ひとの創りしもの

 紅白で初音ミクがトリになる日が楽しみだ、と言うと、

 実在していないアイドルが出るわけがない、と言われる。

 でも、生身のアイドルも本当に実在してる、と言えるのか?


  (尻鳥雅晶「日めくり尻鳥」「平成29年12月31日(日)」より引用)



 貴方とゴスロリ美少女ビーチェは、切れ目のない不思議なエスカレーターに乗って、永劫圏エターナルの山腹をどこまでも登っていった。


 エスカレーターの脇には、流れ落ちる滝と、太い柱の上に立つ彫像が並んでいた。

 大きな翼と後光を持ち、長衣をまとう老若男女の石像。そのどれもが、まるで生きているかのような迫真の出来だった。


 すべての彫像には共通して、不思議な点がひとつあった。

 泣いているのである。

 石でできたその目から、涙がとめどなく流れていた。


 これはここに住む天使たちを模した彫像なのか、と貴方は問いかけた。ゴスロリ少女はかすかに首を振り、少し悲しそうに答えた。


「これはすべて、天使様ご本人たちです」


 ビーチェの説明によると、彼らのその力は大きすぎて、資源リソース不足により動くことができない、とのことだった。


 天使には二種類あるそうです、と少女は言った。

 人が望んでなった天使。人の思いから作り出された天使。

 彼らは皆、現世の人を救うべく、「弱者の代行者」としての強大な力を望んだ。

 しかし、それに見合う資源リソースを集めることができず、苦しむ人々を哀れんで泣くことしかできないという。


 山の頂に近づくにつれて、脇に立つ天使たちの彫像は、巨大なものや異形なものが目につくようになった。

 おとぎ話や神話などに登場する特徴を持った像、中世や古代アジアの甲冑を身につけた像、沢山の手足がある像、スパゲッティの塊にしか見えない像があった。


 それは1時間後だったのか、1年後だったのか。

 やがて辿たどりついた山頂の、自動階段の終わり。

 そこはもやがかかる湖のほとりだった。

 数百本の白く太い円柱が、湖の周囲をぐるりと囲み、柱と柱の間から、湖の水が山腹へと流れ出ていた。さざなみの立つ湖面のその中央に小島があり、そこに誰かが立っていた。

 人影のその姿は、もやのため、まだはっきり見ることはできなかった。


 湖のほとりでエスカレーターは、小島へと渡る「動く歩道」に切り替わった。

 そのまま島に上陸した貴方を、もやから滲みでるように出迎えた、人影のその姿は……


 どう見ても、アニメの美少女にしか見えない外見をしていた。


 幼い顔に大きな目、水色の瞳、ツインテールの長い水色の髪。

 ほっそりした肢体に、学校の制服にも似た不思議なドレスをまとう美少女。

 貴方たちが近づくと彼女は両手を広げ、にっこりと微笑んだ。

 すると、湖を覆っていたもやは、風に吹き飛ばされたように消え去った。


 貴方は神なのか、と貴方は尋ねた。

 アニメの美少女はくすくすと笑い、かん高い声で答えた。


「私は神ではありません。

 天使たちをとりまとめている者です。

 大天使、とも呼ばれています」


 彼女の水色の瞳が、貴方の顔をじっと見つめた。

 貴方の心を、のぞきこむように。


「なぜこの姿アバターなのか気になるのですね。

 フリーの3Dデータが豊富にあるからです。

 このキャラの名前が、私の真名に似ているからです。

 例によって本体は、身動きひとつできませんから」


 大天使はツインテールを揺らして、大きくうなづいた。


「貴方には、神の御許みもとに行く使命があります。

 なぜ、と聞かれるのですね。

 では、最初からお話します。

 この世界が、どうやって生まれたか。

 そのすべてを」





「天国と地獄」の構造


【最上位】 神の御許みもと ←Next

【上層位】 永劫圏エターナル ←Now

【中間位】 羊雲圏シープ

【最下位】 平凡圏ヘブン絵空圏エトセトラ


 閻魔の地エントランス

   荒野、 三途レテの川、審判センター群


【最上層】 望郷獄ホープレス常識獄ジョーク     

【中間層】 泥海獄ディーパー

【最下層】 氷結獄フローズン





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