終わりの始まり

   生きてるときですらロクに何も判らないってのに、

   死んだら急に何もかも判るようになるってのは、

   少しばかり虫が良すぎるんじゃないかい?


   (尻鳥雅晶「日めくり尻鳥」「平成29年10月2日(月)」より引用)



 気付くと、貴方はこの肌寒い荒野に立っていた。


 ここは……?


 見渡す限り、緑なき荒涼たる大地が広がる。

 僅かな起伏の、ざらざらとした平らな岩肌が地平線まで連なり、草木も虫も獣もまったく見かけない。ただ岩だけの世界。

 見上げれば、灰色にうごめく雲の波が、むきだしの大地に蓋をするがごとく空を埋め尽くしていた。


 あれは……!


 雲の切れ間から、巨大な顔のようなものが一瞬、見えたような気がした。

 ……しかし、すぐ流れる雲がその何かを隠してしまった。

 ふと気配を感じて、貴方が後ろを振り返ると、そこに立っていたのは……


「……あの……こんにち……は」


 おずおずと小さな声で貴方に呼びかけたのは、十代とおぼしき、人形のように整った顔立ちの少女。

 いままで陽に当たったことがないような青白い肌でなければ、その大きな目の下に黒いくまがなければ、美少女と言い切ることができるだろう。


 さっきまで、誰もいなかったような気がしたが……


 ゴスロリ、と言う服だったか、古風な白いフリルの黒いドレス、日傘を差した、この荒野に浮きまくるその姿を、いったい今までなぜ見逃していたのだろうか。


「あの……わたしは……ビーチェ、名前は、ビーチェ……です……」


 そう名乗ったゴスロリ少女、ビーチェに、貴方もまた自分の名を告げた。


「あの……ちょっと、おうかがいしても、よろしいですか? ここって、いったい、どこ……なんでしょうか?」


「それについては、わたくしがお答えしましょう」


 貴方とビーチェは、突然聞こえた男の声に、揃って同じ方向を見た。

 そこに立っていたのは、黒い執事服を着た、初老の男。


 さっきまで、そこに人影はなかったような気がしたが……


 初老の男は、微笑みを浮かべ、ていねいに、大げさにお辞儀をして言った。


「わたくしは、メフィストフェレス。しがない悪魔でございます」


 悪魔、という単語に息を呑むひまもなく、彼は続けて衝撃の事実を告げた。


「ここは、あの世。いわゆる死後の世界です。そう……お気の毒ですが、貴方がたは、すでに死んでしまったのですよ」




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