第29話 vs 直球系男子

「好きだ!」

「ん、ありがと」


出席番号4番、織戸おりべ琴雄ことお


「触らせてくれ!」

「それは嫌」


男子というものを、女子が好きな生物と定義するならば、それに最も当てはまるのがこの人。男子だったら勿論そういう感情はあると思うけど、織戸くんの場合はまるで包み隠さない。私含め、何人の女子が告白されたことか。一番最初はドキっとしたものだけど、日常茶飯事すぎて、もう慣れた。


「頭だけでいいから!撫でさせてくれ!」

「いーや」

「じゃあ、鎖骨!」

「だめ」

「だったら乳首をつまませてもらうだけでいいから!」

「何でエスカレートしてるの?」

普通、グレードは徐々に下げていくものでしょ。

「頼む!この通り!」

「しつこいね、ホント」

「・・・くっ、この渾身の土下座が効かないなんて・・・」

「土下座にどれだけの効果を期待してるわけ?」

「だが!実際、青年の土下座なんて一見の価値はあるだろ!?」

「そうかもしれないけど、もう見飽きたんだよ」

「なっ・・・。まさか、堤は、数多の男に土下座を強要するような生活が日常なのか!?」

「そんなわけあるか」

どこの女王様だよ。

「織戸くんのを見飽きたって言ってるの。女の子に物を頼む際、事あるごとに土下座しないでくれる?」

「だが!土下座を失ったら俺のアイデンティティが失われるだろう!」

「あんたは土下座のパイオニアなの?」

まぁ、確かに、何度もやってきたっていうのが分かるくらい綺麗なフォームだけど。


「・・・くぅ、ならば堤の体を触る為に、何か別の方法を考えなければ・・・」

「そういうのは心の中で思ってよ」

堂々とセクハラ宣言してるし。

「・・・む、ところで、堤はさっきから何をしてるんだ?」

「宿題だよ。期限はまだあるけど、こういうのは早めに終わらせておかないと」

「そうか、良かった。もしかしたら何か大切なことの邪魔をしているかもと思ったが、思い違いだったな!」

「十分邪魔だから」

机に向かっている時に土下座されながらセクハラ発言って、邪魔以外の何者でもないでしょうに。

「・・・しかし、宿題か・・・。はっ、そうだ、いいことを思いついた!よし、堤は俺のことなんて気にせず、勉学に集中してくれ!」

「うん、言われなくても、最初からあんまり気にしてないから」

返事も片手間だし。

「そんな・・・。もう少し気にしてくれても・・・」

「思春期の息子か」


肩を若干落とした後、織戸くんは私の視界から消えて、背中に回る。

「・・・何してるの?」

「なにっ!?何で気づいたんだ!?」

「脇から腕がすーっと入ってきたら、誰でも気づくから」

「くそ、もう少しで背後から揉めたのに・・・」

「揉めるか」

作戦がストレート過ぎるっての。

「しまった・・・。やはり、携帯電話を操作しているところを狙うべきだった・・・」

「携帯?」

「知らないのか?携帯をいじっている女子高生は、その間どんなにおイタされても全く気付かないのだ!」

「そんなわけないでしょ」

「ガセではない!事実、証拠VTRを俺は何度も使っている!」

「どんな企画モノだよ」

見たじゃなくて使ったって。しかも、その設定を信じるってバカなの?


「・・・こうなったら、最後の手段にでるしかないな・・・」

「何パターン用意してるわけ?」

その情熱、もっと別のことに活かせばいいのに。

「これを飲んでくれ!」

織戸くんは小瓶をポケットから取り出す。

「何これ?」

怪しさマックスだよね、これ。

「ただの睡眠薬だ!」

「寝込みを襲う気かい」

もう犯罪の域だけど。

「心配するな!胸を触るだけだから!他に何もしないから!」

「十分御免被るよ」

胸を触るってどれだけのことか分かってるの?

「大体、睡眠薬なんて何で持ってるわけ?」

「柳田に貰った!」

「またあの科学者・・・」

「手作りだそうだ!」

しかもお手製って・・・。飲めるわけないからね、怖くて。


「・・・まさか、全ての策が失敗に終わるとは・・・」

「逆に何で成功すると思っていたわけ?」

膝をついてうなだれるほどの自信の根拠はどこにあったんだか。

「・・・くそぉ・・・」

どうやったら全国大会決勝戦で敗北したみたいな、そんな雰囲気で悔しがれるかな・・・。

「・・・分かってないっ!!」

「・・・何が?」

急に大声で叫び出した。

「堤は何も分かっていない!!男にとって、胸が・・・、おっぱいがどれほどのものなのか!!」

「・・・どれほどって・・・」

「いいか、おっぱいとは・・・」


「俺たちが、おっぱいなんだよ!!」


「・・・」

「大きいとか、小さいとか、サイズは関係ない・・・!揉ませてくれたらいいんだよ!!そうだろ!?」

「・・・今日、陽射し強かったもんね。気温も高いし。直射日光で、頭ヤラれた?」

何言ってるんですか、この人。

「・・・どうして、どうして分かってくれないんだ・・・っ」

「分かるかよ」

分かる要素ゼロだから。

「・・・仕方ない。今日はこのくらいにしておくが・・・。だが!いつの日か、必ず堤に俺の理論を納得させてやる!!」

「無理だよ、一生」

叶う筈のない願いを述べて、織戸くんは帰っていった。


はぁ、男子って生き物は、いろいろとバカなのか何なのか・・・。まぁ、織戸くんは他の男子と比べてもノーマルな方だから、今日はそんなに体力使わなかったかな。声を荒らげることも無かったし。さて、宿題の続きを・・・。


「・・・ノーマル?」


土下座や睡眠薬を使ってまで、女の子の胸を必死に揉もうとしている人がノーマル・・・?


「・・・あれ、私、感覚麻痺してない・・・?」


to be continued...

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