あの世って何なのよ?
尻鳥雅晶
グランマは恥ずかしがりや?
天国だと? 地獄だと? 転生だと?
人の子よ。なにゆえ死の、終わりの、
大いなる平等を汚すのか?
(尻鳥雅晶「日めくり尻鳥」「平成30年3月22日(木)」より引用)
そのビデオは、まだ私の本棚にあるのです。
今は亡き祖母の姿と共に、ありえない映像が録画されたビデオテープが。
※ご注意 それほど怖い話じゃないですよ!
それは1970年代のこと。
私の父方の祖母は、いわゆる「長寿村」のひとつに住んでいました。
ご存知の方も多いかと思いますが、「長寿村」とは高齢かつ健康な老人の比率が高い村のことを指します。
私の祖母は、そんな長寿村のひとつで、毎日元気に農作業に勤しむ最高齢(当時)の女性でした。その事実は話題性があったため、とあるドキュメンタリー・テレビ番組の監督が注目しました。祖母が「テレビに出る」ことになったのです。
いざ放映日。
テレビの前で整列する私たち家族、その中心にあるのは、父がこの日のために奮発して買ったビデオデッキです!
ビデオの規格は数世代前のUマチック。人間にたとえると、ひいひいひいおばあさん、の規格とも言えるでしょう。
そのお値段、なんと当時50万円!
番組終了後、見知った風景をテレビで見たことに満足のため息を漏らしながら、私はビデオカセットテープの誤消去防止キャップを外して捨てました。こういうメカなことは当時の私の役目だったのです。なお、「誤消去防止キャップ」とは、Uマチックの仕様で、外すと上書き防止の役割を果たします。
そしてその後、親戚一同が集まるたびに上映会が行われたのでした。
身内が出たテレビ番組にそれほどの価値があった、そういう時代だったのです。
残念なことに数年でビデオデッキは故障しました。デッキの販売競争が激化してきた時代なので、脆弱な仕様のままで見切り発売された製品だったのだと思います。
そのとき、我が家ではデッキは修理されず放置されてしまいました。なぜなら、祖母の番組を録画して永久保存としたテープの他には、使いまわし用のテープが一本だけだったからです。たった1本で上書きを繰り返す、という使い方は、それほどビデオの魅力を高めてはくれません。そしてテープを買い足すことに、倹約家の父はいい顔をしませんでした。
まあ、30分テープで当時1本1万円だもんね! 修理代も高いし!
やがて、誰もがそうなるように、祖母は亡くなりました。
しばらくして周りが落ち着くと、あの番組をもう一度見たいという親戚の声があがりました。
やっとデッキは修理され、一同の目の前で蘇る祖母の姿。
しかし。
そのラストシーンに異変がありました
「恥ずかしいだよぅ」
番組の最後で、そう漏らす祖母にかまわず、接近するカメラ。画面いっぱいに映る野良着の祖母が、締めの言葉を言う。
そんなラストのはずだったのに。
祖母の顔のアップの替わりに映ったのは……!
それは、ごく普通の、朝のニュース番組、でした。
なんだ、上書きしただけか、別にめずらしくもない、と貴方は言うかも知れません。しかし、そんなはずはないのです。
朝のニュース番組には時間が明示されます。その時間とは、そう、まさしく、祖母の亡くなったその時間、だったのです……!
いったい何の不思議パワーが働いて……
電源を抜いた故障中のビデオデッキが作動して!
臨終騒ぎで誰も見てないテレビ番組が!!
上書き不可のテープに録画されたのでしょうか!!!?
そんなことが起きるはずはないのです……!
だから、私たち家族はこう思ったのでした。
「おばあちゃん、恥ずかしかったんだなあ。消していったよ」
そのビデオは、まだ私の本棚にあるのです。
Uマチックだから、気軽に見ることはできませんが。
そしてこの実体験は、私が「あの世」の実在を確信する決定的なエピソードとなったのでした……
さて。
私のこのテキストは、「あの世」について考察するものです。
エッセイと小説を交互に投稿する、虚実取り混ぜた形式です。
従って、今回の続きは次々回ということになるのですが、あらかじめお断りしておきます。
次々回、私はたぶん、貴方がいま思っていることを裏切ります。
それではまた、お会いしましょう。
会うべき時、会うべき場所で。
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