第8話 vs 屈折系関西ガール

「ホンマ、覚悟せぇよ、自分」

「いや、覚悟って・・・」


出席番号21番、合貝あいかい由利。


「この恨み、許さへんからな」

「私が何したの・・・」


女子の中で一番最初の出席番号の関西弁丸出しの彼女。別に転校生というわけじゃなくて、大阪を出たのは数年前で、地域が変わっても気にせずに使っている、というわけ。関西弁を話すのは彼女だけだけど、方言はその人の個性を表すってことで、本人も周りも、関西弁であることには何の抵抗もない。


「・・・あの、よく分からないんだけどさ、とりあえず、これ、解いてくれない・・・?」

生まれて初めてだよ、リアルに縄で縛られたの・・・。しかも、合貝の縛り方が上手いのか何なのか、全然動けないし。私と合貝が二人きりにたまたまなったとき、彼女の方から話しかけてきた。

「ちょっとこれ、持っててくれへん?」

「縄?」

そう言われて渡されたのが細い白いロープで、私は特に疑問に思うことなく手に取った。それがおしまい。あとはそのまま、目にも止まらぬスピードで、椅子の背に縛り付けられた、って感じで・・・。簡単に縛られる私も私だけど、普通同級生を縄で縛らないでしょ・・・。


「アカン。自分がした罪を、きちんと理解してもらわなな」

「だから罪って何なの?正直に言うけどさ、全然身に覚えがないんだけど」

「こら呆れたなぁ、あれだけのことしといて、知らぬ存ぜぬで通す気かいな。自分の胸に聞いてみぃ!」

「だから知らないって言ってるでしょ・・・」

胸に聞くも何もないっての・・・。

「ならヒントをやるわ。自分、最近、何か変わったことあらへんかったか?」

「有りすぎて分からない」

「はぁ?」

もう変わったことだらけだから、最近。大変なことばっかりだよ・・・。

「ほなら、もう一つや。最近誰かに告白されへんかったか?」

「告白ぅ・・・?」

告白って、好きって伝えられたってことだよね・・・。そんな浮ついたことは無かったけど・・・。

「別に?能武さんにタイプって言われたくらいで・・・」


「それやぁぁぁぁああああ!!!」


「うわっ、びっくりした・・・」

急に叫ばないでよ・・・。

「それや、そのことや!なに、自分、あの能武さんにそない羨ましいこと言われてんねん!!あの能武さんからアプローチを受けるやなんて、どれだけのことか分かっとるんやろな、自分!!」

「えぇ・・・」

なにそれ・・・。それで私、縛られるっていうある種拷問を受けてるわけ・・・?知らないわー、知ったこっちゃないわー。

「まさかOKの返事したんちゃうやろな?」

「してないよ・・・。私だって急でびっくりしたんだから・・・」

「何でOKせぇへんねん!!あの能武さんやで!?」

「いや、どうすればいいんだよ!」

OKしようがしまいが、機嫌悪いじゃん!!・・・ていうか、この反応、もしかしなくても・・・。


「ねぇ、合貝あなたさ、能武さんのことが好きなの?」


「・・・ななな、何言うとんねん!!ちゃうわぁ!?」

自分で言っといて疑問形だし。図星じゃん。

「いや、ここまで私のこと邪険にやっといて説得力0だから。別にさ、今の時代誰が誰を好きでもいいけどさ、合貝の屈折した性癖に私を巻き込まないでくれる?」

「誰が屈折した性癖やねん!ウチはただ同性同士が乳繰り合うのが好きなだけやっ!」

「十分だよ、十分折れ曲がってるよ」

同性、って男同士もありなのね・・・。つまりは腐女子ってやつか。いつも思うけど、腐女子って言葉作った人、元からある婦女子に謝った方がいいよね?今や、腐りの方がベーシックだって思ってる人多いし・・・。

「つまり、ジェラシーってわけね・・・。私が気に入られているのが気に食わないと」

こっちとしては気に入られるのも困るんだけどな・・・。

「ま、まぁ、そういうことや。能武さんはウチの憧れやさかい・・・。す、好きとかちゃうで?」

もう認めろよ・・・。今更が過ぎるんだから・・・。

「じゃあ私が言ってあげようか?合貝が能武さんともっと親密になりたがってる、って」

彼女、そっち系の小説書いてるっぽいし・・・。彼女にとっても合貝は良いデータになりそうだし。

「や、止めや!!そんなことされたら、ウチ、テンパってまう・・・」

うわー、私をこんな目に合わせといて今頃顔赤らめても困るんですけど~。何でそこは奥手なんだか・・・。ま、下手に関わったら私に飛び火きそうだし、やめとこ。

「まぁ、悪かったよ。私自身は能武さんと友達の関係を超える気はないから安心して」

何で私が謝ってんだか。

「は、どうだか・・・。にしても自分、同性同士の価値がわからへんなんて見る目ないな。ここはウチが教えたらなな」

「なに、教えるって・・・」

がさごそ、と合貝はかばんから何かを取り出す。

「これ見てみ!」

「・・・本?」

「せや、聖書バイブルや。これを見たらBLの良さが全て分かる」

「いや見ないよ!!私をその世界に勧誘するなよ!!」

「なんや?縛られとるのに偉そうやないけ。ええんやで?朝までそのままでも」

「う・・・」

さっきからずっと力入れてるけど、これ全然緩まないし・・・。それに本気でこいつ放置とかしそうだし・・・。

「あー、分かったよ。見るから縄解いて?」

「もともとアンタに見せる気はないけどな」

「何だよそれ!」

嫌われてるわぁ、私・・・。

「まぁええ。今回は特別にくれてやる。しっかり見て勉強するんやな」

「はぁ・・・」


やっと解いてくれた・・・。ぎちぎちに縛ってくれちゃって、痛いっての・・・。

「今日はこれくらいで勘弁したる。せやけど、次、能武さんに手ぇ出してみ?ただじゃおかへんからな」

そう言って合貝は出ていった。悪者の捨て台詞みたいだな・・・。ほんと好き勝手やってくれて、ようやく帰れるよ。大体、手出されたのは私の方だっての。

「・・・もう、こんなもの学校に持ってきて・・・」

私は合貝が机に置いていった薄い本を手に取る。これ教室に置きっぱなしだったらいろいろ問題でしょ・・・。私が持って帰るしかないし。

「それにしても、こんな同性がいちゃつくのを見て・・・」

私はぱらぱらとページをめくる。

「何が楽し・・・」


・・・。


「・・・ごくっ」


もうちょっとだけ、学校にいようかな・・・。


to be continued...

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