第5話情報整理
オロバス。
ゲゼルの口から出た結果は、アギトの想像通りのものだった。
ここは本当に知らない場所、知らない国、知らない世界。
泣き喚いた時に予感はあった、しかし心の何処かで微かな希望が捨てきれないでいた。
先程からゲゼルは日本語で話している、何かの機械を通してでなく、彼の喉から、ハッキリと。
それが尚更アギトに希望を抱かせたが、現実は裏切らない。
であれば、次の質問はこうだ。
「あの、その言葉は…どうやって…」
当然の疑問、この世界の人々の言葉が異質なものなのは吐くほど思い知っている。
故にわからない、なぜ日本語が話せるのか。
こちらに機材が着けられている感覚はない
ならば他に自身と同じ境遇の者がいる?
日本との関わりが既にあった?
魔術の影響?
「あぁ、これは魔術のお陰だよ、ちょっと難しいけど人の知識を読み取る魔術があってね」
「君が眠ってる間に語学知識を学ばせてもらったよ」
答えは魔術、やはり超常だけあって底が知れない。
どういう原理か、どういう仕組みか、少し掘り下げて聞いてみたいと思ったが、情報整理を優先し、知識欲を飲み込むアギト。
「俺みたいにこっちに来た人とかは?」
「うーん…いないと思うよ」
「……思う?」
歯切れの悪い回答だと気付くのは簡単だった、曖昧な返事を聞き、即座に反応を示す、自身の置かれている状況をより正確に知るために、多少敏感になっているのだ。
「実を言うとね…君がこちらに来たのは我々からしても想定外だったのだよ」
「元々は物質転送の実験中でね、神の国…いや君の世界へちょっとしたアクションを起こす為のものだったんだ」
新たに出てきた情報がアギトの思考を濁らせる。
「えっと…なんでそんな事を?」
纏まる前に口が動いてしまったが無理もない、こんな疎らなピースだけでパズルの完成は不可能だ。
「…我々はある調査をしていてね、おとぎ話の世界の実在を調べているんだ」
「それが、日本?」
「ニホン?それが君の世界の総称かい?」
どうやら二、三言交わす程度じゃ終わりそうもない、それは相手も察した様だ。
「取り敢えず、深い話は今度にしようか」
提案にアギトは首を縦に振った、仕切り直す様にゲゼルが話す。
「まぁ我々は色々調べてる程度の認識でいてくれ、それで…君の事、なんだが」
そう言うと少し俯き、何か申し訳なさそうに眉間にシワを寄せ、間を置く。
意を決し、ゆっくり深呼吸、アギトの目を見て真実を告げる。
「君を元の世界に帰らせられない…」
「………え?帰れな……え?」
耳を疑った。
言葉を疑った。
事実を疑った。
先程のゲゼルの様子を見て、何かあるとは察していた。
しかしまさか、まさか帰れないと告げられるとは思ってもいなかった。
「えっ…と、あの…時間が掛かるとかじゃ…ないんですか?」
声が震えている、会話の前にゲゼルが行使した魔術の効果でパニックに陥る事はなかったが、ショックは絶大だ。
間違いだと言って欲しい、手違いだと言って欲しい、帰れると言って欲しい。
願いはただ必死に望んだ現実を手招き、こちらへと手繰り寄せる。
「すまない………」
だがアギトの望む現実は、ここにはいなかった。
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