c)フラミンゴの場合
フラミンゴのショーがやっとの思いでたどり着いた亜熱帯地方は、正にフラミンゴの楽園だった。
おびただしいフラミンゴの群れの中にショーの姿は、
居なかった。
ショーは“よそ者”扱いされて虐げられていたのだ。
「やっとの思いで帰って来れたのに、酷い仕打ちだよ・・・人間に飼われたのは随分前なのに・・・まあ、しゃあない。僕はずっとひとりでいたんだ・・・」
「ひとりじゃねーだろ!?」
そこに物言いした奴がいた。
ワニのビアルだった。
ショーが沼地近くで休憩していた時、ビアルがもし呼び止めなかったらショーはまた仲間探しの旅を永遠に続けただろう。
「あの時、一回聞いたけどまた聞いていいかなあ?」
「あ?」
「僕のこと食べないよねえ?」
「食うかアホ!フラミンゴの肉なんかまずくて食わねえよ!」
「す、すいません!!」
「お前はこんな弱気だから、みんなに舐められるんだよ!!とっても辛い思いしてやっとここに来られたんだろ?せっかく仲間に会えたのにもったいねーじゃねーかよ!!」
「そ・・・それは・・・僕は・・・本当は・・・仲間に入れて欲しいのに・・・皆が僕を・・・」
「全く情けねえったらありゃしない!」
ワニのビアルは、呆れた顔でまた沼地に入ろうとした瞬間・・・
ドスン!
「ぐぇっ!」
ワニのビアルはいきなり何者かに思いっきり踏みつけられた。
「痛ぅーーーーーーーっ!誰だよ!」
そこにいたのは、血相を変え肩で息をしてつぶらな目に涙を滲ませた一頭の子供のサイだった。
「誰か・・・!誰か・・・!僕の両親を助けて!お願いします!誰か・・・!僕の両親を助けて!」
「そう焦るなよ、サイの坊や。どうしたって?」
「僕の・・・両親が、何か変なのを食べたら急に苦しみだして・・・のた打ち回っってるんだ!早くしないと死んじゃうよおおおおおお!!!!」
いきなりサイの坊やは
「うええええーーーーーん!」と泣き喚いた。
「よし!僕が行く!」
「フラミンゴさん・・・」
「ここだよ!フラミンゴさん!」
フラミンゴのショーは、この光景に困惑した。
2頭のサイが、息を絶え絶えに苦しそうにのた打ち回っていた。
「苦しい・・・」「た・・・助けて・・・」
「もしや?」
あっ!といきなりショーはひらめいた。
「ちょっと口を覗かせていいかな?」
ショーは、親サイの一頭のおちょぼ口に長細い首を捻じりこんだ。
「ああーーーーーーーっ!」
思わずフラミンゴのショーはサイの口の中で叫んだ。
「何でここにゴム風船が?!」
・・・・この亜熱帯地域にも風船が飛んでくるとは・・・間違ってなんかの食べ物と間違って食ったな?!・・・
ショーは一か八かと、サイの喉元を嘴でこちょこちょとくすぐってみた。
サイは鼻をムズムズとした。
「は・・・はっ・・・くしょおおおおおおおおおん!!!」
フラミンゴのショーはサイの轟音のようなくしゃみからでた唾液と共に吹っ飛んだ。
と、同時にサイの口から半ば萎んだ緑色の風船が飛び出してきた。
「おえっぷ!取れたあ!」
「何これ?」
サイの坊やは聞いた。
「ねえ、ちょっと聞いてるんだけど・・・ねえ、ねえッたら!
・・・シカトする気だな?!エイッ!」
サイの息子は、鼻の傍に付いている太い角でもう一頭のサイのおちょぼ口に顔を突っ込んでいるフラミンゴのショーの尾羽の尻に、
ドスン!
と、ぶつかって行った。
「ぐぇっ!何するんだ!風船が喉の奥に嘴の届かないとこに行っちゃったじゃねえか!」
「ご・・・ごめんなさあああいいい!!」
サイの坊やはわあわあと何喚いた。
すると、突然・・・
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
と、親サイのおちょぼ口からゴム風船が出てきて、いきなり膨らみ始めたのだ.
「サイの坊や、あれが君の両親を苦しめた原因だよ。危ないから耳をふさぎな。」
「え?」
「え?じゃないよ!この風船が割れたらドデカイ音するぞ!」
サイの坊やは、フラミンゴの言う通りラッパのような耳を、太い脚で抑えた。
やがて、親サイの口から膨らんでいるゴム風船をどんどんどんどん大きくなり、そして・・・
パァーーーーン!!
