第30話 vs 弄び系天然

「ねぇ!」

「ん?」


出席番号25番、江口沙樹。


「ノート写させて!」

「いいけど・・・」


少し陰鬱な才女、宇羅明美さんといつもいっしょにいる子。あんまり接したことはないんだけど、宇羅さんいわく、相当に甘やかされて育てられたってことで、恐らくは天然の自己中心的な性格。今だって、思い切り寝ていた授業のノートを遠慮なく求めてきた。


「珍しいね。宇羅さんじゃ・・・、あぁ、彼女今日休みか」

「うん、体調悪いみたいで。も~、休まないで欲しいよね、わたしが困っちゃうよ~」

「あのねぇ、ちょっとは自分で授業聞けば?いっつも宇羅さんに頼らないでさ」

「だってぇ~、授業難しいしつまんないんだもん。それに、明美だって人の役にたってるから喜んでるんじゃない?」

は~、自分は一切悪くないってことね・・・。いい性格してるね、この子・・・。


昼休み。

「ねぇ!お昼ご飯いっしょに食べない?」

江口さんから昼食のお誘いが来た。

「いつもは明美といっしょに食べるんだけど、今日休みだからさ。一人で食べるご飯もつまらないし、いいでしょ?」

「そりゃいいけど、私、食堂に行くつもりだよ?お弁当とかじゃないの?」

「大丈夫!わたしもいつも食堂だから!」

そういうわけで、江口さんとは初めていっしょにご飯を食べることに。ちなみに最近の私はずっと食堂でお昼ご飯。何せ、食券が大量にあるからね・・・、無茶なお願いを受けたときの。

「わたしね、最近金欠でさ~」

「ありゃ、大変だね」

「だから昼ご飯代もあんまりなくて~、もの凄くお腹すいてるけど」

・・・うん?

「ダイエットとかしてないんだよ?だからご飯食べたくてしょうがなくて~」

・・・この流れって・・・。

「募金する人って偉いよね~、自分のお金を他人に捧げることができるってすごいなぁ~、あ~お腹ぺこぺこ!」

・・・これ、イラっとしてる私が心狭いのかな・・・?

「・・・お」


「ホント!?ありがと~!優しいなぁ、堤さんは!じゃあお言葉に甘えてご馳走になろっかな!」


「・・・」

私、『お』しか言ってないよ。しかも私が言おうとしたのって、お金貸してあげよっか、ってことだったんだけど。奢るつもりじゃなかったんだけど。

「・・・あのね」

「私、カツカレー大盛りにしよ~!」

聞いていないし図々しいしメニューの中でも値を張るカツカレーしかも大盛りにしてくるし!!


「じゃあ、いただきます!」

「はいはい・・・」

結局私がおごってあげることに。いや、食券いっぱいあるからいいんだけどさ、この子の神経の図太さときたら・・・。宇羅さんが陰口を叩きたくなる気持ち、わかるよね・・・。私は定番の唐揚げ定食にした。

「・・・まったく」

良い食べっぷりだこと。たわいもない話をしながら、私たちは食を進める。唐揚げ好きって人は多いと思うし、私も例に漏れずその一人。ウチの高校の唐揚げは美味しいっていう評判で、実際、私も好みの味付けで、唐揚げは頻繁に頼む。そんな好物が、最後の一個になったときだった。

「あれ?食べないの?お腹一杯になっちゃった?」

「いや、そんなこと・・・」

「食べたげよっか?」

「あっ、ちょ・・・っ」

え、何してくれてんの、このアマ。私断ったよね、っていうか、断る旨を聞く前に食べられたけど?

「美味しい~!」

「そ、そう・・・」

ぴくぴくと顔をひきつらせて返事をする。こういうの、普通トレードだよね。唐揚げを提供するなら、そっちはカツを差し出すべきじゃないのかな?

「ふぅ、ごちそうさま~!」

綺麗に完食ね・・・。舐め腐ってるね、このガキ・・・っと、口悪いよ、私・・・。食べ物の恨みは恐ろしいっていうけど、ここまでふつふつと何かが湧いてくるようなものだったっけ・・・?


