第16話 vs 女王様系風紀委員

「検査します」

「え?」


出席番号29番、東葛とうかつ風季かざき


「さぁ、鞄の中を見せてください」

「ちょ、急に!?」


私の学年の風紀委員長。風紀を取り締まる身だからなのかは知らないけれど、誰に対しても敬語で話す。細かいところまで指摘してくるから、指摘される側にとってはなかなかに厄介な存在って言われているけど、やり方が上手いのか、相手の改善率はすこぶる高い。そして今、私は抜き打ちの荷物チェックを受けるところだった。


「突然行わないと意味がないでしょう?事前に告知したら、違反物は持ってこないに決まってますから」

「そりゃそうだけど・・・」

でもいくら何でも唐突だな・・・。

「どうしました?もしかして、見られたら困るものでもあるんですか?」

私が本能的に鞄の中身を出し渋っていたら、東葛さんが怪しんでくる。まぁこういうのは、時間をかければかけるほど何か後ろめたいことがあるって思われちゃうよね。

「・・・いいや、あまりにも急だったからちょっとびっくりしちゃって。いいよ、好きなだけ調べてくれて」

「おや、随分と余裕ですね」

「うん。よくよく考えれば、私に隠すものなんて無かったし」

違反物っていったら、付け爪とかマニキュアとか、そういったお洒落アイテムかな。私って、そういったものには興味ないし。あとは男の子だったら、いやらしい本とかか。まったく、わざわざ学校に持ってくることは無・・・。


・・・本?


「あぁーーーーーーーーー!!!!」


がばっ!!私は東葛さんが調べようとしていた鞄を大声をあげながら取り上げた。

「・・・どうしました?」

「あ、えっと、その、ね・・・」

うわー、怪しさマックス・・・。誤魔化すの下手すぎかよ、私・・・。東葛さんが懐疑の目で睨んでるよ・・・。

「あ、ほ、ほら!携帯がさ、鞄の中に入ってるでしょ?そ、その中にさ、見られたら恥ずかしいメールとか入ってるかもだし・・・。あは、あははは・・・」

「芸能人のゴシップじゃないんです。携帯の中まで調べるわけがないでしょう」

「あ、そ、そうだよね!私ったら早とちりを・・・」

と、とにかく!鞄を奪還したんだから、何とか隙をついてあれを隠さないと・・・。

「まったく、そんなに汗をだらだら垂らして・・・。メス豚が」

「メス豚ぁ!?」

脈絡が無さすぎる悪口!!汗をかくのは生理現象ですけど!?あ、い、いけない。反応してる場合じゃない。今は早く・・・。

「それで?あなたが探しているのはこれですか?」

「へっ!?」

私は東葛さんが右手に握っているものを見つめる。

「い、いつの間に・・・」

それは、私がどうしても隠ぺいしたいものだった。

「知りませんでしたよ。まさかあなたにこんな趣味があったなんて」

「いや、違うんだって!!」

それは、合貝から渡された、例の薄いBL本だった。


「あ、あのね!それは友達が私の家に遊びに来たときに忘れたものでさ、今日返そうと思ってただけで・・・」

うぅ、しまったぁ・・・。あの本の存在すっかり忘れてた。合貝から貰って、不覚にもハマって・・・、あ、ほんのちょっとね!ほんのちょっとだけハマってしまったんだけど、家に置くわけにもいかないし・・・。もし家でこれ呼んでて親に目撃されたらお互いフリーズだからね・・・。だから仕方なしに鞄の中にずっと保存してたんだけど・・・。

「・・・成程。これは合貝さんのものであって、あなたのものではないと」

「そ、そうそう、だから・・・、ってあれ?何で合貝のだって分かるの?」

「何度か没収していますから。彼女のこういった類の本は」

「あ、そうなんだ・・・」

あいつも結構捕まっているのね・・・。

「だ、だからさ、合貝に返さなくちゃいけないから、今回だけは見逃してくれないかな?お願い!」

ぱん、と私は手を合わせる。

「・・・確かに、これ以外には不審物は無いようですし、合貝さんのことですから、あなたも半ば無理やり布教されたんでしょう」

「あ、うん、そうなんだよ・・・」

うわー、家の忘れ物の件、速攻で嘘ってバレてるよ・・・。ていうか合貝も、結構仲間増やしたりしてるのかな・・・。

「分かりました。では今回は不問といたしましょう」

「ほんと!?」

私はぱぁっと希望に溢れた顔をする。

「でしたら、この本は私が返しておきましょう。彼女に言いたいこともありますし」

「え」

「どうしました?あなたのものではないんですから、私が返しても問題ありませんよね?」

「あ、いや、その・・・」

・・・どうしよう。ここで取りあげられたら、もう二度と見れないよね。私個人での入手方法なんて知らないし、合貝に頼むのなんて癪だし・・・。ヤバイ、気になる。続きが気になる!!人目を慮って見るしかなかったから、薄い本とはいえ、進むペースは遅い。トイレとかに籠って読んでもよかったけど、私にとっては刺激が強すぎて全然進まない。というわけで、私はその本の読了まで、あと僅かというところで終わっていた。

