第3話 vs アニメ大好き系オタク

「アニメを見るに於いて最も大事なこととは何だと思う?」

「いや、知らないけど」


出席番号16番、中尾拓也。


「いいかい?それはずばり、いかにキャラに没頭するかだ!」

「聞けよ、人の話」


オタク。本音を言えばこの一言だけで済ませたいんだけど、中尾くんの紹介。アニメが大好きで四六時中その話ばっかりする。アニメはライブで見るべきだ、という謎の主義を持っていて、深夜アニメを録画という素晴らしい機能があるにも関わらず生で見るものだから、授業中結構うつらうつらしてる。部活はイメージ通り美術部、漫研も兼ねてるらしいし。そしてこれまたイメージ通り眼鏡をかけてる。まぁ、全部私の偏見だけど。


「アニメのキャラクターは生きている!つまり、そのキャラの声優が一体誰かに注目するのはナンセンスだ!声優なんていない。そのキャラの声だと考えるのが、最もアニメと向き合った見方ではないか?」

「あー、そうだねー」

正直、こういったアニメ好きって自分の意見押し付けてくる節があるから、私あんまり得意じゃないんだよね・・・。返答も思い切り棒読みだし。

「だと考えると、小さな子供こそが、真にアニメの見方を心得ているのだよ。彼らは一体誰の声なのかなんて考えもしない。純粋に、そのキャラの声だと思っているからね」

「あー、なるほどー」

「ならば、昨今の声優がもてはやされすぎている風潮、あれはいかんともしがたい。アニメを愛するものならば、真摯にそのキャラクターのみを愛するべきだ!アニメを見ている途中に、演技がうまいなぁ、などと考えるのは真に2次元に没頭していない!」

「あー、わかるー」

どこまで続くんだろ、この理論展開・・・。もう返しパターンもなくなってくるんだけど。ちょっと、こっちから話題振ってみる?

「じゃあ、その音楽レコーダーにはアニメソングとか入ってるの?」

「これか?これにはエヴァンゲリオンのアスカの声が延々と入っている」


「きもっ!!」


「んなっ・・・」

「あ、ご、ごめん・・・」

な、何て浅い台詞を・・・。でももう反射だったもんね。目の前に虫が来たときくらいの瞬き状態だったよね、不可避だよね・・・。にしても人の声をそんなに聞く・・・?でも、それを言ったらあれか・・・。歌とかも延々と人の声を聞く作業か。

「おほんっ、話を戻そう。つまりだね、今日は堤くん、君にお願いがあって来たのだ」

「お願い・・・?」

もう嫌な予感しかしないよ・・・。


「実は君の声が僕が大好きな声優・小林敦子にそっくりでな。是非、その声で言って欲しい台詞があるのだが・・・」


「いるんかいっ!!」

「え?」

「いや、好きな声優いるんかいっ!あんだけ、アニメはキャラだ、声優じゃない、みたいにいっておいて、イチオシの声優いるんかいっ!」

「なに、彼女は特別だよ。あの演技力、あれは素晴らしい」

「演技褒めるんかいっ!」

さっき言ってたこと、全部裏切ってますけど!?

「ともかくだ、後生の頼みだ。聞いてくれないか?」

「・・・私は実際に後生の頼みって言った人、初めて見たよ・・・」

はぁ、ていうか顔はどこかのセクシー女優、声はどこかの声優って、私って一体何なんだよ・・・。

「まぁいいや・・・。減るものじゃないしね・・・。でもさ、中尾くん。私が中尾くんとの付き合いがそこそこあるからいいけどさ、初対面の人に声を聞かせて、なんてお願いしちゃダメだよ?」

「ははは、何を言う。流石の僕もそんなこと、一回しかしたことない」

「一回あるんかいっ!!」

「警察を呼ばれかけてな、すぐに自重した」

「声かける前に自重しなよ・・・」


「分かってると思うけど、卑猥なこととか注文してきたら、それこそ警察呼ぶよ」

「安心したまえ、そこは心得てる」

何だか知らないけど、一つ言葉を言ってあげることになった。需要あるのかなぁ。

「あ、一つ思ったんだけど、今こうして私喋ってるよね?これを聞いてても、その声優さんの声だ、ってなるの?」

「いや、敦子さんの声は、君よりも少しばかり高いんだ。だから、普段の君の発言には、何の魅力も感じない」

「むかつくんですけど、何か・・・」

「あー、しかしだね、さっきの罵声、あれは興奮気味だったから、丁度良いぐらいにキーがあって、実にぐっときた」

「はぁ!?」

さっきの『きもっ』って言ったとき、驚いた顔して落ち込んだようだったから謝ったのに、内心興奮してたのかよ!完全な謝り損じゃん・・・。

「さて、そろそろいいかな?」

「分かったよ・・・。私も早く終わらせたいし・・・。あ、これ記録とかしないでよ?」

「なに!?」

「いや、するなよ!ひねもす聞かれてるかと思うとぞっとするから!」

「冗談だ、分かってる」

「ほんとかなぁ・・・」

「では、これを呼んでくれ。精一杯感情を込めて」

「・・・う、うん・・・」

前もって用意していたようなスケッチブックを私に見せる。あれ、なんだろ・・・。確かに卑猥な言葉じゃないし、たかが読むだけなんだけど・・・。な、何か恥ずかしい・・・。

「3、2、1・・・」


* * *


「はぁ・・・」

私は一人、帰り道大きなため息をつく。

「ありがとう!実に有意義な時間だった!」

とか言って、中尾くんは帰っちゃうし・・・。後でお礼はする、って言ってたけど、並大抵のものじゃこの労力と釣り合わないからね・・・?ものすごい疲れたよ、何か・・・。私は、感情を込めずに、もう一度、中尾くんに言った台詞を小さな声でこぼした。


「拓也、あんたバカだよ・・・」


to be continued...

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