第2話 続・童貞であるということ

アムウェイ。

ネットワークビジネスの最大手。

マルチではない、MLMなのだ。

そして、MLMとはマルチレベルマーケティングのことなのだ。


「マルチって単語入ってるじゃないか!」


そんなことも思った。

しかし、彼らの言い分は違う。また違法でもないんだと。だから、潰れずに続いているんだという。

時に問題となるのは、身勝手な会員が利益目的に強引な勧誘をしているからだ、と。


カオリから出た言葉。

「アムウェイって知ってる?」

知っているどころではない。めっちゃ知っていた。


数年ぶりにろくに仲の良くなかった知人から妙にフレンドリーな連絡が来て、会いたいというから会いに行ったら勧められたのがネットワークビジネスだ。計2人。

会社は別々のものだったが1つはアムウェイだった。会ってから色々調べて憤慨したのを覚えている。

友達作りサイトでも猛威をふるっている模様で、「夢を叶えよう!」「高収入で悠々自適な生活を!」などと謳っていると大抵がこのネットワークビジネスだった。

余談だが、やたら大勢で映っている写真載せている人は高確率でこれをやっていた。


自分からすると嫌悪感しか生じない。時間を無駄にし、他人を食い物にする、友情を金に変える忌み嫌うモノだ。


(これが目的か…そっちがその気ならこっちも遠慮しない!この女でDTとサヨナラしてやる!)


そう思えたら良かったのだが、可愛い女の子を目の前にすると全くダメだった。


「知っています。ネットワークビジネスですよね。稼げる人は稼げるし、商品は良いもの使っていると聞くし、アムウェイは大手だから他の小さな怪しいものとは違って安心ですよね。」


こんなことを言ってしまうのだった。

カオリは相変わらずの可愛い笑顔で僕に説明をし始めた。

夢を叶えてみないか、好きなことをやってみたくはないか、と。

僕の夢と好きなことは、貴女で童貞を捨てることです、と思ったが、アムウェイに入ってもそういう特典はなさそうだった。

彼女は一人でペラペラ喋り、持参していた用紙にピラミッド型の図形を描き始めていた。


僕は、前かがみで一生懸命書いている彼女を見ながら、

「可愛いなぁ。触りたいなぁ。」

と思っていた。それ以外、何も考えていなかった。

最初の緊張感が緩み、下心が顔を出してきていた。


それでもカオリは何か色々話しながら、紙にサラサラと僕の名前を書き始めた。

彼女は僕を見ながら言った。


「ユキ君もディストリビューターになって、夢を叶えよう!」


そう言われ、カオリの書いたメモ用紙を見ると

「ユキ君 DT」

と書いてあった。


(ど、ど、童貞…!?)

自分の笑顔が引きつるのがわかる。

頭が真っ白になる。心臓バクバク。

そんな訳はない、童貞の話がこんな所で出てくる訳はないのだ。いくら僕が下心を覗かせようと、こんなカフェでそんな侮辱を受けることが現実に起こるわけはないのである。


よく聞くと、DTとはディストリビューター、アムウェイの商品を売る人のことだった。

ディストリビューターという用語は聞いたことがあったが、DTと書くことを初めて知ったのがこの時だった。


結局、いくら話を聞いても童貞を捨てられる雰囲気でもなく、カオリはとにかく入会させようとするだけで、デートとか恋愛とかそういう要素は全くなかった。友達作りサイトで知り合ったにも関わらず、友達になろうという気さえ感じられなかった。


僕にはわかっていた。

カオリにとって、ブサイクな僕の価値判断は、お金を搾取できるかどうかだけ。


隣では、高校生カップルがイチャイチャしていた。人生は不公平で残酷だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る