14#ビートでジャンプ
「おーい、リック!!私にもその割れた風船の収集を手伝わせて欲しいんだけどぉ。ずっと、君と一緒にやっていきたいんだ・・・どうだい?」
「それは、駄目だよ。」
「えっ!?」
「駄目っていったら駄目だよ。」
「何で!?私はやっと出逢えたじゃないの・・・もう再び離ればなれになるなんて・・・私には・・・」
「それはできない。だって俺は風船が絡んだ事故が逢って、その風船を取ってくれた恩を返す為にここに厄介になってるんだ。
君はそんなことになってないだろ?なら駄目だ。君のいる場所ではないんだ。ここは・・・」
リサは嘴をつぐんだ。
「じゃあ、君を連れて帰りたい!!」
「駄目だ!!」
オオワシのリックは、しつこく聞くタンチョウのリサに声色を変えて怒鳴った。
「君は、何で俺が女王様の膨らました巨大風船を“関節キス”状態で膨らませられたか分かるか?え?」
「それは・・・」
「それはな、メグ女王様に信頼されているということだ。そうでなければ、今頃俺は女王様に“ぺしぺし”どころでは無かったんだよ・・・!」
タンチョウのリサは、あの故郷でのオオワシのリックの立場のことを思い出した。
・・・あいつ、仲間外れにされてたんだっけ・・・辛かったんだよな・・・
・・・それに比べて、このメグ女王様の下で遠くまで飛んでって割れた風船を探している方が幸せかもしれないな・・・
「リック・・・」
「なんだよ!!」
「達者でな・・・メグ女王様の言うことをちゃんと聞くんだよ・・・」
タンチョウのリサはそう言うと、ニコッと微笑んだ。
オオワシのリックは、そのリサの寂しそうな笑顔を見ると、なんだか感極って胸が熱くなり翼の付け根が震えた。
「ありがとう!また逢えて良かったよぉーーーーーー!!また機会があったらまた逢おうなぁーーーーーーーー!!」
2羽は互いの翼で抱き締めて、オイオイと離別の涙を流した。
そして、2羽は目の前の“風船の花畑”にみんなが嘴で膨らまし割ったゴム風船を、生けていた途中・・・
「やぁ、おふたりさん!!」
そこに現れたのはオオハクチョウのメグ女王様と、タンチョウのリサと共にこの湖にやって来た鳥達だった。
「あっ!!今さっきの風船・・・!」
「この風船達が土に還っていった時、私達はどうなっているんだろうね・・・お互い幸せだったらいいのにね・・・。」
母さんハクチョウのチエミと父さんハクチョウのユジロウは、感慨深そうに目を細めた。
「さあ、旅立ちの時間が来たよ。」
オオハクチョウのメグ女王様と、その召使い鳥達もやって来た。
メグ女王様は、今さっき巨大風船を膨らませらた時より益々美しく見えた。
メグ女王様は、すぅーっ・・・と息を吸い込むと、廻りを見回して口を開いた。
「タンチョウのリサ、無事に北の大地に帰ってね。リックの面倒は私達に任せてね。心配しなくても大丈夫だから・・・」
メグ女王様は、一羽一羽に優しい声色で次々と話しかけた。
「コハクチョウの娘達、
ランちゃんスウちゃんミキちゃん、母さんをあんまり困らせないでね。
そしてチエミ母さん、
貴女の愛情が娘達はもう立派な成鳥のレディーになってるわ。心配しなくて大波乱だよ。
コブハクチョウの息子のフッド、
もう脚に風船を絡ませるんじゃないよ。
そしてユジロウ父さん、
余り息子を叱らないでね。もう独り立ち出来る成鳥になってるわ。後、憎しみからは何も生まれないからね。リックのことを許してね。
ハシボソガラスの凸凹コンビのカーキチとカースケ、
余りやんちゃしすぎて廻りに迷惑をかけないでね。特に風船を割る時はね。
フラミンゴのショー、
回り道も楽しいもんだよ。道中苦しいこともあるけど、めげないでね。心の中にここにいる私達仲間がいるからね。無事にフラミンゴ仲間のいる場所を探してね。」
メグ女王様がここまで言い終わると、辺りから優しいそよ風が吹いてきた。
「今、丁度旅立ちの風が吹いてきたわ。さあ、それぞれの旅路へ飛び立つ時がやって来たよ・・・」
「とても休憩になったよ。これで目的の白鳥の湖にたどり着けそうだよ。」
母コハクチョウのチエミは、大きな翼を羽ばたかせた。
「みんな、御手数かけてすみません。色々勉強になったよありがとう!」
父コブハクチョウのユジロウは、深々と頭を下げた。
「あ、ちょっと!」
メグ女王様は、一旦呼び止めた。
「言い忘れたんだけど、この霧の向こうに出るとね・・・」
「え?」
「この湖の場所がもう分からなくなるんだ。この湖の存在を忘れてしまうんだ。」
「なんだって!?」
タンチョウのリサは鶴首を震わせた。
「じゃあ、リックのことも?」
「それは分からない。」
「そんなあ!!」
事実を知ったリサは、いきなり泣きわめいた。
「リックううううううう!!どこに私が行っても絶対絶対絶対絶対忘れないでねええええええ!!」
その場は突然騒然とした。
リサは記憶の中から、幼なじみで大の友達のリックの存在が消滅することに恐怖と畏怖の念で取り乱し、激しく嗚咽した。
