第26話 vs 追及系マンガ好き

「納得できないっ!!」

「・・・うおっと」


出席番号40番、和数わすう恵香けいか


「これは納得できないよ!!」

「急に叫ばないでよ・・・」


ウチのクラスの出席番号最終番。美術部・・・ていうか、今や漫画研究会としての機能の方が強いらしいんだけど、そこに所属している一人。漫画やライトノベルが大好きみたいで、中尾くんとも仲良くいつも話している。ただ、漫画に入り込みすぎて、しばしば意見の食い違いからか喧嘩になってるけど。今も、学校にも関わらず漫画を熟読していて、読み終わったら急に声を発した、ってな感じで・・・。大体、東葛さんのチェックに引っかからないわけ?それ・・・。


「だよね!堤さん!」

「いや、知らないけど・・・」

近くにいたからって絡まれちゃったよ。大体、私、漫画あんまり読まないから今読んでるのも初めて見るんだけど。

「これ見てよ!」

和数さんは漫画の最後の方のページを見せる。

「・・・子供?」

「そう、子供!!この漫画好きでずっと読んでたんだけど、最近最終回迎えたの!どんな終わり方かな、って思ったら、まさかの数年経っての出産エンドだよ!!」

「え、駄目なの?」

漫画にはありがちな最終回だと思うけど・・・。

「駄目だよ!良く考えてみてよ!出産エンドってことは・・・」


「そーいうことでしょ!?」


「いや、どういうこと!?」

言葉足らず過ぎる!!

「これバトル漫画なの!今まで何十巻とかけて強い敵と闘ってきて、名言を沢山言って、辛い試練も乗り越えてきた。そんな格好いい主人公とヒロインが最終的にベッドの上でアンアン言ったってことでしょ!?」

「言い方!!もっとオブラートに包めないわけ!?」

「え?包んでこれだけど」

「あ、まぁ、そうだね・・・」

確かに直接的なワード出してないし。あー、これは私が最初の『そーいうこと』で察するべきだったのか・・・って何で私がちょっと反省してるんだか・・・。でもそっか。言っても十数年も少年として闘ってきて、その姿に憧れてたんだろうしな・・・。だったら、最後に急に数年後とかで子供が生まれてる、っていうのも、納得できないこともあるか・・・。

「・・・じゃあ、和数さん的にはどういうエンドが好みなの?」

「いや、出産エンドはお互いの想いが結ばれた、っていうことで悪くないとは思うんだけど・・・」

「え?でも、さっき納得できないって・・・」

「だから!私が納得できないのは数年後、とかでいきなり時代が流れちゃうことなの!!」

「・・・つまり?」


「ベッドシーンを描写しないのは納得できないっ!!」


「いや、描写できるかぁぁあああ!!」

そこかよ!?そこを求めていたわけ!?

「少年誌でしょ、その漫画!!そんなもん描けるわけないでしょうが!!」

「だって気になるじゃん!!するとき、正常位と騎乗位どっちでやったのかな、って!」

「どっちでもいいわ!!」

「BGMとかかけるタイプなのかな、って」

「心底どうでもいいよ!!」

「前戯にどれくらい時間かけるのかな、って」

「好きにさせてやれよ!!」

何でそこまで想像力豊かにできるわけ?

「あとさ、私、他にもラノベ原作のアドベンチャーゲームとかするんだけど、原作とは異なったエンドを迎えることが多くって。その中でやっぱり出産エンドもあるの!」

「・・・それで?」

「それも描写すべきだよ!!」

「だからできないって!!」

それしたらもうエロゲーじゃん・・・。

「だって気になるし!!マルチエンドだから、主人公ってヒロイン毎にどんな攻め方するのかな、とか、それぞれのヒロインが好きな体位は何なのかな、とか!!」

「想像にお任せだよ!!」

大声でこの子何言ってるんだか・・・。


「・・・はぁ、もしかしたら、この漫画は少年誌史上初の快挙を成してくれるかな、って期待してたのに・・・」

「快挙じゃなくて暴挙でしょ。今まで蓄積してきた信頼が一気に暴落するから」

そんなところ気にならないでしょ、普通・・・。

「仕方ないね。ここはあの手を使うしかない」

・・・嫌な予感するなぁ・・・。

「ねぇ!堤さんにお願いがあるの!」

「・・・断っていい?」

「えっ、はやくない?まだ何も言ってないのに!」

「だって・・・」

絶対ろくなことじゃないし・・・。

「とりあえず聞いてよ!聞くだけ!」

「まぁ、聞くだけなら・・・」

「とにかく、ベッドシーンが描かれなかったということは、私が同人として描くしかないってことでしょ?」

「描くしかない、ってことではないと思うけどね」

一応美術部だから絵は上手いのだろう。

「そしてね、この漫画ってアニメ化もされてて!ヒロインの声優って小林敦子さんなんだよ!」

「・・・ん?」

あれ、何か変な方向に向かってない?

「それで、堤さんの声は敦子さんに似てるでしょ?」

「・・・まぁ、そうらしいね・・・」

本人、そういうの分からないんだよ・・・。あと、私がその声優と似た声っていうのはもはや常識なのね・・・。


「だから、私が同人を描いたとき、喘ぎ声をアフレコしてほしいの!!」


「やっぱ断るよ!!」

嫌な予感ドンピシャだよ!!

「大丈夫!初めてだから若干下手でも我慢するから!」

「そういう心配してないから!!技術が足りなくて、ってことじゃないの!!」

「え、じゃあなんで・・・」

「恥ずかしいからに決まってんだろ!!」

何でそれに発想がいかないかな・・・。

「でも恥ずかしがってたら声優になんてなれないよ?」

「いや私の夢、声優じゃないから!!」

「えぇ!?」

「『えぇ!?』じゃないわ!!」

何でマジ驚き!?

「でもセクシー女優になるのは大変だって!!」

「そっちでもねぇよ!!何故にその2択!?」


いつの間にか、私の夢が周りからえらく限定されていたことに気付いた今日この頃だった。


to be continued...

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