昼食を食べ終わって、もう少し授業まで時間があるので私たちはその場で話す。

「でも、よくよく考えたら、わたし、明美じゃない人と昼ご飯食べるの初めてだな~。一年生のときから含めても」

・・・何か、宇羅さんが可哀想って思っちゃう私がいるんだけど。

「明美には劣るけど、違う人と食べるご飯っていうのもいいものだね~」

「・・・劣る・・・」

よくさらっと悪口を言えるよね・・・。これ自覚無いとしたら、そっちの方が問題だと思うけど。

「・・・しっかし、宇羅さんと仲いいよね。いっつも一緒でしょ」

「もっちろん!わたしと明美は大親友!相思相愛だから!」

「相思って、確認しあいっこでもしたの?」

「するまでもないよ~。目を見れば分かるっていうやつかな~!」

「あー、そうだねー・・・」

『知らないと思うけど、宇羅さん、あなたのこと影で死ねばいいのに、って言ってたよ』って伝えてやりたい・・・。ん~、でも、私が口挟んで二人の仲が悪くなったら駄目だし・・・。宇羅さんも宇羅さんで、江口さんに感謝するところはあるって言ってたし・・・。ここは我慢だね・・・。


「ねぇ、堤さんって彼氏とかいるの?」

「いないよ」

「だよね~、いるわけないよね~」

いるわけない、って・・・。いや、悪気ないんだよね、本人ね・・・。別にね、意味ないんだよね・・・。

「わたしもいないんだけど、いつかできるのかな~、とか考えるんだ~。そしたらちょっと不安でね~」

「不安って?」

「ほら、私と明美って一緒にいるから、好きになっちゃう男子も、もしかしたら同じ人になるかも~って思って」

「そういうもの?一緒にいたって、好きなタイプは違うんじゃないの?」

「そうかもだけど~、恋ってどうなるか分からないからさ~。もしそうなったら、明美とその男子を巡って争うことになる、ってことだよね~」

「争うって物騒だけど・・・。まぁ、そうか」

恋と友情は別っていうし。

「そう考えたら、明美が可哀想だな~って思うんだよね~」

「・・・何で?」

「だって、明美ってわたしのこと大好きだから、絶対、その男の子をわたしに譲ってくれるし。明美が失恋しちゃうから可哀想だな~って」

「・・・ホント、いい性格してるよね・・・」

「あ、でも、間を取って3Pっていう手もあるか!」

「ないわ!!」

「もしかして、混ざりたい?」

「なわけあるか!!」

「あ、もうそろそろ昼休み終わりだね~。帰ろっか!付き合ってくれてありがと!楽しかったよ~!」

「・・・私はどっと疲れたよ・・・」

「あれ?どして?」

「・・・何でもない・・・」


* * *


放課後になった。私は思うところがあって、家には帰らず、少し人里離れた、目の前に大きな湖が広がる場所に足を傾ける。幸いなことに周りに人は誰もいなかった。

「すぅ・・・」

私は大きく息を吸う。そして・・・。


「ずうずうしぃわぁぁぁぁぁああああああああ!!!」


湖に向かって大声で叫んだ。

「なに、あの子!?天才だよ!ある意味天才!あそこまで天然で的確に人をイラつかせるって最早天才の域だよ!!っていうか、唐揚げ食べるなよ!!最後の一個って絶対食べちゃ駄目なやつじゃん!!楽しみにして取っておいたやつじゃん!!どこのわがままプリンセスだよ、あの子はぁぁぁあああ!!」

・・・親の顔が見てみたい、ってこういうときに使うのかな・・・。

「はぁ、はぁ・・・」

大声で叫んでストレス解消っていかにも古典的だけど、スッキリした・・・。それにしても・・・。


「・・・私、宇羅さんのこと尊敬するよ、割と本気で・・・」


to be continued...

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