第15話 vs 無頓着系兄

「今帰りか?」

「うん。そっちも?」


出席番号6番、切舞きりまいけい


「いっしょに帰るか?どうせ、帰り道途中までいっしょだし」

「そうだね」


自転車や電車で高校に来る人もいるんだけど、私は徒歩で登下校をしている。そんな私と同じ境遇なのが慶くん。妹がいるらしくて、それだからか、女の子に対してもフランクで、こうしていっしょに帰りを誘うことも厭わない。私としても、慶くんなんて名前呼びするくらい、気を置かないでいられる間柄だった。


「最近よぉ、妹と喧嘩しちまってな」

「ありゃ、そうなの?」

話題に妹が出てくることが多くて、仲の良い兄妹なんだ、って思う。私は一人っ子だから、兄とか妹がいるってどんな気持ちなんだろ。

「『アンタなんかお兄ちゃんじゃないっ』て怒鳴られちまってさ」

「うわー、結構すごいこと言われたね・・・」

反抗期かな・・・。誰にでもあるよね、そういうの。


「まぁ、事実本当の兄貴じゃないんだが」


「あー、だったら仕方な・・・。え?」

今、聞き逃しちゃいけない言葉が聞こえたような・・・。

「今なんて・・・?」

「オレとれい、あ、妹の名前な、は義兄妹なんだよ」

「衝撃の事実!いや衝撃の事実だよ、それ!」

さらっと言わないでよ・・・。全然知らなかった。

「衝撃、って・・・。義理のきょうだいなんて一杯いるぞ?」

「そうかもだけど、私は初めて見たし・・・。それにさ、言っても血の繋がりのない女性と一つ屋根の下にいるわけで・・・」

義理の妹、って、ほら、なんかあるじゃん、いろいろ・・・。

「お前なぁ、2次元じゃないんだから、現実の義兄妹なんて、浮ついたことなんて何も起こらないぞ」

「あ、そ、そうだよね・・・」

いけない、いけない・・・。最近周りの影響を受けて全員がアブノーマルに思えてきて・・・。早とちりだよね。


「一緒にゲームしたりな。『私が勝ったら抱いてもらうよ!』なんて言ってきたりするが」

「あれだよね、抱っこして、って意味だよね!?」

「おかずの交換をしたりな。たまに俺の箸を奪ったりするが」

「ただ間違えただけだよね!?」

「怖い夢を見たとかで布団に潜ってきたりな。よっぽど怖かったのか、俺の首筋を舐めたり耳を噛んだりしてくるが」

「あ、それは、えっと・・・」


「ラノベかよ!?」

もう援護無理!やっぱ、アブノーマルじゃん!!

「過剰だな・・・。ただのスキンシップだって」

「いやいやいや・・・」

あ、まだ逆転の目はあるかも・・・!そういえば、玲ちゃんの年齢を聞いていなかった。もしかしたら、まだ小さい幼稚園児ってオチかな?

「玲ちゃんっていくつなの?」

私は半ば祈りながら尋ねる。

「高一」

「一個下かよ!!問題大ありだよ!!」

「そうか?」

「そうだよ!」

やっぱり歳いってたよ・・・。高一ってもう女じゃん!あと少しで結婚もできるじゃん!

「・・・もしかして、同じ高校?」

「いや、玲は行きたがっていたが、親が止めた。良く分からないが、俺と玲の距離が近くなり過ぎているとかなんとかで」

あぁ、流石、親・・・。良く分かってるなぁ・・・。不思議と安心してしまった私だった。

「でも良い妹だぞ?いつも俺のこと気にしててくれるし。たまに外を一人で歩いているとき視線感じるんだけど、ふと見たら玲で」

「ストーカーじゃん!!」

思いっきり尾行してるじゃん!!

「違うだろ。妹が兄の動向を気にするくらい普通だって」

・・・絶対、ノーマルじゃないよ・・・。

「あと、オレだって男だからさ、たまにエロ本とか読むんだけどよ」

あー、一応私って女の子なんだけどなー。そういった話題はあんまりしないで欲しいんだけどなー。最早、私ってそういう話に耐性あるって思われてるのかなー。

「そこを玲に見つかっちゃってさ」

「うわー、お兄ちゃんしっかりしなよ~。玲ちゃんも年頃なんだからさ」

「そうそう、だから怒られちゃって。『私というものがありながら、何でそんなもの読むの!』って」

「・・・うん?」

この展開って、まさか・・・。

「『欲情したなら私を使ってよ!』って服を脱ぎだしてさ。風邪ひくから止めろ、って言ったんだけど」

「そこじゃないよ!!注意すべきところそこじゃないよ!!目の前で妹が脱ぎだしたことに疑問もちなよ!!」

「ん?別に妹が兄に構って欲しいのは普通だしな」

「・・・はぁ」

薄々っていうか、完全に勘づいていたけど、玲ちゃん相当なブラコンだな・・・。しかも慶くんは全く気にしてないし・・・。きょうだいがいない私だけど、それが正常な兄妹じゃない、っていうのは分かるしね・・・。


「・・・ねぇ、喧嘩した原因ってなんだったの?」

「俺が玲に、『俺はお前の兄貴だろ』って言ったら、『兄じゃなくて男として見てる!』って冗談言うもんだから、それでちょっと言い合いになって」

「絶対冗談じゃないよ、それ!!」


* * *


「凄い兄妹だな・・・」

私は呆れながら、慶くんと別れて、自分の家へと戻る。その途中、あることに気づいて私はぴた、っと足を止めた。

「・・・ちょっと待って・・・」

・・・慶くん言ってたよね、玲ちゃん、たまにストーカーしてるって。

「・・・今は・・・?」

玲ちゃんの、お兄ちゃんラブな感じだと、絶対自分以外の人に慶くんを取られたら嫌だ、って思うはず・・・。だとしたら、万が一今の下校を見られていたとしたら・・・!

「・・・私、もしかして慶くんの彼女だって思われたんじゃ・・・?」

私は思わず後ろを振り返る。誰もいないし、視線も何も感じないけど・・・。私はさぁ、っと血の気が引くのを感じた。


「・・・いつか私、あの妹に殺されないよね・・・?」


to be continued...

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