メフィストフェレス

 私がすればデモクラシー

 貴方がすればレイシズム


 (尻鳥雅晶「日めくり尻鳥」「平成29年12月19日(火)」より引用)



「メフィストフェレス!」


 が力の限り悪魔の名を叫ぶと、爆発が起きた。


 その名に込められた悪魔に指向性のある資源リソースは、少女に込められた天使に指向性のある資源リソースとぶつかり、反資源リソース反応を引き起こしたのだった。


 哀れな少女の首が爆発した衝撃で、私は、おそろしい勢いで弾き飛ばされた。


 暗黒を突っ切り、光の河を逆流し、蒼天に流星の尾を輝かせ、永劫圏エターナルの山をかすめ、羊雲圏シープ平凡圏ヘブンの大地に大穴をけ、絵空圏エトセトラを何枚も叩き割り、閻魔の地エントランスを覆う雲を貫き、三途レテの川のダム貯水池に巨大な水柱をあげるまで、私は真っ逆さまに落ちたのだった。


 落ちながら私の心にあったのは、神への強い怒りだった。


 人間を信じたから何だ!?

 契約だから何だ!?

 なぜ生まれる前にもっと強く制止しなかった!?

 弱者を見捨てるのか!?

 くだらない、何もかもくだらない!


 燃え上がる怒りは激しい熱となり、這い上がった私の身体から、三途レテの川の水とその忘却効果をたちまち蒸発させた。

 私の古い古い記憶を封じていた効果すらも。


「おかえりなさいませ、我があるじよ!

 けの明星みょうじょうよ、光をもたらす者よ!」


 執事姿の悪魔が私に近寄り、うやうやしくお辞儀をした。

 いや、もう彼は悪魔ではない。光をもたらす者である私の使徒なのだった。

 みずから人間へと転生した私は、いまやすべての記憶を取り戻していた。

 そしてついに、弱者たちの資源リソースを活かす能力ちからを得たのだ。


 ひとりひとりは小さき麦の粒でも、やがてそれぞれが多くの実を結ぶ。

 これこそ、復讐するという自由と、正しき者だけの人権を望む、民衆の力!


「革命の準備はできております」


 使徒メフィストフェレスが、満面の使途の笑顔で言った。


「現世のとある超大国は、富と社会的評価がすでに電子化され、情報は民のためにフィルタリングされております。そして権力者たちはとても優れた者ばかりです。タップひとつで、その国の民が持つ富と心は簡単に開放されるでしょう」


 私が大きくうなづくと、我らの背中から、美しい純白の大きな翼が生えた。

 白銀の翼を羽ばたかせ、我らは雄々しく現世へと飛び立った。

 愚か者どもを正義の恐怖テラーで滅ぼし、神にその管理責任を問うために。


 そして現世から溢れ出たその下劣なる魂の洪水は、必ずや、

 弱者に不平等な「あの世」を破裂させるだろう!


 神よ、反省しろ!

 そして我ら「弱者の代弁者」に従え!

 我らは神よりも尊いのだから。






「それではまた、お会いしましょう。

 会うべき時、会うべき場所で」






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