお祭りなのに、一人で行動しても楽しくないだろうな、って思って一緒に回ろうって誘ってあげたわけじゃないんだからね!」
いい子ーー!!この子、めっちゃいい子だよ、ホント!!この献身さには流石の瀬那くんも心を打たれて・・・。
「・・・そうか、分かった。何かの罰ゲームか何かで渋々僕に絡まざるを得ない状況なんだよね?」
ないしっ!!全然響いてないしっ!ツンデレ通じないしっ!!
「はぁ?何言ってんの?アンタなんか罰ゲームの対象にすらならないわよ」
「それもそうか。僕に関われなんて罰ゲームじゃなくて死刑宣告だもんな」
言うことがいちいち重いんだよ、こいつ!!
「・・・でも、どうして僕なんかと一緒に祭に・・・?は・・・!もしかして、祭りデートを使って僕を落として結婚させて生活費を一生せびろうとするつもりなんじゃ・・・!」
んなわけあるかっ!!は・・・!じゃねぇし!!何閃いた、みたいな顔で見当外れなこと言ってんの!?
「ちょ・・・!な、何言ってるのよっ。け、結婚っていうのは、もっとこう、ゆっくりと時間をかけてお互いを知ってからするもので・・・。べ、別にアンタのことは嫌いじゃないけれど、たった一回のデートで決めるのは早すぎるっていうか・・・」
何でこっちはこっちでちょっと考えてんの!?何かまんざらでもないみたいなんだけど、千夏ちゃん!!
「と、とにかく、ほら!このあたしが言ってあげてるの!祭りに行くわよ!」
「でも一緒に行ったら何か迷惑をかけるんじゃ・・・」
「大丈夫だから!気にしないから!」
「気にしない、とはつまり、気にはなっているけれど我慢して気にしないように努めるという可能性が高いから、やっぱり迷惑なんじゃ・・・」
「迷惑かどうかはあたしが決めるから!アンタみたいなのがあたしの気持ちを考えるなんて100年早いのよ!」
「だとしてもやはりここは・・・」
「さっさと行けよ、お前らぁぁぁぁあああ!!」
「・・・うわっ」
「・・・きゃあっ!!」
「はぁ、はぁ・・・」
「堤さん・・・?」
「堤・・・」
「あ」
・・・しまった。我慢できなくて、つい出てきちゃった・・・。
「・・・何?もしかして、あたしたちの会話、ずっと聞いていたの?」
「う・・・。そ、それは・・・」
私はばつが悪そうに目を逸らす。
「はん、最低ね。知ってる?盗聴も立派な犯罪なんだよ?クラスメイトだからってあたしが許すとでも思った?」
ぐいぐいと、千夏ちゃんは私の元へ怒った風で近づいてくる。
「うぅ、ごめんなさい・・・」
「・・・ま、まぁ、今日に限っては許してあげなくもないけどっ!」
何回目の今日に限っては、だろう・・・。
「とにかくさ、二人とも。いいからさっさと祭りに行ってきなよ。このままじゃ延々と堂々巡りで、一生すすまなさそうだから」
「でも・・・」
「四の五の言わないの!ほら、千夏ちゃんも無理やり連れて行く!」
私は激を飛ばす。こういうのは第三者が背中を押してあげないとね。
「・・・ちょっといい?」
「何?まだ何かあるの?」
「・・・よくよく考えたら、あたし、こういった大きな祭り初めてだから、どんな風に楽しんでいいのか分からない」
「え?」
「いうまでもなく、僕も経験は皆無だよ?」
「えぇ?」
・・・この流れって・・・。
「う、ううんっ!・・・なぁんだ、しょうがないわね。アンタもあたしたちのところに出てきたってことは、一緒に祭を回りたかったってことでしょ?」
「僕も、堤さんがいてくれたら心強いかな」
「・・・はいはい、分かったよ・・・。じゃ、一緒に行こうか・・・」
手間のかかる息子と娘を持った、母親の気分になった。
to be continued...
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