第18話 vs お気楽系料理ベタ
「はい、あーん」
「いやいやいや・・・」
出席番号38番、
「あれ?食べないの?」
「展開が急すぎるから」
将来の夢はお嫁さん、なんて公言しているちょっと昔の女の子みたいな子で、その修行の為か、家庭科同好会なるものに所属している。手先は器用みたいで、自分で裁縫とかもたまにやってるから、そのスキルは羨ましい。それで、今はどんな状況かというと、前触れもなく私の隣の席に座ってきて、お弁当をあけて私に卵焼きを食べさせようとしているところだった。
「お腹すいてるよね?」
「勝手に決めるなよ・・・」
多少は空いてるけどさ。
「でも何でまた突然?」
「料理はやっぱり日々精進だから!それに折角作ったんだから、自分じゃなくて他の人に食べてもらいたいじゃん?」
「まぁ、それはね」
見た目は悪くなくておいしそうだから、好意をいただいておくか。
「じゃあ、いただきま・・・」
「まぁ、ぶっちゃけ、アタシの料理って殺人兵器ってもっぱらの評判でさ!他の人が一切食べてくれないから堤っちに頼んでんだけど」
「自分で言うのかよ!!」
「ん?」
「いや、自分で言っちゃうわけ!?殺人兵器って!そういうのって普通、自分では自覚していないから周りが困るんだよね!?ってか、自覚していて尚、私に食わせようとするなよ!!」
「だって、アタシの料理の腕って最早学校の七不思議に数えられるくらい有名だし。知らないのって堤っちくらいだから」
「・・・そんなになの・・・?」
何で私は逆に知らないわけ・・・?
「とにかくさ!ちょっち食べてみてよ!」
「私まだ死にたくないよ・・・」
「大丈夫だって!言っても料理だよ?死ぬ確率なんか一割もないって」
「そこは0であれよ!」
「とにかく、あーん」
「はぁ」
私は渋々もぐっと卵焼きを口に入れる。
「どう?」
「・・・別に不味くないけど・・・」
格別美味しくもない・・・。
「何かさ、甘み感じる?」
「甘み?いや、それは別に・・・」
「あれ?おっかしいな。砂糖結構いれたんだけど。あ!もしかしたら調味料間違えたかも・・・。どっちも白かったから」
「いやいや、砂糖と塩間違えるって何年前のコメディ?」
今日日誰もやんないよ・・・。
「砂糖とシリカゲル」
「未来だよ!!え、なにその間違い!?一歩先進んでるよ!!」
シリカゲルってあれだよね!?小さい袋に入ってる食べられませんって書いてあるやつだよね!?ていうか何で台所にシリカゲルを裸で置いてるわけ、この子!?
「私飲み込んじゃったけど!?大丈夫なわけ!?口に入れても!!」
「まぁ、平気じゃない?」
「トーンが軽いよ・・・。もし体に何かあったらどうしてくれるの・・・?」
何かにつけ能天気なんだよな、里謡さんって・・・。
「分かった、じゃあこれでいいでしょ?」
そう言うと、彼女はもう一個の卵焼きをぱくっと食べた。
「はい!これでもし死ぬとしてもいっしょだから!」
「だから私は死にたくないんだって・・・」
不安だったので、すぐに携帯でシリカゲルについて調べた。飲み込んだところで体に害はないみたい。良かったよ・・・。
「にしても、この卵焼き、何かイマイチだね」
里謡さんは、初めて食べたみたいなリアクションをした。・・・まさか。
「里謡さんさぁ、料理で一番大事なものって何だと思ってる?」
「そんなの決まってるよ!料理は愛情!」
「あー、うん、そうだね・・・」
だよねー、そういう意見だよねー。いや、分かるよ?愛情が大事っていう考え方も。でもさ、それってある程度料理ができる人が言うことだよね。それに、例えば『おいしくなぁれ』なんて言いながらパン生地こねてたら、ツバとか入っちゃう可能性あるし、止めたほうがいい気もするけど・・・。
「えーと、じゃあ2番目は?」
「ん~、見た目かな」
「味は!?」
全然味に関心持ってないんだけど!
「ねぇ、里謡さん、ちゃんと味見してる・・・?」
「あはは、決まってるじゃんそんなの。してないよ?」
「しろよ!!」
全然笑い事じゃないし!
「味見しないから殺人兵器とか言われるんでしょ?」
「いや、それは違う。誤解誤解」
「何が・・・?」
「アタシも最初は味見してたよ?でも、アタシの料理をみんなが殺人兵器とか言うから、アタシも怖くなって味見できなくなったんだから。つまりね、今のアタシの料理は、周囲の評価とアタシの傷心の負のスパイラルが生み出した悲しき産物なんだよ・・・!」
「偉そうに言うな」
聞いてて訳わかんないし。
「とにかくね、人に料理をするのならまずは味見すること!自分が美味しいと思えば大概は他の人も美味しいと思うんだから。良い?」
「え~」
「え~、って・・・。味見に何かトラウマでもあるわけ?」
「だって面倒だし」
「ぺろ、じゃん!ちょっと舐めればいいだけでしょ?そこを面倒臭がらないの!ほら、将来良いお嫁さんになるんならさ、しっかり今から鍛えて置かないと」
「まぁ、そりゃそうなんだけど。あ、でもさ、最近は料理はもういっかな、とも思ってるんだ」
「・・・何で?」
「ほら、世の中には飯マズ属性を持つ嫁さんが好きな男性もいるって聞いたし!だとしたらアタシはズバリその部類でしょ!」
「・・・いや、絶対その男性の方がマイノリティだから・・・」
この子、一生料理が上手くならなさそうだなぁ、と感じた瞬間だった。
to be continued...
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