第27話 vs 熟練系妄想家
「相談があるんだ!」
「相談?」
出席番号15番、
「実は今日、告白をしようと思うんだ!」
「おお!」
名前が、っていうのは偶然だと思うけど、歌が上手くて音楽にも造詣が深い。部活は軽音部で、主な担当はボーカルらしいんだけど、ギターとかもできるみたい。そんな彼から学生にとってのメインイベントについて相談された。私も女の子。色恋沙汰にはシンプルに興味がある。
「そうなんだ!相手は誰?同じバンドの子?」
「いや、部活は関係ないんだ。ふと見かけた彼女の仕草から性格から、全てが可愛く思えて、結果好きになってしまったんだ」
「わー、いいねぇ、そういうの!青春だね」
「実は生まれて初めての告白で緊張しているんだ・・・。だから本番の前に、誰かに相談を、と思って」
そっか、やっぱり不安だよね。もし振られちゃったら、とか思うと。
「でも失敗を恐れちゃ駄目だよ!自分の気持ちをはっきり伝えないと、何も始まらないから!」
まぁ、私も偉そうにアドバイスできるほど恋愛経験ないけどね。
「確かにそうだ・・・。だが、自分で言うのもなんだが、この告白はかなりの確率で成功すると思ってるんだ。絶対その子は俺のことが好きだと思うんだ!」
「え、そうなの?」
そんなはっきり人の好意って分かるものじゃないと思うけど・・・。凄い自信だな。だけど、お互いが好き同士だったらそれに越したことはないよね。
「その子って誰?」
「本岐さんだ!!」
「あー、本岐ちゃ・・・え?」
本岐って・・・。
「・・・ねぇ、本岐ちゃんって、あの本岐ちゃん?」
「そう!みんなのアイドル、本岐詩南さんだ!」
・・・出た。うわー、あの気遣いアイドルの悲しき犠牲者がここに・・・。一番手を出しちゃいけないとこだよ・・・。前に本人から聞いてるからね?あの子、一切男子に興味ないんだから・・・。
「えーっとね、何で本岐ちゃんが獨酒くんのこと好きだと思うのかな?」
ここはどうにかして未然に防がないと・・・。
「あの子は僕に物凄く優しんだ!」
あー、もう、典型的な被害者じゃん・・・。
「・・・で、でも、本岐ちゃんって誰にでも笑顔を振りまくいい子じゃない?」
「確かに、堤さんの言い分も分かる!本岐さんの優しさは男子に皆に注がれているから、ただの勘違いかもしれないと言いたいんだろう?」
あれ、結構分かってるじゃん・・・。
「でも!俺は他の憐れな奴とは違う!俺こそが彼女の本命だ!」
「あー・・・」
全然分かってなかった・・・。そう言ってる獨酒くんが一番憐れだよ・・・。
「そ、その根拠は・・・?」
「この前、何気なしに席に座っていたら、本岐さんの方から急に話しかけてきて、『獨酒くんって歌が上手いんだよね?いいなぁ、聞いてみたいなぁ。今度、一緒にカラオケ行く機会があったら聞かせてね!』って言われたんだ!」
何でそんなこと言っちゃうかなぁ、あの子は!
「女子が男子をカラオケに、しかも、二人きりで誘うなんて好き以外の何者でもないだろう!加えてカラオケということは、その先も望んでいるってことだ!」
・・・妄想が捗っている・・・。本岐ちゃんのことだから、一緒にっていうのもクラスの打ち上げか何かでみんな一緒に、っていう意味に決まってるのに・・・。
「あ、あのね?」
「さらに、告白の準備も完璧だ!」
私の話も聞こうとせずに、獨酒くんは鞄の中から何か小さな箱を取り出す。
「・・・何それ?」
「指輪だ!」
「いや、早いって!!」
例え脈アリだったとしてもそのプレゼントはないでしょ!
「半年分のアルバイト代を全部つぎ込んだ!」
「は、半年・・・?」
なにしてるの、この人・・・。お金の使い方間違ってるよ、絶対・・・。大体、指輪はとりあえず付き合うことが決まってからでしょうが、普通・・・。
どうしよう、ますます言いづらい雰囲気に・・・。
「よし!堤さんと話して勇気が出てきた!早速告白に行ってくる!」
わわ、このままじゃ・・・。救えるはずの命を見殺しにすることに・・・。
「あ、ちょっと待って!」
「うん、何だ?」
私の口は、死地に向かおうとする獨酒くんを勝手に引き止めていた。
「えっとね・・・、大変言いづらいことなんだけどね・・・」
思わず口がつっかえる。
「何だ?はっきり言うんだ」
・・・じゃあ、お望み通りに・・・。
「えーと、本岐ちゃんね・・・。男子のこと、一切そういう目で見てないよ?」
「え?」
うわ、帰ってきたら我が家が火事になっていたみたいな顔してるんだけど。現実が信じられないみたいな表情なんだけど。
「は、ははは、何を言うんだ・・・。何の証拠があって・・・」
「本人から直接聞いたから」
「そ、それはあれだ・・・。きっと本人も照れ隠しで言っただけだ・・・」
「いや、めちゃくちゃ平常心で、しかも即答だったんだけど・・・」
「う、嘘だぁぁぁぁああああああ!!!」
あー、やっぱり言わない方が良かったのかなぁ・・・。その方が獨酒くんは幸せだったのかなぁ・・・。でも、本人に振られる方がダメージ大きいと思うし、だとしたら前もって知っていた方が・・・。うー、何か申し訳ないよ・・・。
「ど、獨酒く・・・」
「・・・と、こんなものか」
「へ?」
私が肩を落とす彼に励ましの言葉をかけようとしたら、至極冷静な表情でトーンの低い声が返ってきた。
「今回は及第点といったところだな」
え、なにこの変貌。さっきまで世界の終わりだと言わんばかりに絶望してたのに、急にけろっとしちゃってるんだけど。
「それでは、堤さん。楽しかった」
「いや、待って!?」
何事も無かったように出ていく彼を私は慌てて引き留める。
「どういうこと?失恋して落ち込んでたんじゃ・・・」
「プレイだ」
「・・・プ、プレイ?」
「僕なんかが本岐さんに相手にされていないことは重々把握している。本岐さんが僕を好きであると仮定し、そして告白し、見事に振られ失恋し、周りからあいつ自意識過剰だよ、ウケる(笑)と見下されるところまでの妄想が1セットだ。最上級の期待からの絶望への落差、Mには堪らない」
「・・・じゃ、じゃあその指輪は・・・?」
「これはただの箱だけだ。中には何も入っていない。他人を、そして自分すら騙してこそ、真の妄想なのだ。途中まで僕も彼女に告白し、そして成功すると疑っていなかった」
「・・・」
「これが、プロの妄想家というものだ」
キメ顔をされて出ていった。え、何これ、意味不明瞭すぎるんだけど。じゃあ何?私は獨酒くんのありもしない妄想に付き合わされて、彼の行動に切ないなぁ、とか思慮してたってこと?・・・それって・・・。
「果てしなく時間の無駄だよ!!」
to be continued...
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