ただそれだけの話。

ただそれだけの話。

僕の彼女は彼女の弟が好きで彼女の弟は彼のはとこが好きではとこは従弟が好きで従弟は姉の親友が好きで姉の親友は姉が好きで姉は部活の後輩が好きで部活の後輩は兄の知人が好きで兄の知人は僕の伯母が好きで僕の伯母は僕の叔父が好きで僕の叔父は僕の母が好きで僕の母は僕の父が好きで僕の父は僕の妹が好きで僕の妹は僕が好きで。

だから。

だからだ。

最初に妹が消えた。そうして父がいなくなり母が失せた。

そうして最後に僕の彼女の弟が消えて、

彼女が警察に連れていかれた。


「ふ……」


心配して家に押しかけてきた友達を正しく適当にもてなして帰した。

ふ、あははははははは、暗い部屋で笑いがもれる。

カーテンを閉め切った部屋に鍵をかけて電気をつける。

部屋中にはられた写真、僕の友達。

彼が口づけたグラスを持ち上げる。

強く握りしめて、力を緩めた。

スローモーションで床に落ちて砕け散る瞬間を見た。

へこんだ床に、散らばるガラスの破片に

歪んだ笑顔の僕がうつった。

ただそれだけの話だ。


(誰も思わない。

僕が誰を好きかなんて。

愛しているかなんて! 

誰も誰も気づかない。

自分の恋が誰かに仕組まれたものだなんて!)

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楽書きこれくと 小雨路 あんづ @a1019a

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