「きゃっ!」
サイの坊やは悲鳴をあげた。
「あれ・・・?急に息が出来るようになったわ・・・?」「俺も。」
「パパあママあ!」
サイの坊やは、サイの両親に顔を押し付けてわあわあと泣きじゃくった。
「フラミンゴ・・・貴方が私達を助けてくれたの?」
「はい・・・それが?」
「うちのが何か貴方に迷惑かけましたか?本当に泣き虫なんだから。こらっノバ!!」
「そう怒るなよ、息子さんはあなた方を助ける為に必死だったんだよ。ん!?ははーん。これを食べたな。」
フラミンゴのショーは、茂みの片隅に貯まっている飛んできて、やがて萎んで墜ちてきた無数の風船を発見した。
「サイの皆さん、まさかこれを何かの食べ物と間違えて・・・」
「面目無い。口に入れたら、しこしこした歯触りに夢中になりすぎて。危機管理を怠った我々の落ち度でした。」
「ん・・・?」
ショーは突然何か、微かなことを思い出した。
・・・いつだっけ?僕がこの風船を膨らましたりしたのは・・・
そして閃いた。
「そうだ!!」
「な、なんだぁ!?」と父サイ。
「いや、何でもない。」
「分かってるさ。お前の考えてること。手伝わせてよ。」
そこにヌッと現れたのは、ワニのビアルだった。
「感動したよ。お前思ったより勇敢だな。伊達にあっちこっち世界中を飛び回って仲間探しをしていただけあるよ。」
「ビアルさん、この萎んだいっぱいの風船の吹き口をほどいてあのフラミンゴ仲間の群れに持っていこうよ!!みんなして膨らまし遊びをすることで、本当の仲間に受けいられたいんだ。」
「やっぱりそう思うと思った。俺だって、このゴム風船で・・・」
「ビアルさんも一緒に風船を・・・?」
「あたぼうよ!風船大好きだもん。」
「でも、ワニがフラミンゴの群れに向かったら、ビックリしてみんな逃げていくんじゃないかい!?喰われるとか思われて。」
「そん時はそん時。俺はフラミンゴの群れに隠れてるから大丈夫だよ。」
「本当っすか!?」
フラミンゴのショーは、長い首をかしげた。
フラミンゴのショーとワニのビアル
、そしてサイのノバ坊やも手伝って茂みの奥に堕ちている、ヘリウムガスがすっかり抜けた風船の吹き口の結び目をほどいたり栓を取り除いたりして、再び膨らませるようにする作業をした。
「ああっ!!ビアルさん、せっかく結び目ほどいたゴム風船をいきなり口で膨らませないでよ!!」
ぷぅーーーーーーーっ!!
「ぜえぜえ・・・あっ・・・!ついつい膨らませてしまった!!萎んだ風船を見ると、つい息を入れたくなるんだなぁ。めんごめんご!!ん?坊やもだよ。」
ワニのビアルのそばで、顔を真っ赤にしておちょぼ口で一生懸命息を吹き込んでいたサイのノバ坊やはギクッ!!とした。
「わー涼しいー!」
サイのノバ坊やは、膨らませたゴム風船の吹き口を角の付いた顔にそばたてて、
ぷしゅーっ!!
と萎ませてその場を誤魔化した。
フラミンゴのショーとワニのビアルとサイのノバ坊やは、山ほどある萎んだゴム風船を担いで、夥しいフラミンゴの群れが飛び交うおおきな湖のそばにやって来た。
「ありがとうね、風船はここに置いてていいよ!!」
「じゃあ、健闘を祈るよ。」
フラミンゴのショーは、先が曲がった黒光りする嘴にゴム風船を沢山くわえてノソノソとフラミンゴの群れに近付いてみた。
「なんじゃい!!」
がたいの逞しいフラミンゴのリーダーがショーの前に立ち塞がった。
「またよそ者か。何度も言わせるなよ!!お前のような人間に飼われた奴は目障りなんだ・・・あっ!?これは!」
リーダーフラミンゴがショーの嘴にくわえた無数のゴム風船を見つけた。
「ふ・・・ふうせん!!風船だぁーーーーーーーーー!!
欲しい!欲しい!欲しい!欲しい!つーか、くれ!!」
「いいよん。ただし、僕を仲間にくわえて欲しいんだけど。」
「本当?!僕を仲間にしてくれるの!?ありがとう!じゃあ、このゴム風船を全部あげるよ!!」
・・・と、いきなり沢山のフラミンゴの群れがショーの前にやって来てもみくちゃにされた。
「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」!!」「くれ!!」「くれ!!」
「うわーーーーーそんなに風船はここには無いよぉーーーーーーー!!」
「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」「くれ!!」
フラミンゴの群れ達は、ショーから貰ったゴム風船を嘴で膨らましたり、吹き口を嘴と長い脚で結んで突いたり、吹き口を離して飛ばしたり、割ったりして遊んだ。
ショーも、フラミンゴの群れ達と一緒に遊び呆けた。
ショーは、フラミンゴの群れ達に溶け込んでいった。 ショーは、フラミンゴの群れ達の一員として受けいられられた。
ショーは、もう一羽のフラミンゴではないことを実感して今までの過酷で屈辱的な旅路が報われた思いで、一筋の嬉し涙を流した。
「ショーちゃん、何で泣いてるの?」
「ちょっと・・・嬉しくてね。あ、この風船僕も膨らましていいかなあ?」
フラミンゴのショーはフラミンゴの群れとの永遠の絆の証として、みんなで遊んで割れた沢山の風船をあの時メグ女王様に分けて貰った魔法で花にして、大きな湖のそばの片隅に敷き詰めた。
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