第9話 vs 強制系科学者
「ようこそ」
「な・・・」
出席番号19番、柳田
「私の研究室へ」
「な、なんで・・・」
名が体を表しているパターンで、勉強好きの理系人間。特に理科の成績は教科問わずどれも抜きん出ていて、みんなからは科学者なんて呼ばれているほど。一人称が男なのに“私”っていうのもそれっぽいし。ただ、どちらかと言えば尊敬の念じゃなくて、マッドな方なんだけど・・・。
「私、何でここに・・・」
気づけば私は科学室の椅子に座っていて、目の前には柳田くんがいた。
「きちんと自分の足でここまで来たがね」
「うそ・・・。全然覚えて・・・」
「ただ、意識が朦朧となる薬を若干であるが嗅がせたがね」
「なにしてくれてんだよ!!」
拉致じゃん、犯罪じゃん!!ほら、こんなことするから、周りのみんなは柳田くんに関わるとろくな目に合わない、って思ってるのに・・・。
「心配するな、体に害はない。しかも、完全に催眠というわけではない。心底拒絶しているのならば、抵抗も可能なものだからね」
どうだか・・・。
「・・・で?何でこんなことしたの?」
「なに、少し実験に参加してもらいたくてね」
「・・・それ、私に断る権利あるよね?」
「当然だ。科学とは双方の同意あってこそのものだ。一方的に強要するのでは、それは暴力と変わらん」
・・・まともなこと言うじゃん・・・。私を攫っておいて言えたことでも無い気がするけど。
「じゃあさ、悪いけどナシってことでいい?正直に言うと、ちょっと怖いんだよ、実験って・・・」
柳田くんのことだから、失敗は殆どしないとは思うけどさ・・・。
「そうか、ならば仕方がない。残念ではあるがね」
・・・やけにあっさり・・・。逆に怪しいけど、今は素直に受け取っておくか。
「うん、じゃあまたね」
私が部室の扉に手をかけようとした時だった。
「ああ、一つだけ言っておこう」
「うん?」
「そこの扉に、尋常ではない程の静電気を蓄積させておいた」
「・・・は?」
「それだけだ。それではね」
・・・え。いやいやいや、え、静電気?この扉に?
「・・・で、でも、言っても静電気だし、ね・・・」
「尋常ではないぞ」
「・・・えぇっと・・・」
尋常じゃない、って・・・、どれくらい・・・?私に限らず、静電気ってみんな嫌いなものだと思うけど、それが、尋常じゃなく・・・?
「忠告はした。故に、堤くんが静電気でとんでもないことになろうとも、それは自己責任だということだ」
え、とんでもないこと・・・?そ、そんなにヤバイわけ・・・?ぷるぷると私の手が震え、手汗がびっしょりと出てくる。
「さぁ、好きに選ぶと良い。私の実験に参加するか、帰るかをね」
・・・こ、こいつ~~~!!
「き、き・・・」
「なんだね?」
「汚いよ!!全然双方の同意じゃないじゃん!!一方的な暴力じゃん!!」
「何を言う。帰っても良い、と言っているんだ。拘束はしていない」
「どっかのブラック企業かよ!!」
「して、答えは?」
「・・・はぁ、分かったよ・・・」
やっぱ最初っから逃がしてくれる気ないし・・・。
「ホントさぁ、せめて協力してって言えばいいのに・・・。薬品で誑かすなんてことしないでさ・・・」
「勿論最初はそうしていた。しかし、何故だか知らないが、皆、私と関わることを避けているようでね」
何故だか知らない、って・・・。無茶な実験に巻き込むからでしょうが・・・。
「一つ、強行な手段をとらせてもらった。すまなかったね」
「・・・言っとくけど、報酬はしっかりと貰うよ?」
「当然だ。そうだな、前払いといこうか」
そう言って柳田くんはポケットから食券を取り出す。前もあったな、このパターン・・・。これ、普通に得だから断りにくいんだよね・・・。
「わざわざ食券に変換せずに普通に金一封を渡しても良かったんだがね。流石に学生の身分であると考えると、モラル的にもね」
「モラルってどの口が言ってるんだよ・・・」
そんなものあなたにないでしょうが・・・。私は呆れながら食券を受け取る。
「って、5千円分!?」
「む、不服かね」
「いや多くない?こんなに貰っていいわけ!?」
「遠慮するな。貰っておきたまえ」
「・・・は、はぁ・・・」
ホントこれアルバイトだな・・・。でも、これだけ貰うってことは、結構危ない実験なのかな・・・。やっぱ、怖くなってきた・・・。
「そ、それで?一体どんな実験なの?」
「ふむ。今から堤くんには、爆発に巻き込まれてもらいたい」
「いや、安いわぁぁああああああ!!!」
「ん?」
「爆発って死んじゃうじゃん!!それで5千円って安いよ、激安だよ!!」
なにこのマッドサイエンティスト!?私を殺す気!?
