第11話 vs 検証系サッカー部

「よし!」

「・・・?」


出席番号7番、古寺こでらげん


「準備OKっと」

「何してんの・・・?」


得意科目は国語。理系科目はあまりよろしくないけど、国語なら現代文、古文、漢文とどれもよく読める。本好きで結構読むみたいで、それにしては珍しく、って言ったら偏見だろうけど、部活はサッカー部でばりばりの運動部。ただ、古寺くんの入部理由ってちょっと変わってるんだよね・・・。


「いただきます。・・・まずっ」

「そりゃそうでしょ・・・」

彼が今食べたものは泡。多分、どっかの石鹸から調達してきたんだろうけど・・・。

「古寺くん、まだやってるわけ、そういうの・・・」

「そりゃそうだよ!ことわざなんてごまんとあるんだから!」

「今は『泡を食う』を実践したわけね・・・」

そう、彼が国語の中でも特に好きなのが、諺やら故事成語。単純に覚えてるだけ、っていうのでも立派なことだけど、古寺くんって一歩先に行っちゃってて、実際にやってみようとするんだよね・・・。サッカー部もサッカーが好きっていうのはあるみたいだけど、メインな理由は体を張る系の諺に対処するために鍛えることらしい。・・・バカだよね。


「あ、そうだ!堤んもちょっち手伝ってよ!」

「えぇ・・・」

またこのパターンなのね・・・。

「堤んって確か裸眼だったよね」

「うん」

視力には実は自信があったりする。

「じゃあさ、このカラコンつけてくれない?」

「コンタクト?私、つけたこと無いけど・・・」

「大丈夫、そんな難しくないし、鏡もここにあるから」

手鏡・・・。用意周到なことで。まぁ、ちょっとつけてみたい、ってこともあって、私は古寺くんから貰った黒っぽいカラコンをつける。

「へぇ、思ったよりも気にならないもんだね」

目に違和感があるかな、って思ってたけど。

「で?これが何なの?」

「『目病み女に風邪引き男』って知ってる?」

「知らない」

「眼病で目がうるんだ女と、風邪をひいている男は色っぽく見えるってことなんだけど、これ、今風に言えば、ヤンデレ女子は色っぽいってことだよね?」

「曲解しすぎだと思うけど・・・」

この諺作った人に謝れよ・・・。

「だからさ、目元は良い感じに病んでるから、後はそれっぽい台詞言ってくれない?」

「それっぽい、って・・・。そういうの私分からないよ?」

「あれ、そなの?堤んだったら上手くやれると思ったけど・・・」

「私を何だと思ってるわけ・・・?」

私、自分のことをそっち方面に需要があるなんて思ったこと一度もないんだけど。

「ん~、じゃあ、分かった!今から僕が堤んを病ませる魔法の台詞を言ったげる」

「魔法、って・・・。私、そんな簡単に・・・」


「巨乳の方が就職率は断然良いらしいよ」


「・・・ふぅん・・・、そうなのか・・・」

はっ、所詮世の中なんて、乳か・・・。不条理だ、世界なんて・・・。

「あぁ、いい!!ぐっと来るよ、その感じ!」

「・・・世界なんて・・・」

「あ、あれ?堤ん・・・?」

「・・・世界なんて・・・」

「あ、思った以上にキマっちゃったな、これ・・・」


私が精神的ダメージから回復するのになかなかの時間がかかった後、古寺くんから突拍子もない質問が降りかかってきた。

「堤んってさぁ・・・」

「ん?」


「処女?」


「いたっ」

ぱちーんと私はほっぺたにビンタする。

「ななな、何聞いてるの!!」

「何って・・・。膜があるかないか・・・」

「具体的に言えって言ってるんじゃないよ!!正々堂々セクハラすんなよ!!」

私の顔、絶対真っ赤になってるよ・・・。古寺くんって、デリカシーがないんだよなぁ。・・・あれ?逆にデリカシーがある人ってウチのクラスにいたっけ・・・。

「何だ、経験あるんだ」

「ないよ!処女だよ!!ヴァージンだよ!!!ってか言わせんなよ!!」

