第12話 vs 内気系美少女

「・・・あ、あの・・・」

「そんなに緊張しないで」


出席番号26番、音無しずか


「・・・わ、わたし・・・」

「ほら、リラックスリラックス」


ウチのクラスきっての、いや、もしかしたら学校きってかもしれない、とにかく内気な子。人と目を合わせるのが恥ずかしいからなのか、前髪は長めで目が隠れている。それ、絶対見えにくくて不便だと思うけど・・・。


「わたし、この内気な性格、直したくて・・・。もっと、普通に人と話せるように、なりたくて・・・」

こんな相談を受けて、とりあえずは私と二人きりで話せるようになろう、ということになった。実は、照れ屋でおとなしめのしずちゃんは、そういうキャラとして男子に人気がある。勿論、本人はまったく気づいていないみたいだろう。だから、変わってほしくない人もいるかもだけど・・・。でも、変わりたいんだもんね。多くの人が変わることを諦めて逃げちゃう中で、えらいよ、しずちゃん。


「・・・わ、わたしの、名前は・・・」

私の提案で、とりあえず自己紹介をして、私の手を握ってみたらどう?と言ってみた。握手なんて日本人はあんまりしないけど、肌と肌が触れ合うのは大切だもんね。

「・・・お、おと・・・、おとな・・・」

・・・たどたどしいなぁ・・・。こんなにあがらなくてもいいのに・・・。手、ぷるぷるって震えてるし・・・。

「ふぅ~」

しずちゃんは一つ深呼吸をする。

「・・・ちょっと、飲み物飲んで、落ち着いていい・・・?」

「うん、いいよ」

ちょっと照れすぎ。そんな気にしないでよ。本人にとっては、大変なんだろうけどさ。

「・・・よいしょ・・・」

しずちゃんは自分の鞄の中から水筒を・・・って、あれ?飲み物、って、お茶とか水じゃないの?普通飲料水って、あんな小さな薬品が入っているような小瓶に入ってるっけ。色、ピンクだっけ。

「・・・あ、えっと、しずちゃん・・・?」

彼女は躊躇いもなく、ごくんと一気に飲み干した。

「・・・ごめんね、待たせて・・・。じゃあ、続き・・・」

「あ、う、うん・・・」

・・・特に様子も変わってないみたいだし・・・、別になんともない、か。考えすぎかな・・・。


「つ、つつみ、さん・・・」

「へ・・・?」

しずちゃんは制服のポケットからヘアピンを取り出し、前髪を留めて隠れていた目を露わにする。

「わ、わたしのこと、受け止めてくれる・・・?」

「や、ややや・・・」

え、なに急に!?さっきまであんなにおどおどしてたのに!?髪をあげただけなのに、ここまで雰囲気変わるの!?ていうか、この子、可愛いっ!もったいないよ、目隠すの!

「・・・わたしの、ぜんぶ・・・」

「ぜ、ぜんぶ・・・?」

そう言うと、しずしゃんは、私が何も言っていないのに、急にブラウスに手をかけ、ゆっくりと脱ぎだ・・・すなよ!!え、何してるのこの子!?

「少し、暑いもんね・・・」

「あ、えっと・・・?」

ゆっくりと、一歩ずつ、しずちゃんが近づいてくる。何故だか、私の体は動かず、彼女から目が離せない。ものすごく、色っぽい。

「つ、つつみさん・・・」

彼女は私の肩に手を置き、ゆっくりと体重をかけてくる。自然と私の膝は折れ曲がり、私は仰向けに眠って、天井を向く。私の上に彼女が重なり、マウントを取られた。

「ちょ、し、しずちゃん・・・?」

声、裏返っちゃった・・・。この子急に大胆に・・・。

「・・・はぁ、はぁ・・・、つつ・・・み、さん・・・」

「あ、待って待って・・・。タ、タンマ・・・」

あれ、ドキドキする・・・。私、ドキドキしてるんだけど!?ちょ、妙な息遣いしないでよ、そんな愛くるしい目で見ないで・・・。あ、ヤバ、このままじゃ籠絡される・・・。

「ス、ストップストップ!ちょっと行き過ぎだってば、しずちゃん!あ、あの、さっきのあれ、一体何飲んだの!?」

どう考えても原因あれだよね!?

