エピローグ
「和人、部活行くよ!」
「ああ、ちょっと待ってよ明音」
部活の準備をしている彼に声を掛けた。
「あ〜あ、明音には裏切られたよ」
重美が隣でふくれっ面をして声を上げた。
「何それ?」
「約束したのに吹奏楽部やめてバスケ部入っちゃうし、おまけにあんな素敵な彼氏まで‥やってられないよ!」
「約束は守ったよ、一度は吹奏楽部に入ったんだから、彼氏は‥重美も頑張れ!」
「お待たせ明音、体育館へ行こう」
和人がわたしの横へ来て肩を叩いた。
「いいな〜、仲良いよねいつも」
「そうでも無いよ、和人は厳しいんだから、取り分けバスケについてはね」
「おいおい、何の話し?」
「何でも無いよ、部活行こっか」
「ハイハイ、二人とも早く行きな!頑張ってね明音」
重美が笑いながら手を振った。
わたしと和人は並んで体育館へ向かって廊下を歩き始めた。
「村田さん、バスケ部のマネージャー辞めたんだって?」
「うん‥」
「わたしのせいだね」
「それは違うよ、俺のせいだよ、俺が友達ならなんて言ったから、やっぱり恋愛感情ある奴とは友達にはなれないんだよな」
「そうなのかな?」
「今度の日曜日、部活休みだろ?どっか出掛けない?」
「それって‥デートの誘い?」
「まあ‥」
「お母さんが和人をうちに連れて来いって、どうする?来てくれるかな?」
「えっ!明音の家に‥」
「日曜はお父さんもいるよ」
「ハ〜ッ、無理だよ、俺自信ない‥」
和人は大きなため息をつくと、右手で顔を覆った。
「大丈夫だよ、命まで取られないから」
「そうだけど‥俺どう思われてんのかな?」
「さあね、お父さんわたしに彼氏が出来たの知って相当ショックを受けてたらしいよ」
「そうだよな‥付き合ってるの反対されちゃうかな?」
「それは無いと思うよ、お母さんに和人の写真見せたら、あんたにはもったいないって言ってたから」
「ハ〜ッ、憂鬱だな今度の日曜‥」
和人が今度は小さくため息ついて言った。
「和人もっと自信持ちなよ、お父さんもお母さんも、わたしがまたバスケ始めて随分明るくなったって応援してくれてれるし、キッカケは和人なのも知ってるから安心してよ」
「そうは言っても緊張するよ」
彼はかなり深刻な顔をした。
「フフフ、和人でも緊張することなんてあるんだ?」
「彼女の両親に初めて会うのに緊張しない奴の方がおかしいよ」
「それもそうだね、困ったらパス出してよね、上手くサポートするから!」
「頼むよ明音、でもその言葉で少し勇気が湧いてきたよ」
「頑張ってね!最初が肝心だからね」
「わかってる‥」
和人は深刻にそう言うけど、わたしは全く心配などしていない。
和人なら自信を持って紹介出来ると思うからだ、きっとうちの両親も気に入ってくれるに違いない。
体育館へ続く渡り廊下は初夏の香りで満ち溢れて、わたしと和人の笑い声が響いていた。
–完–
初恋 神木 ひとき @kamiki_hitoki
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