4-4 殺人の「動機」

「しかし、肝試しに行って、次に日に参加者が事故に遭うって、どんな気持ちなんでしょうね。僕だったら不安で、夜も眠れないですよ」


「木村、あなた幽霊とか信じているの?」


「信じてはいませんが、怖いのが苦手なんですよ。それに信じていなくとも、あんな事故が起こったら、生きている心地しませんって」


「それが信じている、って状態じゃないの?」


「度合いの問題ですかね。人は人間の想像の及ばない部分に、神霊を持ってきて、理論的に説明し、心理的安心と安寧を得ています。だから今回のように、理論的に解説できない部分があると、気持ちが神霊に傾いちゃうんですよ。もしかしたら、そんなことあるかもしれないって」


「俺たちはその心的不安を解消するために、真白陽奈っていう殺人鬼を作り上げたのかもしれないな」


「真白さんは犯人じゃないって言うの?」


 敬一郎の科白に、初音は憤慨しながら言った。ここまで来て、裏切り行為のように思える。


「普通に考えるなら、犯人だという証拠がないんだから、疑うほうがどうかしているよ。それによくよく考えてみれば、真白さんは移動手段を持っていないんだろ? どうやって、最初のバイクでの事故を起こせたというんだ?」


「だから、それは眼鏡のイケメンよ。彼が真白さんに協力しているの」


「次はイケメン犯人説か。忙しいな」


「何よ、その言い方!」


 初音は、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。周囲の冷ややかな視線が突き刺さってくる。


「二人とも、喧嘩はよしてください。それよりも建設的な話をしましょうよ」


「何よ、建設的な話って?」


 初音は椅子に座りながら訊き返した。


「霊験新たかな霊媒師を捜して、夜通埼神社の呪いを解いてもらうんです」


「あんたね~」


 初音は呆れて果てて、怒る気もなくなった。

 それじゃ、店長とレベルが一緒じゃない。だいたい夜通埼神社の呪いを解く方法なんて――。


「あっ!」


 初音は思わず大声をあげてしまった。そうだ、確かあの雑誌に、そんなことが書いてあったはずだ。


「立花、どうした?」


 敬一郎が訝しげに尋ねてくる。


「今思い出したんだけど、最近読んだ雑誌の記事に、夜通埼神社の呪いについて書いてあったのよ。そこに呪いを解く方法も書いてあったわ」


「なんだって!? それでどうすれば?」


「読んでないわよ。ちょうどお客が来たら、そこは読まなかったの」


 その回答に、敬一郎は露骨に肩を落とした。


「別にいいじゃない。どうせ呪いなんて存在しないんだから」


 責められているようで、初音はちょっと不機嫌になる。


「あの」木村が手を挙げて、割り込んできた。「ネットで調べてみたらどうでしょう? 夜通埼神社って、それなりに有名らしいですから、情報が載っているかもしれないですし」


「別に調べなくてもいいわよ」


 初音は不満そうに言った。早く、この不毛な呪い議論を終わらせたい。


 初音は空になったコップを三つ持って立ち上がると、水を入れてから、再びテーブルに戻ってきた。


 木村と敬一郎はスマホに夢中になっている。どうやら、夜通埼神社の呪いについて調べているらしい。


「そんなことより、これからどうするかを話し合いましょうよ」


 初音の提案に、しかし二人は反応しない。陽奈のことを調べにきたはずなのに、どうして夜通埼神社のことを調べているのだろうと、馬鹿馬鹿しく思った。


 と、そんなときだ。


「た、立花さん。これ!」


 木村が慌てたように、スマホの画面を見せてくる。


「こ、これ読んでください。ヤバい内容が書いてあります!」


「木村、近い近い」


 初音は追い払うように木村を押し戻して、仕方なくといった感じで、スマホを受け取る。


 そこには夜通埼神社の呪いについての情報が載っていた。


 真白な背景に無骨な文字が淡々と並んでいる。初めに八崎神社の呪いについての説明とそれに纏わる逸話、実際に起こった事故や報道された内容までが書かれてある。


 画面を動かしていくと、下のほうに呪いに対処する方法とやらが書いてあった。


 なんの気もなしに、それを読んで、次の瞬間、初音は目を見開いた。


「――これって、まさか!?」


「はい。間違いないです。これが、これこそが『動機』だと思います」


 そこに書いてあった内容は、まさに肝試しの日から起こった不審死に、一筋の光を灯すものだった。「動機」がそこに書かれていたのだ。


「見てるの、同じサイトだよな?」


 敬一郎が青ざめた表情で訊いてくる。スマホを見せ合うと、敬一郎も同じサイトを見ていた。


「しかしこれが原因だとすると、ネットを調べた人全員が、犯人候補ってことになるな」


「それだと特定は無理ですね。家にネット環境がなくても、スマホからでもアクセスできますから。しかし、本当にこんなことを実行している人間がいるんでしょうかね?」


 木村が疑うように同意を求める。しかし――。


「いるんでしょうね。こんな方法を真に受けた馬鹿が。イカれた奴の思考なんてわからないけど、これで呪いの線は完全に消えたわ。間違いない。あれは殺人事件よ!」

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