「えっと・・・」

流石にこのまま読まずに終えるっていうのは生殺しだよ・・・。でも今更私が読みたいから返してっていうのも・・・。

「おやおや、どうしたんですか?どこかばつの悪い顔をして。もしかして、読みたいのですか?合貝さんのせいにしておきながら、本当はご自身ががっつりと堪能したかったのですか?」

「あぐ・・・」

「ふむふむ、本当は男同士がナニをまさぐりあうところが見たくてしょうがなかったと?むっつりですねぇ・・・」

東葛さんが耳元で囁く。私は顔をかぁ~と赤くさせる。

「返してほしいのですか?」

「・・・」

こくん。私は無言でうなずく。

「では、言質を取りましょうか」

「げ、言質・・・?」


「『私は男の子が一緒にまぐわうシーンが好きなえっちな子です』って、言ってみてください」


「い、言えるわけないでしょ!?」

そんな恥ずかしい台詞!!

「そうですか、ならいいんです。では失礼」

「あっ、ちょっ・・・」

東葛さんは本を持って私の前から去ろうとする。

「あ、あのっ・・・」

「はい?何ですか?」

あー、もう!!合貝のやつ、恨むからね!?私を毒してくれちゃって・・・。えーい、ままよ!

「そ、その・・・。わ、私って、男の子が一緒にま、まぐわうシーンが好きな、え、え、えっち、な、子なので・・・、そ、その本、返してくれませんか・・・?」

あぁ、言っちゃった・・・。うぅ、恥ずかしいよ・・・。

「聞こえませんね」

「はぇっ!?」

「あなたはどんな子って言ったんですか?」

「聞こえてるでしょ!?」

私と東葛さん二人しかいなくて、雑音も何もないんだから!

「口答えですか。おかしいですね」

「ひゃあっ」

た、ただ肩を触られただけなのに・・・。東葛さんはまとわりつくように迫ってきて、私の肩に手を乗せ、耳に息をかけるようにしながら声を出す。

「本来ならば四の五の言わず没収のところを、私は譲歩しているのですよ?だとしたら、あなたがこの本を読むにふさわしい淫乱な子であることを、自ら証明するのが筋ではないのですか・・・?」

「はっ、はっ・・・」

な、なに、この雰囲気・・・。何か、乗せられる・・・。

「・・・あなたは、どんな子なのですか・・・?」

「・・・え、えっち、な、子、なので・・・」

「こんなに顔を赤らめてまで・・・。見かけに寄らず随分ですね、変態さん」

「・・・は、はい・・・。わ、私は、へんたいで、駄目な子なので・・・」

「おやおや、これはいけませんね・・・。ここは風紀委員として、しっかりとあなたを調教してあげましょうか・・・?」

「は、はひ・・・。お、お願いしま・・・」


「・・・じゃないよっっっっ!!何言わせてんだよっ!!」


私はねっとりとした空気から逃げ出す。

「なにベタな言葉攻めしてくれてんだよ!!調教じゃないよ!!そもそも調教って言葉を人間以外に使うなよ!!AVかよ!?ここまでするくらいだったら、その本はもういいよ!それ以上に大事なもの失ってるよ!!はぁ、はぁ、はぁ・・・」

何気に危なかった・・・。何か、呑まれそうだった・・・。

「・・・あら、惜しい・・・。もう少しで堕ちそうでしたのに」

「堕ちるって何だよ!?怖いよ!!」

東葛さんはぺろりと舌なめずりをする。

「まぁいいです。少々私も度が過ぎましたね。ここは見逃すとしましょう」

そう言って彼女はぽんと本を投げ渡す。

「それ、次までにはきちんと処理しておいてくださいね。今度は手加減しませんよ?」

「・・・今ので手加減してたわけ・・・?」

「ふふ、それではまた」

彼女は不敵な笑みを浮かべて教室を出て行った。


「・・・はぁ・・・」

何で東葛さんの改善率が高いか分かった気がする・・・。あの鋭い目と巧みな話術で上手いこと相手を乗せるんだろうな・・・。

「ホント、東葛様には気を付けないと・・・」

・・・。


「・・・って、様じゃないよ、私ぃぃいいいいい!!」


to be continued...

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