第3話 神様がいるならば

僕は現在36歳。

これまで劣等感だらけの人生を歩んできた。

本当に悔しくてたまらない人生だった。

思うに、醜い容姿が一番の原因だ。

小学生の頃から、常に容姿の問題で悩み、苦しみ、自殺したいと思うことさえあった。

不登校になったこともあった。


小さいうちは、運動ができれば皆の中心にいることができた。勉強もクラスで上位に入っていた。努力をすれば報われる。それが正しいし、平等だと信じていた。

それが小学生高学年、中学生となってくると、運動だろうが成績だろうがブサイクが少し頑張った程度では全く無意味となった。


全てイケメンに持っていかれる。

どんなに成績が悪くても、不良でも、見た目で人気は決まってしまった。

さらにそれを悪化させたのは学校の規則だ。眉毛を整えるな、髪をセットするな、制服もいじるな。ブサイクにはそのまま醜い姿を晒していろ、というのだ。

不良ぶったイケメン達は、構うことなく整髪料だ、染髪だと盛り上がり、教師は教師で奴等に注意はするものの断固たる処分はしない。

規則を守るこちらはどんどん容姿で差がついていく始末。女の子は完全にイケメン達になびき、遊び人によってクラスの処女はどんどん消えていく。密かに好きだった子でさえもイケメンの1人と付き合って一瞬で終わっていた。

僕はこんな理不尽は許されないと、最初は神に祈って助けを求めていたが、全く改善されないどころか悪化していく一方であったことから、次第に神を呪うようになっていく。


気がつくと、他人に見られることが恐ろしくなっていた。自分の容姿に対するコンプレックスが酷くなり、目の前に立つとまともに話せない。人前ではおどおどした態度になり、それが余計に格好悪くてさらに話すことが苦手になっていく。どんどん根暗な性格へと変わっていった。

そのため友達があまりできず、会話する経験もないまま成長し、環境が変わっても話し方がわからずに結局は友達ができない。

そんな悪循環が続いていく。


高校では少数でもいた友人が、大学ではほとんどできなくなってしまった。

受講の仕方や、パソコンからの申込みのやり方がわからず、誰にも聞けないまま置いてけぼりになって単位を落としていき、ついには留年が決定。退学してしまった。


そこからはしばらくは、ニートをしたり、アルバイトをしたりを繰り返していた。

あまりにも他人と関わらなかったため、1人でいることが一番楽になっていて、アルバイト先でも孤立して辞めてしまう。そんな生活をずっと送っていた。


強制的に生活の見直しをしなくてはいけなくなったのは30歳の頃だった。それまでずっと親に寄生していたため、ついに親の堪忍袋の緒が切れたのだ。


「ユキ、ちょっと来てください。お父さんと一緒に話があるの。」


母親の放ったこの一言で戦慄した。

こういう改まった話し方の場合、大方は、というより100%悪い話なのだ。敗戦国が、一方的で交渉の余地のない不平等条約を締結させられるのだ。


案の定だった。


「実家にいるなら、毎月5万円を差し出すこと。」


つまり、働け、ということだ。

それも継続的に。

より具体的に言えば


「いい加減、そろそろ就職しなさい。」


とのことだった。

対人関係が苦痛の僕には死刑宣告に等しい。

それでも敗戦国としては、抗う術はない。


色々な情報誌、ハローワークで就職先を探してわかったことがあった。


高卒で、職歴がなく、30歳。

誰も見向きもしない。

書類審査で全滅。

圧倒的敗北感。全人格被拒絶感。

社会不適合者の烙印を押された気がした。


ある日、ハローワークの窓口の人から一言。

「事務関係は人気あるから…(貴方みたいなクズは無理)。」


相手の心の声が聞こえたんです。


「肉体労働系なら求人は多いです(お前はそこがお似合いだ)。」


学生時代は成績もそれなりに良かった、色々読書もした。知的労働なら人より少しはできるはずだという自尊心も少しはあった。

それがどこでどう間違えたのか、肉体労働しか選択肢がない道筋に置かれていた。


絶対に自分には向いていない仕事だ。

それなのにそれしか選べないという。

頭がクラクラした。


しばらくは、親に急かされながらも、人生について考えたり、神さまに祈ったりしていたが、何も進展しないことを理解した。神は死んだ。いや、元よりいなかったのだ。


求人が少なくあまり肉体を酷使しない仕事を探し、就職が決まったのはそれからしばらくしてだった。夜間の警備員だ。

無線で呼び出しが入ると出動する。もちろんそれだけじゃなく、定期的に車で移動し施設などの見回りもする。

同じ職場の人間は、一言で説明するのは難しいが、とにかく色んな意味で落ちてきた人たちが溜まっていた。こういう所でしか採用してもらえないだろうという人間。つまり僕のような者が集まる場所。それがこの会社だった。

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