第5話 vs 絶望系新聞記者
「もう、お終いだ・・・!」
「はいはい」
出席番号2番、
「日本はもはや、取り返しのつかない所まで来てしまった・・・!」
「あーそうですか」
何かにつけ日本に絶望している、いわゆる面倒臭い人。名前は希望に溢れてるはずなんだけどなぁ。新聞部に所属しているから、日本について物申すのはらしいっちゃらしいんだけど、それに巻き込まれるこっちの身にもなってよね・・・。
「これから東京オリンピックもあるっていうのに、どうするんだよ・・・!一体政府は何をやっているんだよ・・・!このままじゃ、俺たちはお終いだ・・・!」
私は日本に暮らしていて特に不自由も不満も感じていないからなのか、彼のように自国を敵対視するっていうのがどうも分からない。私だって、日本が万能だとは思っていないし、むしろ世界から見れば非常識なことだらけなのかもしれないけど、伊都式くんの場合は、アンチ日本の俺かっこいいと思っているような気がして・・・。
「はぁ、お終いって、具体的に何かあったわけ?」
「どうして押しボタン式の横断歩道の信号が設置されているんだ・・・!!」
「ちっっっっちゃっ!!」
びっくりした!え、なにそれ、その絶望なに!?
「逆に衝撃的だったよ!その小ささ!!」
「小さい・・・って、何を言ってるんだ。良く考えてみろ。押しボタン式の信号を押すことで、当然信号は赤になる。そして車は止まる。だが、信号をわざわざ任意性にしているということは、その道は車通りが少ないということだろう?ならば、もし仮に車が通っていないのならば、そこはボタンを押さずに横切るべきじゃないか!そうすれば歩行者は信号を待たずに済むし、車も誰も渡らない横断歩道に待つ必要がなくなる・・・!」
長いし・・・。いや確かに一人しか渡らなくて、無人の信号を待っている車は良く見るけどさ・・・。
「何故だ、何故みんなはボタンを押すのだ・・・!」
「そりゃあ、みんな真面目だから」
「真面目ならば善なのか!?ルールを破ることが悪なのか!?否!それは物事を単純にしか二分することのできない・・・」
「あ、ごめん。私たかが信号機でそこまで熱く議論できない」
無駄に暑苦しいんだよな、伊都式くんって・・・。
「とにかく!この世界には規制が多すぎる・・・。このままでは、俺たちの自由はなくなるんだ・・・!」
全然大したこと言ってないじゃん・・・。
「多すぎる、って・・・。じゃあ何を緩和してほしいの?」
「水泳の授業は男女合同にするべきだ」
「小学生か!」
もっと小さいよ、すべてがスケール小さいよ!
「冷静に考えてみろ。一体何がいけないというんだ。市民プールや海は、男女が薄布一枚を見せびらかすようにつけている。授業も同じじゃないか、一体何が問題なんだ・・・!」
「一番の問題はあなたの思考回路でしょ・・・」
なんか、少しでもちゃんと聞いて損したよ、これ・・・。
「そうか、無理なのか・・・」
しゅん、って落ち込んでるけどさ、全然可哀想だと思わないんだけど。
「ならばせめて・・・」
「堤がスクール水着を着てくれないか?」
「はぁ!?」
全然関係ないしっ!話の流れ完全に無視してるしっ!!
「ヤだよ!何で授業でもないのにスク水なんて・・・。大体持ってきてないし!」
「それは心配するな、ここにある」
「あるのかよ!!」
「サイズも合わせてある」
「何でサイズ知ってるんだよ!?」
恥ずかしいわ、ってかストーカーかよ!?
「頼む・・・、少しでいいんだ。一回着てくれればそれでいいから・・・」
「だから、その一回が嫌だって言ってるの」
「礼は弾む。ここに食券があるから」
「どれだけ用意周到なんだよ!?」
しかも結構な枚数あるし・・・。これ普通にお得だし・・・。
「どうだ?悪くない条件だと思うが・・・」
「む~・・・」
まぁ、もし万が一変なことしてきたら、ここ学校だし、大声出せば誰か来るか・・・。
「分かったよ・・・」
「何で私が・・・」
と文句を言いつつ、私はしっかりと着替えてきてあげた。
「ほら、着替えてきた・・・」
私が部屋に戻るとパシャという音とともにフラッシュがたかれる。
「って、何撮ってんだよ!?」
「撮らないとは一言も言ってないが・・・」
「いや普通撮るなら撮るって言うでしょ!」
「それは堤が常識にとらわれ過ぎて勝手に決めつけたことだ。ああ、やはり常識に縛られるとは何と難儀なことだ・・・!」
「あー、もう分かったから。面倒くさいから、もう止めて」
結局撮らせることになってしまった・・・。
「よし、ではポーズを決めてみよう」
「ポ、ポーズ・・・?」
「そうだな、自分で思う、一番いじらしい格好で」
「い、いじらしいって・・・」
無茶なお願いだなぁ・・・。良く分からないから、無難に毛が生えたくらいのポーズにした。
「うむ、次はセクシー系か。M字・・・」
「調子に乗るなよ・・・」
「・・・はい、すいません・・・」
そこから30分くらい撮影会は続いた。何か、モデルってこんな仕事なんだ、って味わった気がする・・・。
* * *
「昨日は散々な目にあったな・・・」
翌日、ため息交じりに廊下を歩いていると、私の足が止まる。
「え?」
私は掲示版に貼ってある、今日発行された新聞を2度見する。
「・・・これって・・・」
そこには今度発売の新作スクール水着の広告がいっしょに貼ってあり、そして、顔は若干加工されているものの、そこに映っていたのは間違いなく私だった。
「はぁ、あの新聞部・・・」
最初からこの写真を得ることが目当てだったわけね・・・。上手く乗せられたなぁ・・・。ま、よく取れてるから大目に見るか・・・。
to be continued...
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