「落ち着きたまえよ。最後まで話を聞け。よくアニメで、発明品が急に爆発して黒こげになるシーンがあるだろう?」
「え?う、うん・・・」
「果てして、あんなことが現実にある得るのだろうか。見たところ、爆発を被った人間は怪我もしておらず、その後も後遺症も何も残っていないようだからね」
「いや有り得ないよ!!分かるじゃん!実験せずとも分かるじゃん!!」
「今回の実験成功の定義は、大した怪我を被らずに髪の毛がアフロになることとする」
「聞けよ!!」
え、なに!?バカなの!?柳田くんてバカなの!?顔、真剣そのものだし!
「大体それなら一人でもできるでしょ!!」
「無論、検証したが・・・」
「したのかよ!!爆発したのかよ!!」
「ただ、私が知りたいのは周りのことだ。発明品に触れている本人ならいざしらず、周囲も同じように髪型が変化しているだろう?それを調べたい」
「どうでもいいよ!!やっぱ私帰っていい!?食券も返すからさ!」
「・・・爆発というものはだね」
「え・・・?」
何で、いつのまに・・・?柳田くんの手には、球状の鉄製の“何か”が握られていた。
「意図しない時に起こるものなのだ・・・」
「ちょ・・・っ」
ぼふっ!!
* * *
「・・・ごほっ、ごほっ・・・」
その球状の物質は、途端に閃光を放ち、私の視界は煙で覆われた。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」
一瞬、死を覚悟した。
「無事かね?」
「・・・へ・・・?」
煙が晴れると、そこには何事も無かったかのように、けろりとした柳田くんがいた。
「・・・わ、私・・・」
「心配するな。何も起きていない。頭以外はな」
「あ、頭・・・?」
言われるがまま、私は頭を触る。
「って!なにこれ!?」
感触ですぐ分かった。私の頭がアフロヘアになっている。
「はぁ!?さっきの煙で、ってこと!?」
「ふむ、なるほどな・・・」
「いや、ふむじゃないよ!!どうしてくれるのこの頭!!」
「落ち着け、すぐに取れる」
「あ・・・」
ただのカツラ・・・。
「やはり、アニメの爆発後の髪の変化は、煙で視界が封じられたときに、誰かが
「・・・なに言ってんの・・・?」
やっぱ、バカなの?
「ふむ、実験は成功、と言ったところだな」
柳田くんは、満足そうに笑った。
「じゃないよ!!一人で満足しないでよ!!私、本気で怖かったんだよ!?」
私は結構強く怒鳴った。
「すまなかったな・・・。ただ、これだけは言っておくが、堤くんは私の大事な友達だ。そんな人間を傷つけるわけがないだろう?」
「・・・なにそれっ」
ぷいっと私はそっぽを向く。何か、いい感じのことを言われても困るっての。
「とにかく、もう実験は終わりでしょ!私、帰るから!」
「ああ、ありがとな、堤くん」
「ふんっ。いつか覚えててよ!絶対仕返ししてやるから」
「楽しみにしてるよ」
笑っちゃって・・・。それも実験の一つ、ってこと?私は手の上で転がされた気がして、悔しみながら科学室のドアに手をかけ・・・。ドア?
「あ」
to be continued...
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