第三話 華々しいデビューなんてある訳ありません

 今年、この江ノ島中学の野球部に入ってきた1年は総勢34人、マネージャー2人。

 2、3年と合わせれば総勢83人とそんじょそこらの有名私立高校の部員と変わらない数を誇っている。

 そして1年には去年高円宮杯を制した熊崎レンパーズのエース神楽坂、高円宮杯を逃したものの全スポで優勝経歴のある火の旗レンジャーズの正捕手でありU12のキャプテンで4番雅 雅人(みやび まさと)、等など名高い選手が集まってきた、そしてここで3年間に渡る熾烈なレギュラー争いを行うのであった。


 さてまずは質問だ、見学初日でチームの4番を抑えた俺は華々しいデビューを飾ったと思いますか? 答えはノーだ!


「ポール間ダッシュ後30本な、終わったらリズムスクワット100を5セット、それ終わったら外周タイム走、んでその後筋トレな」


 はっきり言ってやろう、地獄だ。まずアップ、ほぼダッシュに近いランでグラウンド20周、そっから1年はポール間ダッシュ50本、後は今言われたメニュー。

 ボールなんて触れる気がしない、練習終わりになったら触っていいのだろうけれども⋯⋯。

 PM6:00 練習終了。

 喜んでいられるのも束の間、練習終わりにはもう1つ苛酷なメニューがある、そう


「1年、ちゃんと飯3杯は食えよ、残したら承知しねーからな」


 PM6:30 夕食

 食事もトレーニングと言い家近いやつは家に帰る前に、寮のやつは寮に帰る前に飯を食べる、俺は寮なので少しゆっくりと食べられるがもたもたしていると胃に満腹という感覚が出てくるから早くかきこまないとほらゲロる。


 PM8:00夕食終了

 夕食が終われば風呂に入ってからまた自主練、俺はランをしているがその間にボールを触るやつもいる、まだ俺はボールは早いと思っている。だからランを終えたあとは課題の下半身の体重移動を意識したシャドーピッチングをしている、時より先輩達が見てくれるのでとても勉強になる。

 PM10:30 消灯

 寮の消灯時間は早いのであの2時間をどう活かすかがキーポイントになってくる。

 AM6:00 起床

 朝起きてジャージに着替えて朝の自主練を始める、主にはランとストレッチをメインに朝はやっている。

 AM7:30朝食

 朝食も2合~3合を1年は食べる俺は勿論3合を食べている、吐きそうだがな。

 AM9:00練習開始

 1日練習の時は1年もボールを触らせてもらえる、キャッチボールから目立った選手はノックに入れてもらえる。俺はブルペンに入ることを許されたのでピッチングをすることにした。


「雅、今日は全力で行くぞ」


「おーけーオールライトだ」


 この独特な返事の仕方が雅 雅人だ。俺も1度対戦してホームランを打たれている、なんと言ってもやつの武器はスイングのヘッドスピードとそれを活かすフルスイングだ。ゆったりとしたフォームからコンパクトにそして捉えたら後は大きくぶん回す、こんな怖い選手が味方だと楽だ。


「ストレート」


 インローに厳しくベースを掠る位のギリギリに、


「バチン!」


 いい所に決まった


「うん! 今のだったらボール半個分入っているね」


「サンキュー! 次外、そんでその後から変化も混ぜるわ」


 今俺が持っている変化球はスライダー、カーブ、カットボール、そしてスプリットだ。

 それぞれの球が独特な変化を遂げているので早く投げたい。

 ブルペンで90球程投げたらそのままランメニューをこなす。


「また今日も1人か」


 それもそうだ好き好んでランメニューなんてするやつ俺以外に──


「君も走るの?」


 長身で少し上半身は細いが下半身はしっかりしている、ピッチャー体型と言うやつだ。

 そしてこれが3年間の熾烈なエース争いをする鹿又 阿翁(かのま あおう)と言う男との出会いだった。

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このマウンドに一番立ちたい! 道山 神斗 @Shiryu0523

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