「ならいいや。じゃあさ、ちょっとこれつけてくんない?」

「全然良くないんだけど・・・」

ホント自分のペースでしか進めないんだから・・・。私は呆れながら古寺くんから何かを受け取る。これって・・・。

「ウサ耳・・・?」

何気に実物初めて見た。で、これをつけろ、と。

「はぁ・・・」

どうせ断っても強要されるし、ちゃっちゃと終わらせよ・・・。

「ぴょん!」

「ぐはぁ」

・・・いや、ぴょんじゃないよ、私・・・。なに、ちょっとなりきってんだよ・・・。あと、古寺くんはなにダメージ受けてるわけ?

「ま、まさか、ここまでの破壊力があるとは・・・」

「これ、何がしたかったの?」

「『始めは処女の如く後は脱兎の如し』。始めはおとなしく見せかけて相手を油断させたのち、見違えるほどの力を発揮してすばやく敵を攻撃するたとえなんだ。いやー、効果テキメンだね。いつか襲われたときは、これを実践したらいいよ」

「・・・私、いつでもウサ耳持ってるようなキャラじゃないんだけど」


「さてと、次は・・・」

「ねぇ、まだやるわけ?」

いい加減帰りたいんだけどなぁ・・・。

「もうちょっとだけだから!じゃ、次はね・・・」

諺ノート。古寺くんが実践するつもりの諺が書かれている。それをパラパラとめくりながら彼が何か言おうとしたとき、急に何かに気付いたように後ろを向いた。

「あっ、雨だ!」

さっきまで晴れだったのに、にわか雨がふってきた。

「ちょ、ついて来て、堤ん!」

「えっ!?なに、急に・・・」

古寺くんが私の手を引っ張って外へと走る。いや、雨でテンションがあがる、って小学生かよ・・・。


「わー、もう、結構降ってるけど!?」

傘も持たず、そのまま外へ連れ出された。これで風邪とかひいたらどうするわけ?

「ね、ちょっと腕まくりしてみて!」

「はぁ?」

もう意味分からないけど・・・。

「これでいい?」

「うん!ねぇ、どう?」

「・・・いや、何が?」

「今の気持ち!」

「・・・何で私はこんなことさせられてるのかなぁ、って」

「つまり!?」

「つ、つまり・・・?」

何を言わせたいわけ・・・?

「どうでもいいから、早く校舎に戻りたい」

「あー、そっか!どうでもいいか!うんうん、そうだよね!」

古寺くんは満足そうにうなずいた。え、正解だったの、今の返し・・・。

「『俄雨と女の腕捲り』ってあってね。恐れるに足りない、って意味なんだけど、どうでもいい、って思うってことは・・・」

「あのさ、解説よりも先に戻らない・・・?」


「まぁまぁ、濡れたなぁ・・・」

帰ってすぐ風呂入らないと、ホントに風邪ひいちゃうよ。

「うん、今日はいろいろ収穫があったなぁ、良い日だったよ」

「そりゃ、良かったですね・・・」

私はただ疲れたよ・・・。

「またお礼はするからさ!ありがとね!」

・・・良い笑顔だこと。ボランティアの人、って、こういう笑顔を見ることを楽しみにするのかなぁ・・・。

「あ、ラストにさ、この諺言ってみて!!」

そう言って彼はノートを見せる。

「・・・?『女冥利につきる』・・・?」

これって確か、女に生まれて良かった、みたいな意味だよね?何で今・・・。

「どう?やっぱ男を誘惑するのって、女の特権だと思うんだけど」

「誘惑・・・?」

はっ!!雨の中を、傘も差さずに立っていたら、当然制服は濡れている・・・。ってことはつまり・・・。

「見るな、スケベ!!」

「いたぁ!!」

2度目、私の張り手が古寺くんに飛ぶ。私の服は雨で透けていた。

「・・・み、『水も滴る良い女』だよ・・・」

「無理やり諺でまとめるなよ・・・」


to be continued...

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