「・・・あ、あれは・・・。わたしが、悩んでいるときに、ある人が、困ったら使えって、渡してくれて・・・」

「あ、ある人、って・・・?」


「・・・や、柳田さん・・・」


「んなっ・・・」

てめぇかよぉ、あのマッドサイエンティストォォォォ!!!純朴なしずちゃんに一体なに渡したんだよ!?

「そ、それ、何だって言われたの!?」

「・・・別に、体に害はないから、って・・・。飲んだら、体の底が熱くなって、体が火照って、一歩踏み出す勇気が出る薬だって・・・」

いやそれ媚薬だろ!!一歩踏み出すっていうか一線超える勇気じゃん!あいつなにしてくれてんの!?ってか、何でしずちゃんも簡単に飲んじゃうの!?

「・・・ねぇ、わたしのこと、受け止めて・・・?」

「やっ、ちょっ・・・」

思ったけど!確かに肌と肌の触れ合いが大事だとは思ったけど!!こんな意味じゃないんだけど!?

「あ・・・」

しずちゃんは慈愛顔で私の顔を見つめる。ゆっくりと顔が、口が迫ってくる。


・・・やばい、これ、本格的に。

私の両腕はがっちりと、見かけによらず強いこの子の腕力に押さえつけられて、動けなくなっていた。ああ、私の、ファーストって、この子に・・・。


「ちょっと待てやぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」


「・・・っ!?」

びくっ、っとしずちゃんの体が起き上がる。私たち二人はその声の方向を向いた。

「・・・あ、あんた・・・」

「はぁ、はぁ・・・」

そこには顔を真っ赤にさせて、息を荒くした合貝が立っていた。

「な、なな、何してるんや自分らぁぁあああ!?」

合貝の至極冷静な指摘に、しずちゃんははっと我に返ったように、かぁ~という音が聞こえてきそうなくらいに耳を赤くする。

「あ、ごごご、ごめんなさい、堤さんっ!」

ばっと私の上をどいたしずちゃんは、すぐに逃げるようにして教室を出ていってしまった。


「・・・はぁ、何してん、堤」

教室に二人っきりになって、合貝は神妙な趣で言ってくる。

「・・・私のせい、ってことでもないと思うんだけど・・・」

ほとんどは柳田くんのせいだし。

「一言礼とかないんや?」

まぁ、確かにそれくらいの功績だけど・・・。

「とりあえず、ありがと。・・・鼻血さえ出してなかったら、もっと素直に礼も言えたんだけどね」

「なっ!?」

ばっと合貝は手で鼻を覆う。今の今まで気づいてなかったんかい・・・。

「どれだけ興奮してたんだよ・・・」

私はポケットティッシュを投げて渡してやった。

「それで?いつから見てたわけ?」

「ちょお、変な言いがかりは・・・」

「言いがかりじゃない。証拠は十分過ぎるでしょ・・・」

「う・・・」

合貝は血を拭きながら、ばつの悪い顔をした。

「音無さんが、何か飲んだところからや・・・」

「結構最初の方じゃん・・・。もっと早く止めてよ、じゃあ・・・」

「まさかあっこまで素晴らしい展開になるとは思うてへんかったから・・・」

「素晴らしい、って・・・」

まぁ、合貝にとっては眼福かもしれないけど・・・。

「と、とにかく、ええんか?彼女、追いかけへんで」

「おっと、そうだね・・・」

本当は合貝にももっと言いたいことあるけど、今はしずちゃんが先か。私はしずちゃんが置き忘れたブラウスを持って教室を出ていく。

「ま、改めて、ありがとね、合貝」

「これ、貸しやからな」

「はいはい・・・」

はぁ、厄介な奴に借りできちゃったなぁ・・・。


to be continued...

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