第20話 vs 妄想家×マンガ好き
「ふぅ~、疲れた・・・」
「はい、これどうぞ」
「ん?」
舞台終わり、汗だくの彼に私はタオルを渡す。
「あれ?堤さん!」
「お疲れ様、
歌が上手な妄想家・濁酒宇多。
夏祭りのステージショー。その演目の一つにいろんな人のライブがある。彼もその一人で、自慢の歌声を皆に披露した。ギター片手に弾き語るその姿は、その歌唱力と相まって祭りに来ていた客たちをおおいに沸かせ盛り上げた。そのショー終わり、私は彼に労いの言葉をかけたというわけで。
「どうしてここに?この舞台裏は、関係者以外入れないんじゃ・・・」
「まぁ、一応私も関係者になっちゃってね、さっき・・・」
フリータイムに無理やり上がらされたことで、何か参加者だと勘違いされたみたいで・・・。それで、舞台裏の雑務もいろいろ手伝ってほしいと捕まった。最初は乗り気じゃなかったけど、濁酒くんの歌を間近で聞けたからよしとしようかな。
「それにしても、やっぱ歌上手いよねぇ、濁酒くんは。私、なんだか聞いてて感動しちゃったよ」
「まぁね。歌は自分の生きがいというか、ありのままを見せられるというか、とにかく大好きなんだ」
「ホント、魂込めて歌ってるていうか、熱い想いが伝わったよ」
「そして自分の性癖をさらけ出せる!」
「うんうん、調べに乗せて性癖をオーディエンスに・・・え、性癖?」
・・・出たよ、上手いねぇ、って普通に言っても逸れるよなぁ・・・。
「あのさぁ、たまには純粋にスペックを褒めさせてくれない?」
よくよく考えれば、ウチのクラスのメンバーってほとんど全員能力高いよね?それなのに何か余計なこと言うから素直に賞賛できないんだよな・・・。
「せっかく素晴らしい才能を持ってるのに、そんなこと言うから残念感が出るんでしょうが・・・」
「そんなこと言っても、ある種、歌と性は離せないよ?例えばAVなんかでも・・・」
「そこに繋げんでよろしい」
隙あらば挟もうとするよね?
「じゃあ普通に。普通のカラオケで歌われるような歌の歌詞も、冷静に見れば過激なものも多いんだ。それをメロディに乗せているからさらりと流せるわけで。何を隠そう、自分が妄想家になったのも、そういった歌詞が原因なんだ」
「できればずっと隠したままでも良かったんだけど」
大体、妄想家っていう職業ないでしょ・・・。
「小さい頃、カラオケには家族とよく行ってたんだ。その時は歌詞の意味とかは分からなくて、ただメロディが気に入ったものを歌っていたんだけど、どうやらそれが大人の激し目な恋愛、アバンチュールを題材にしたものが多かったようで、親が変な空気になっていたんだ」
「アバンチュールって冒険的な恋愛のことだよね?」
子供の歌う歌じゃないよ、絶対・・・。
「そこから、この歌詞にはどんな意味があるんだろうか?抱くというのは、抱きしめるという意味じゃないのか?この言葉の裏には、どんな想いが隠されているのか?そんなことを考えるようになったんだ」
「・・・で、行く着く先が妄想、と」
・・・そう言えば、濁酒くんってやけに現代文の成績良かったな・・・。幼い頃からの訓練の賜物ってこと?
「ま、熱源はどうあれ、歌が上手かったのは事実だから、今日はとやかく言わないけどさ」
せっかくの祭りだからね、本人は気持ちの良いまま終わらせてあげないと。
「でも、堤さんに聞いてもらって良かったよ!是非、堤さんには聞いてほしいと思っていたから!」
「・・・私には?それってどういう─」
「─ひゃあっ!?」
突如、私の口から高い女の子の声があがる。
「な、なにっ!?」
「久しぶり!堤さん!」
「・・・わ、和数さん・・・」
追及系マンガ好き・和数恵香。
「・・・な、なにしてんの・・・?」
「いや、久しぶりに会ったから、挨拶を、と思って!」
「何で挨拶が背後から胸を揉むことなわけ・・・?」
「久しぶりの再会だからさ、私のキャラ忘れてるかな、と思ってちょっと違うことをしてみた」
「余計なことすんなよ・・・」
本気でびっくりしたよ・・・。痴漢!って叫ぼうかと思っちゃったくらいだし・・・。
「ごめんごめん!でも、堤さんのサイズでもこういうことをしてもらえるってことで、プラマイゼロじゃない?」
「怒るよ?」
・・・何か、私の胸をイジる奴が増えてる気がするんだけど・・・。
「・・・ていうか、ここって関係者以外入れないんじゃないの?」
「ちゃんと関係者だよ?ね、濁酒くん!」
「うん、そうだ」
「・・・?二人って何の・・・」
「さっき濁酒くんが歌っていた歌、あれって私と濁酒くんで作詞したんだ!」
「え、そなの!?」
「ほとんどは和数さんが。和数さんの文学レベルは高いからね、俺は少し手伝っただけだ」
マンガが好きな和数さんは、読むだけに留まらず、そのキャラクターの別の人生を想像して同人を描いたりもしている。それを考えると、確かに想像力が豊かで歌詞もかきやすいのかな。
「すごいね、作詞なんて。私、全然浮かばないし」
「まぁ、今回はモデルが良かったからさ、すんなり出て来たよ」
「モデル?」
「堤さん!」
「あぁ、なるほど、私ね。私がモデ・・・は?」
「今日の歌に出てくる女の子は、堤さんをイメージしたんだ!」
「はぁぁぁぁぁあ!?私!?私がモデル!?」
何勝手にキャスティングしてるわけ!?
「ほら、堤さん夏休み前いろいろ頑張ってたからさ、私たちからのプレゼントを、と思って」
「プレゼントじゃない!公開処刑だって!!」
「『いつもみんなの頼りもの』とか」
「あ、いや・・・」
「『まっすぐぶれずに突き進む』とか」
「べ、別に、そんな・・・」
「『元気で明るく可愛い子』とか」
「は、は、は・・・」
「うん?」
「恥っずぅぅぅぅぅうう!!!いや恥ずかしい恥ずかしい!!もう止めてそれ以上は!!別に私そんなんじゃないしっ!!」
「『胸が小さくて何が悪い!』とかね」
「あ、確かにそこは物凄く心に刺さった・・・って言わせんなよっ!!」
今思えば所々共感できる部分があったけど・・・!
「堤さんのことが観客の皆に知れ渡っていく、と思いながら歌を歌っていたら・・・興奮した」
「興奮すんな!!」
・・・これから歌を歌うときは、歌詞の意味は絶対に深く考えないでおこうと誓った私だった。
to be continued...
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