第2話 vs 陰鬱系才女
「ちょっといいか・・・」
「え、私?」
出席番号24番、
「江口沙樹、っているだろ」
「ああ、いっつも宇羅さんといっしょにいる・・・」
名前に明るいっていう文字が入っている割には、決してみんなの前に立つのが好きな目立ちたがり屋っていうわけじゃない。かといって、愛想がない、ってこともなくて、話しかけたらしっかり返してくれるし、時折ニヒルな笑いも見せる。ただ、勿論話したこともあるし互いに知り合いではあるんだけど、こんな相談を受けるような仲じゃなかったと思うんだけど。
「そう、あたしは沙樹と一緒に過ごすことが多くてな・・・。出席番号が隣で、最初に話したっていうのもあるから、えらく懐かれて・・・」
「懐かれた、って・・・。宇羅さんも江口さんといっしょにいるときは楽しそうにしてるけど?」
「・・・やっぱ、そう見えるよな・・・」
「え、違うの?」
「はぁ、あいつ、留年しねぇかなぁ・・・」
「・・・・・・・・・・・・えぇ・・・・・・・」
留年って・・・。大学ならまだしも、高校で留年って、家庭の事情とか、体調の問題とか、そんな特別な事情じゃないと起こらないんじゃ・・・。
「知ってるか・・・?あいつ、授業中寝てるか、関係ないことばっかりやってるんだよ」
「あ、ああ、たまに寝るな、って、先生に怒られてるよね・・・」
「もっと怒れってんだ・・・。何なら廊下に立たせりゃいいのに・・・」
えー、怖っ、結構恨んでるよね・・・。
「な、何かあったの・・・?」
「あいつ、あたしにいっつも頼ってくるんだよ・・・。何かレポート出すときは、あたしが提案したアイデアを丸々躊躇なくパクるし、テスト直前になったら、いつも授業聞いてないくせにあたしに思い切り勉強教えてくれ、って頼んでくるし・・・。結果、それでぎりぎりとはいえ赤点を回避して本人は満足みたいに思ってるし・・・。これじゃあ、真面目に聞いてるあたしの方が馬鹿みたいでよ」
確かに、宇羅さんの成績は良い。学校のイメージも真面目で通ってるし。そっか、そう考えると、いつも楽してるのに最後だけ頼るのは嫌だよね・・・。
「で、でもさ、留年しろ、っていうのはちょっと言い過ぎじゃない?」
「・・・そうだな・・・。じゃあ、全教科赤点取ってその補習に追われて、てんやわんやになって夜も眠れなくなればいい・・・」
「いや、それはそれできついよ・・・」
何かやけに具体的だし。
「・・・じゃあさ、いっそのこと言っちゃえば?ちゃんと授業受けて、って。私はノートを見せないから、って」
「・・・そこなんだよな・・・。一応、あいつにはあたしと話してくれる、ってことで、世話にはなってるんだよ・・・。ほら、あたしって少し暗いから、コミュニケーション苦手でよ・・・。そんなあたしに声をかけてくれたのは沙樹なんだ・・・。そう考えたら、恩もある、って思ってしまってな・・・」
「ああ、なるほど・・・」
「ま、沙樹にとっては、何もしてるつもりはないんだろうけどな・・・」
ふーん、この人、つまり簡単に言ったら、お人好しなんだろうなぁ。優しい、っていうか、人をほっとけないっていうか・・・。良い人だもん。
「・・・そういえば、この間な、沙樹が先生にこっぴどく怒られていたんだよ。多分、部活の顧問か誰かだろうと思うんだけど・・・。それたまたま見かけてよ・・・。沙樹の泣きそうな顔と来たら・・・」
・・・あれ、今いい人、って思ったばっかりだよ?
「・・・くく、思い出すだけで、飯何杯もいけるよな・・・」
怖っ!!その笑み怖っ!!なにそのざまぁ見たかみたいな笑い顔!この人、ネットの書き込みとかで江口さんのこと、めちゃくちゃ叩いてるんじゃないの・・・?
「おっと、あたしとしたことが・・・」
「いや、ほんとだよ。笑うのは良いけど、その怨嗟を孕んだ笑い顔はしないほうがいいよ?」
「ああ、気を付けなきゃな・・・」
「・・・あのさ、一応聞いておくけど、江口さんのこと嫌いなの?」
「いや、嫌いってわけじゃないんだ・・・。あいつが友達か、って言われたら、あたしは間違いなく即答するし・・・。ただ、何ていうのかな・・・。多分、あいつ、今まで甘やかされて育てられてきたと思うんだよ・・・。だから、自分が人に迷惑かけてる、って全然思ってなくてさ・・・。そう考えると、ほんと・・・」
「一回でいいから死ねばいいのに」
「いや、怖いわ!!」
女って怖っ!私も女だけど、同性からみても怖っ!
「いや、一回だけだから」
「一回死んだらもう終わりだよ!」
ドラゴンボールじゃないんだから!
「・・・なんてな。まぁこれも、あいつのことが大事だからこそ、言える冗談なのかもしれないな・・・」
・・・ん~、そうなのかなぁ・・・。大事だからこそ死ね、って、普通言う・・・?
「・・・ありがとな、堤・・・。あたしの愚痴聞いてくれて。何だかすっきりしたよ」
「あ、そ、そう?特に私何もしてないけど・・・」
「じゃあ、またな」
「う、うん、じゃあね・・・」
そう言って、宇羅さんは帰っていった。
・・・やっぱ人って、腹の底で何考えてるか、分かんないなぁ・・・。
to be continued...
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