第21話 vs ロリータ×アクトレス
「それでは私のことは鈴ちゃんと呼んでくれ。遠慮はいらないぞ、好美姉ぇ!」
「私も伊央と呼んでくれていいわ。一度スイッチを入れたら気にならないから、姉さん」
「・・・うん、何でこうなるわけ?」
策士系ロリータ・老李鈴&文武両道系演劇部・石園伊央。
さすがに地域最大の祭りというわけあって、私のクラスメイトの大多数も当然参加しているわけで。雑踏を進んでいると、ばったりとその二人に出会った。
「お、堤くんじゃないか!」
「あら、久しぶりね」
「老李さん!石園さん!」
二人とも可愛らしい着物をばっちりと着こなして、祭りを満喫していた、って一見思ったんだけど・・・。
「丁度いい!堤くん、私たちといっしょに祭を回らないか?」
「・・・そうね、仕事も終わったし・・・」
「へ?仕事?二人とも、今まで普通に祭りを楽しんでいたんじゃないの?」
「いやいや、今しがた仕事が終わって、やっと今からが本番なんだよ」
「結構疲れたわ・・・。いい稼ぎだからいいけれど」
「ふーん、そうなんだ。仕事って屋台の店番とか?」
「妹バイトだ!」
「妹バイトよ」
「は?」
何か、めっちゃいかがわしいネーミングが出て来たんだけど・・・。
「え、何それ」
「そのままさ。私たちが妹として客と一緒に祭を回るだけだ」
「いや大丈夫なの!?何か危ない匂いするけど!?」
「平気よ。時間はほんの10分ほどだし、いわば妹カフェの野外バージョンみたいなものだから。特に問題はないわ」
「・・・あ、そ・・・」
二人して、かなり慣れてる感出してるし・・・。でも確かに、老李さんは小さくて見た目もそのまま妹みたいだし、石園さんは演劇部だから、客の需要に合わせた妹もお手の物なんだろうけど・・・。
「・・・む。堤くん、この仕事の素晴らしさを理解していないな?」
「・・・まぁ、正直ね」
「よし!じゃあ今から私たちが実演してやろう!な、石園くん!」
「え?」
「・・・そうね。ラッキーと思いなさい?私たちの妹がただで体験できるなんて、有り得ないわよ?」
「・・・」
と、いうわけで、私が姉として祭りを回るという、かなりカオスな展開になったのだった。
「・・・はぁ、何か絶対普通に楽しめないよね・・・」
結局何だかんだみんなに振り回されてるし・・・。
「おかしいな、好美姉ぇ。どうしてこの状況でテンションがあがらないか理解できない」
「いやだって・・・。たかが姉になるだけでしょ?私が・・・」
「・・・やれやれ、分かっていないな・・・。姉未経験者がが姉になることが、どれほどまでに苛烈を極めるかを・・・!」
「まったく、呆れたものね・・・。そんな生半可な覚悟で、姉化しようとするなんて」
「・・・二人して何言ってんの?」
聞いたことのないワードがポンポン出てくるけど。
「まぁいい。やれば分かる。まずは設定だ」
「設定?」
「私はオーソドックスだな。好美姉ぇよりも十個ほど年下の実妹だ。親が歳喰って頑張っちゃったやつだな」
「親のバックグラウンドとかいらないから・・・」
設定って、どんな妹になりきるかの設定ってことね・・・。
「私は、過去に男性に騙されて、そこから人間不信になり周りの人たちを一切信用できなくなって、母親が再婚したことで新たにあなたの家族となった。最初は周りの人間と同じくあなたに心を閉ざしたままだったけれど、次第に開いて行き、あなたには信用を置けるようになった寡黙な義理の妹よ」
「設定細かっ!!」
超無駄に細かいんだけど!いる!?
「よし、それでは始めるか」
「おねぇちゃんっ!!」
「・・・ふえっ!?」
な、なに、このこそばゆい感じ・・・。何か、胸の奥からぞくぞくって全身に駆け巡るような・・・。
「・・・ふふ、言ったろう?姉とはそれほどまでに甘美なものなのだよ」
老李さんがキャラを戻して、ひそひそと私に耳打ちをする。
「むぐ・・・」
た、確かに舐めていたかも・・・。ただおねぇちゃんと呼ばれるだけなのに、こんなにも気持ちのいいものがあるなんて・・・。
「もっとも、私だからこその技術ではあるがね。ここずっと堤くんの好みを研究して、声のキー・トーン・間、すべてが堤くんにドンピシャにハマるような言い方を開発した」
「いや、怖いわ!!」
ドンピシャを作れるってどんだけ研究し尽したわけ!?
「・・・」
「あ、石園・・・じゃなかった、伊央ちゃん・・・」
彼女はくいっと私の浴衣の袖を掴みながら、私にぎゅっと近づいて歩く。周りにはいる数多くの人たちのことが怖くてかたかたとおびえて震えているのが感じられた。・・・まぁ、そういう設定なんだけど。
「・・・お、おねぇ、ちゃん・・・」
「くあっ・・・」
怯えた表情から一転。私に対して、心を開いている安堵の表情を向けた上での控えめなお姉ちゃん発言は、鈴ちゃんの明るめなものとは違った趣が─。
「・・・って、何これ!?」
私は人ごみの中にも関わらず、結構大き目の声で叫んだ。
「いや、冷静に考えてよ!めちゃくちゃアブノーマルなことしてるよ、私たち!!同い年のクラスメイトで姉だの妹だのって!!」
しかもこんな公の場で!!
「そうは言うが、結構感じていたじゃないか」
「まぁ、それは、その・・・」
私って一人っ子だからな・・・、知らず知らずのうちに、姉に対する願望はあるのかな・・・。
「自分に素直になりなさいよ。言っておくけれど、私たち、疑似妹に関してはセミプロくらいのレベルよ。姉素人のあなたが耐えきれるようなヤワな出来じゃないわ」
「日本語だよね?聞いてて意味分からないけど」
「で?どうするんだ?」
「延長、する?しない?」
「・・・えーとね・・・」
・・・結局もう少しだけ、姉という体で祭りに参加しました。
to be continued...
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