第31話 vs 熟睡系面倒臭がり屋

「すーすー・・・」

「はぁ・・・」


出席番号12番、そぞろ正也まさや


「ちょっと!」

「・・・んあ?」


ありとあらゆることにやる気がない、怠惰で自堕落な性格。勿論部活なんて入っていないし、授業もサボって出なかったり、出ても寝ていたり。その癖、学校には毎日一応は来ているという、よくわからないポリシーがある。


「もうちょっといいだろぉ・・・。あと、4時間・・・」

「そこは、あと5分でしょ・・・。なに、がっつり眠ろうとしてるの」

今日も授業には出ずに、図書室で熟睡中。そして、下校時間になったにも関わらず起きない正くんを起こしてほしい、という依頼を受けて私が出動したわけ。

「・・・何だぁ、堤かぁ・・・。お早ようさん・・・」

「もう放課後だよ。学校は終わり。ほら、早く起きて」

「いいだろぉ・・・、まだ・・・」

「ダメ!今日は、この図書室早めに閉めるんだって。あなたが動かないと鍵かけられないでしょ」

私は右手に持った鍵を見せる。起こしたついでに鍵閉めてほしいって言われたし。

「ったくぅ、人の折角の睡眠を邪魔しやがってぇ・・・」

「・・・何さ。正くん、いつも寝起き機嫌いいのに」

珍しく、不機嫌そうな顔を私に見せる。

「めっちゃエロい夢見てたってのにぃ・・・」

「そんな理由!?」

「・・・ホント、あと一歩だよなぁ・・・。夢っていいところまで行って、肝心なところで絶対に覚めやがる・・・」

「はいはい、もう終わったんだから気にしないの!さぁ、起きて起きて!」

「・・・待てよ・・・。もう一度寝たらぁ、上手いこと続きから始まるんじゃないかぁ・・・?」

「いいから!」

「・・・ってなわけでぇ・・・」

私の声も気にせず、彼はまた目を閉じて顔を机に伏せる。

「あーもう、ほらー!」

こうなったら力業だよ!私はぐいぐいと彼を引っ張る。

「・・・んん・・・」

「ちょっとは気にしろっての!!」

私が思いっきり引っ張ってもぴくりともしないし!


「もぉ・・・。そんなぐーたらな性格だったら、将来苦労するよ?」

力業は諦め、寝かしつけないように話し続ける作戦に変更。

「・・・将来、ねぇ・・・」

む、食いついた。

「人間・・・ってか、生物にとって最も大切なことはなんだと思う・・・?」

「え、なに、急に。哲学?」

「・・・そいつはぁ、子孫を残すことだ・・・。要は、生殖活動だなぁ・・・」

「あー、なるほどね」

一理あるね。

「つまりセックスってことだ・・・」

「・・・あのね、今『あー』って納得したじゃん。わざわざ言い直さなくていいから・・・」

私は顔を赤らめる。

「・・・なんだぁ?別にこれくらい、慣れっこだろぉ?」

「慣れてないわ!!」

私全然素人だから!

「とにかくぅ・・・、俺が動かなくてもぉ、女性に頑張って動いてもらえば子孫は残せるからなぁ・・・」

「何の話!?」

「だから俺が好きなジャンルは騎乗位で・・・、あとは、男の方の時間が止まる、逆時間停止モノってことだなぁ・・・」

「聞いてないし!!」

「要約するとぉ・・・、人生に辛いことなんてたくさんある・・・。そんな時、俺っていうものは、単純に種を残す為の一匹の動物だ、って思ってしまえばぁ、少しは気が楽になるだろぉ・・・?だから、多少はぐーたらでもいいんじゃないか、ってことだよ・・・」

「正くんの場合、多少じゃないけどね、そのぐーたら具合」

途中に自分の性癖を挟まなければ、結構名言っぽいこと言ってるのに。

「努力が報われないことは絶対にあるんだ・・・。だからといって落ち込んでいたら、前には進めねぇだろぉ・・・?まぁ、努力することが悪いとは思わねぇし、一所懸命努力する奴は、俺ぁ好きだがなぁ・・・」

「・・・あなたが言うと、物凄く嫌味に聞こえるよ」

「そうかぁ・・・?」

実は、正くんは、最初に教科書をざっと一読しただけでほとんどの内容が頭に入ってしまう、いわゆる天才。テストも勉強しないでも上位を取れてしまうから、授業に出ないことを怒りたくても怒れない、教師泣かせ、というわけ。


「さてと、そろそろ本気で時間だから、いい加減起きてよ」

「・・・しょうがねぇなぁ・・・」

やっと起きた・・・。いっつも大変だよ・・・。正くんは眠そうに目をこすりながら、ようやく椅子から立ちあがって歩き出す。

「よし、オッケーっと」

図書室から出て鍵を閉める。任務完了まで時間かかるなぁ・・・。

「ってあれ?正くんは?」

え、いっしょに出てきたよね?

「どこに・・・ってうわぁ!」

「・・・活力が切れた」

「早過ぎるわぁ!!」

そこには廊下に寝そべる正くんがいた。

「あー、これ無限ループ!?もう知らないからね!私の役目は終わったからほっとくからね!」

私は正くんを無視して背を向ける。図書室から遠ざかり階段を下る。


「・・・まったくもう・・・」

よくもあんなに気が抜けるよ、ホント・・・。ま、どうせ廊下で寝れるものじゃないし、すぐに起きるでしょ。

「・・・」

・・・流石に起きたよね?廊下って硬いし汚いし、寝心地いいものじゃないだろうし・・・。でも全然人が付いてきてる気配しないんだけど・・・。私は階段を再びあがり図書室の前へと目をやる。

「すーすー・・・」

「起きろよ!!」

やっぱりそのまま廊下で眠っている正くんに、私は大声で叫ぶ。

「・・・ん・・・。だってぇ、堤がそのまま寝とけばって言っただろうがぁ・・・」

「言ったけど!!本気で廊下で寝るとは思わないし!!それにそのままほっといたら私が何かしたみたいでしょうが!!」

・・・はぁ、正くんは全然ぶれないなぁ・・・。

「ほら、一人で動くのが大変なら、私の肩貸してあげるから。はやく行くよ」

意外とすんなりと正くんは私の肩を借りる。ちょっと重いけど、動かすためには仕方ないか。

「・・・ったくぅ、俺みたいなのはほっときゃいいってのに、損な性格だなぁ・・・」

「自覚してるよ!まったくもう・・・」

思えば一年生のとき、今と変わらず動かない正くんを起こしたのが始まりだったっけ。あの漫を動かした、って、そこから私、正くんの世話役みたいになっちゃったし。

「なぁ、堤ぃ・・・」

「なに?」

「いつも、ありがとなぁ・・・」

「・・・ふんっ」

結構な苦労をかけられているのに、たった一言のお礼で喜んでしまう私。やっぱり、損な性格してるな、って改めて思う次第だった。


to be continued...

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