第17話 vs 残念系イケメン
「ちょっとぉ、聞いてくれよ」
「あ、うん」
出席番号17番、
「この前さぁ、すっげぇ面白いことがあったんだよ!」
「・・・はぁ」
身長も高くてスタイルも良くて、顔もしゅっとしている。いわゆるイケメンと呼ばれる部類に入るのだろう。部活はバスケ部で、格好よくプレイする姿なんてのは、女子からの黄色い声援の対象になっている。スペックは高いんだけど、どんな人にも欠点はあるというか・・・。
「何だよ、はぁって。今からこのオレが超絶面白い話をしてやろうとしてるのに」
「あのね、いっつも言ってるけどさ、何でそこまで自分でハードル上げるわけ?面白い話で大事なのは振り幅でしょ?」
「いや今回は大丈夫だから!絶対面白いやつだから!」
そのハードル超えたことないんだもんな・・・。超えるどころか、ジャンプしてもまったく引っかからずに下をくぐるくらいのレベルだし・・・。
「まぁいいや、話してみてよ」
「ほら、犬は飼い主に似るって言うじゃん?この前な、部活の練習でランニングしてた時さ、犬の散歩をしてたおばさんがいたんだけどさ、犬と飼い主の顔がさ、もうめちゃくちゃそっくりだったんだよ!ほんともうどっちがどっち?みたいなさ!」
「・・・」
「ランニング終わった後、部活のメンバーと爆笑!似すぎだろ、って言ってさ!」
「・・・」
「・・・くくっ、思い出しただけで笑えてくる・・・!」
「・・・」
「ほんと見せてやりたかったわぁ、ありゃもう奇跡の域だよ」
「・・・」
「・・・ありゃ?どした、堤?」
「えっと、終わり・・・?」
「うん、終わり!どうだ?面白いだろ!」
「つまんなぁぁぁああああ!!!」
「はぁ!?」
「はぁ!?じゃないよ!!そりゃこっちの台詞!びっくりした!あまりにも面白くなかったから!」
そう、南泉くんは、会話が絶妙に面白くないのだ。黙ってりゃ文句言わさずイケメンなのに・・・。みんな会話でがっかりするんだよな・・・。
「いや面白いって!ナイチンゲールだったら大爆笑だって!」
「ほら、何でそんなこと言うかな・・・」
ナイチンゲールってワードなんにも関係ないし・・・。更に傷口広げてるよ・・・。
「だから言ったじゃん・・・。ハードルあげるな、って。私、地面にめり込むくらいハードル下げてたのに、それすら超えなかったよ・・・」
「何言ってんだよ?ハードル走するときハードルは地面に埋めないぞ?」
「真面目か」
そういうこと言ってんじゃないし、素で指摘するところがまた面白くないし・・・。
「大体最初に何で犬は飼い主に似るとか言っちゃうわけ?それで話のオチがもろ分かりになるでしょうが・・・」
「あ、そうか!あー、しまったぁ、それ言わなきゃ面白かったのか」
「いやいや・・・。そもそもさ、言葉じゃ分からないじゃん、どれくらい似てたかなんて。写真とかあるわけ?」
「いや、ないけど?」
「ほらもう駄目じゃん・・・。そういう何かと似てるって話するには物証は必要でしょ?」
「・・・っ!!」
「・・・あのさ、その衝撃の真実を受けたような驚き顔はさ、故意にやってるわけ?それとも素なわけ?」
「ふふ、どっちだと思う?」
「どっちでもアウトだよ!ってか、論点はそこじゃないよ!」
会話が進めど進めど面白くない・・・。
「小学生でももう少しマシな話できるからね・・・」
「む!そりゃ心外だよ!いくらなんでも小学生とはレヴェルが違うからね?」
・・・そのレベルの発音はわざとやってんの・・・?無駄にイラっとするだけで全然面白くないし・・・。もう面倒くさいからいちいち言わないけどさ。
「ってか堤~。さっきから意見が辛辣だって!何かいらいらしてない?あ、もしかして生理とか?」
「はぁ~~~~~~~」
私はとてつもなく大きなため息をつく。
「さっきの小学生発言を受けて、大人な話題にしようとしたんだろうけどさ・・・。下ネタはよっぽど上手くないと、ただ相手を引かせるだけだから。しかも、もし本当にそうだったらどうするわけ・・・?」
「え、あ、そうだったのか!?ご、ごめん、デリカシーが無くて・・・」
「いや、違うから・・・。そこでマジになって謝ったら流れが止まるでしょ・・・」
最早才能だな・・・。やることなすこと全部面白くない方へと進んでるよ・・・。
「南泉くんさぁ、もっと普通にできないわけ?絶対損してると思うけど」
「んなこと言ったって、オレお笑い大好きだからさ、やっぱ笑いの要素を会話に散りばめたいじゃん!」
「止めとけばいいのに・・・」
何で自ら茨の道を歩むかな・・・。
「堤には分からないかもしれないけど、オレはお笑いが全てなんだ!人生の四分の一を占めてるんだよ!」
「無駄にリアル!」
「へ?」
「そこは誇張して100%とか言っとけよ・・・。全てって言っときながら何で25%なわけ・・・?」
「え、だって睡眠とか食事とか諸々考えたら・・・」
「真面目か!!そうじゃないっての!!嘘でもいいから盛るのはお笑いの常套手段でしょ・・・」
私、そんなにお笑いに詳しくないけど、そんな私から見ても壊滅的にセンスが無い・・・。
「あ、なるほど・・・。さっきからずっと的確なアドバイス・・・!も、もしかして、堤って物凄く面白いのか・・・!?」
「・・・南泉くん基準にしたら、全員が面白くなっちゃうと思うけど」
「なぁ!オレのお笑いの師匠になってくれないか!?」
「・・・どこをどうしたらそうなるわけ・・・?」
私のセンスは至って普通なだけで全然飛び抜けてないのに・・・。勿体ないんだよな、南泉くん・・・。ここは一つ言ってあげるか。
「あのねぇ、南泉くん。南泉くんは他の男の子は羨まれるものを一杯持ってるんだからさ、もっとそこに胸を張りなって。お笑い好きは結構だけど、ほどほどにし・・・」
「ぷくくっ・・・」
「・・・?」
私が言い終わる前に、南泉くんは吹き出して笑った。
「・・・何か可笑しいこと言ったっけ?」
「いや、これが自虐ネタのやり方なんだなぁ、って思って・・・」
「自虐・・・?」
「だって堤、張るような胸無いから・・・」
ぱちんっ!!!
「あたぁっ!!」
「えーと、師匠云々の話だったね。いいよ、ほんの少しだけ、手ほどきしてあげる。結構難しいんだよ?いい音鳴らしてビンタするのって。まぁ、私は素人だから、痛くなくはできないけど」
「ちょ、堤!?な、なんか、ゴゴゴゴって見えるけど!?」
「ははは、そんなわけないでしょ。漫画じゃあるまいし」
「ご、ごめんって!謝るから止めてって!!」
「・・・それは、フリと取っていいんだよね・・・?」
to be continued...
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