第25話 vs 発想豊か系患者
「ふんふん~♪」
「ご機嫌だね」
出席番号9番、
「あ、分かる?」
「うん、分かりやすすぎるほどに」
感情がすぐ顔に出るタイプで、嘘をつくことが向いていないまっすぐな人。基本的にはポジティブだから、それにつられて周りが自然と明るくなることも多いんだけど、逆に機嫌が悪いときはとことんぶすくれて落ち込む。今は鼻歌を歌ってるくらいだから、相当にご機嫌みたい。
「何かあったの?」
「いや、今日実はこれからビッグイベントがあってさ!」
「イベント?」
学校行事としては何もないし・・・。プライベートなことか。
「あー、早く学校終わらないかな~」
「なに?新しいゲームの発売日とか?」
「違う違う。今日ね、ぼく歯医者なんだよ!!」
「・・・はいしゃ?って、あの歯医者?」
「その歯医者!あー、待ち遠しい!」
「・・・何でそんなにテンションあがってるわけ・・・?」
純粋な疑問だった。
「え、逆に何でテンションあがらないの!?」
「いや、あがらないよ、どう考えても・・・。だって、できるなら歯医者って行きたくないじゃん!治療痛いし・・・。え、痛いのが好きってこと?」
「違うよ、ぼくも痛いのは嫌いだし。それにね、自慢じゃないけど、ぼく、ほとんど虫歯したことないんだよ!毎日懇切丁寧に磨いているからね」
「じゃあ、行く必要ないんじゃ・・・」
「これは半年に一回の定期検診!長かったなぁ、前回の検査から・・・」
うきうきしてるなぁ・・・。ただ、理由は皆目見当もつかないけど。
「ねぇ、教えてよ。何でそこまでわくわくしてるのか・・・」
結構気になってきた。
「よし、だったらひとつずつ教えてあげる!」
ひとつずつって・・・、そんな段階分けして説明するほどのことなの?
「じゃあまずはさ、口をあーんと大きく開けて、ぼくに間近で見せてくれない?」
「嫌だよ!そんな恥ずかしい!」
何その急なリクエスト!
「そう!」
士会くんはぴっと人差し指を立てる。理想的な返しだったの?
「口を見せるって恥ずかしいんだよ、ぼくも嫌だし。でも、歯医者だったら躊躇なく見せるでしょ?」
「まぁ、治療だしね」
「その時点で歯医者っていうのは高尚な空間なの!」
「・・・ごめん、もうちょっと詳しく」
まだ掴めないんだけど。
「冷静に考えてみて!口を他人と接触させるっていうのは、歯医者を除いたら舌を入れるかしゃぶるときぐらいでしょ?」
「あー・・・まぁ・・・」
その言葉の意味が分かる自分が嫌だな・・・。あと、言われてみればって若干納得した自分も。
「その二つを求めようとすると高い資金がかかっちゃうけど、歯医者だったらそんなにお金はかからないよね?」
「・・・うん・・・?」
「ぼくの場合、定期検診だから、診てくれるのは歯科助手の年上の綺麗なお姉さんで!そんな人に手袋越しとはいえ、粘液がまとわりついた性器の一種である口をいじくって貰えると思うとわくわくしないわけないよ!!」
「ヘンタァァァァァァァァイ!!!!!」
相当な音量で叫ぶ。
「我ながらこうもストレートに変態と罵るのもどうかと思うけど、断言せざるを得ないよ!!どんな人生を送ってきたら歯医者をここまで卑猥なものとして考えられるわけ!?」
甘かった・・・。言っても私、歴戦の勇士として耐性付いてきたと思ってたんだけど、まだまだ全然だね・・・。
「そんな、変態だなんて・・・。自覚してるけど」
「してるんかいっ!!」
だったら治せよ!!
「前も何回か歯医者の素晴らしさを熱弁したんだけど、みんなポカンとしてたから、あれ、ぼくの方がおかしいのかな、ってつい最近気づいた」
「つい最近かよ!!遅いわ!!」
「・・・まぁ、堤さんだったら理解してくれるかな、って、少しは期待してたんだえけどね・・・」
「しゅん、としないでよ!!私を何だと思ってるわけ!?」
「だってよく考えてみてよ!お姉さんにいじられて唾液が出たり、お姉さんが『舌・・・上に・・・動かして・・・』とか言うんだよ?もうプレイだってば!!」
「気持ち悪いから!!やめてよ!!」
絶対、歯医者さんの言い方、そんなねっとりとした間じゃないし!!
「ホント、歯医者を快楽の対象にするって、どんな発想力してるの・・・?」
「あ、急に褒められても・・・照れる」
「褒めてないから!!」
* * *
学校が終わって、放課後になって、士会くんはすぐに教室を出ていった。今日一日ずっとわくわくしてたな・・・。別に観察していたわけじゃないけど、顔に出る分目立つんだよ・・・。それにしても、今度もし歯医者に行くことになったら、絶対今日の話フラッシュバックするんだけど・・・。診察中に思い出し笑いなんかしたら間違いなく変な目で見られるよね・・・。
「ふぅ、虫歯にだけはならないように気をつけよ・・・」
to be continued...
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