「うるさい!!タンチョウ!!旅立ちの時を台無しにするのか!!」
ユジロウは、わめき声をあげるリサを一喝した。
「リサちゃん!!リサちゃん!!落ち着いて!!」
そこにヌッと現れたのは、オオワシのリックだった。
リックはリサのそばに来ると、ひしっと大きな翼でリサを抱き締めた。
「リサ・・・俺は、風船の有るとこどこにもいるから・・・
無論お前の帰る故郷にもな。俺を見かけたらまた思い出してくれ。
だから、もう会えない訳ではない。
それに、お前の心にも俺はいるんだぜ・・・」
タンチョウのリサの目から一筋の涙がこぼれてた。
そして、オオワシのリックの目にも涙が光った。
「さあ・・・旅立ちの時だよ・・・故郷にお帰り、リサ・・・」
リサとリックは嘴同士でキスをして、暫しの別れてを告げた。
「タンチョウのリサ、大丈夫?」
オオハクチョウのメグ女王様は、リサに聞いた。
「大丈夫よ。ご心配かけてすみません。私も行くわ。」
リサは優しく微笑んで、鶴首を伸ばして霧深い大空を見上げた。
「さあみんな、翼を羽ばたかせて!そよ風のビートを感じて!」
鳥達は、それぞれの翼を羽ばたかせて、浮力を与えた。
「さあみんな、行けえーーー!!」
見渡す限りの大きな湖が滑走路となったように、それぞれの脚で水面を駆け上がり、それぞれの羽根が風のビートを奏で、それぞれの体は軽くなったように浮かせ、上へ上へ上へ上へ上へ・・・と舞い上がった。
「女王様!その召し使い達!いろんなことどうもありがとうございます!!」
コブハクチョウのユジロウを初め、鳥達は旋回しながら感謝の言葉を述べた。
「ありがとううううーーーー!!
どういたしましてえーーーー!!
また機会があったらまたここに来られるかもねえーーーー!!」
メグ女王様と召し使い達は、鳥達が視界から見えなくなるまで翼を振った。
不思議な幻の湖はやがて霧の中に隠れ、霧の外に出た。
外は一面雲一つ無い青空がのぞめた。
しばらく、鳥達は不思議な湖の出来事への余韻に浸りながら飛び続けていた。
・・・別れたくないけど・・・
・・・そろそろ言わなければね・・・
コハクチョウのリサは向きを変えて皆を振り向いた。
「みんなぁ!!ここでお別れしましょう!」
コハクチョウのチエミは、廻りの鳥達に言い聞かせた。
「タンチョウのリサ・・・
色々当たり散らしたり、怒鳴ったりしてごめんな・・・。
北の大地に無事に着いて、早くタンチョウの仲間達に逢えることを祈るぜ!!じゃあな!!」
「ありがとう、ユジロウさん!!では、良い旅を。」
タンチョウのリサは一礼して、北の大地へ向かって飛び去った。
「あっ!!俺達もここで。みんな、達者でなあ!!」「あっ!!俺達もここで。みんな、達者でなあ!!」
「ハモるな!!」
「俺の台詞だ!!・・・ま、みんなすまんな。俺達は気ままな旅烏だから、またどっかで会いましょうーーー!!」
「会いましょうーーー!!」
ハシボソガラスのカーキチとカースケは、そう言うとバサッバサッと羽音を轟かせて何処かともなく去っていった。
「あれっ!?フラミンゴの・・・」
「あいつ別れを告げずに去っていたな。」
「全くせっかちな奴だなあ・・・」
チエミとユジロウは、フラミンゴのショーのことを話すと、向こうの方から
「あーっ!!」
と声がして、桃色のフラミンゴがそそくさと戻ってきた。
「あっ・・・あああ・・・!
みなさん・・・あ、ありがとう・・・! 今度こそぼ・・・僕はね、熱帯のな、
南国にも、もどるから!
じ、じゃあねっ!!
た、達者でなあ!!」
ショーは、慌てた口調でどもりながら会釈をしてまたそそくさと熱帯を目指して飛び去った。
「ぷーっ」「ぷぷぷ」
ハクチョウ達は、ショーの慌てぶりに思わず吹き出した。
「な、なあに?呼んだ?」
また、フラミンゴのショーがいつの間に戻ってきた。
「な、なんでもない!!」
「あ、改めてじゃあな!!」
ショーは、また再び飛び去っていった。
「さあて、みんな行ったから・・・」
「分かってます!!僕が先頭に立ちます!!」
ユジロウの後方から、息子のフッドは先頭に躍り出た。
「私も、前で飛ばせてよ。」
「あたしも!!」「私も!!」
今度はチエミの3羽娘のラン、スウ、ミキも前方へ躍り出て、フッドのすぐ後ろに附いた。
「フッド!本当に成長したな!」
「ランスウミキ・・・私達親をフォローしてくれるなんて・・・本当に成鳥の自覚が持てるようになってママは嬉しいよ。」
「だって、若鳥が先輩を先導するって私達教えて貰ったでしょ。
雛で飛べなかった時、飛ぶ練習してた時。ねえママ!」
「俺も!父さん。言ってたよね!だから逞しくしなければならない!と・・・! もう僕は成鳥だよ。
だからもういつまでも雛扱いしないでね。」
コブハクチョウのフッドもコハクチョウのラン、スウ、ミキも青い風船を探していた時の灰色の体と白っぽい嘴の姿は既に真っ白で嘴の黄色い、親鳥と見分けがつかないになっていた。
「今から、僕が先頭きって湖へナビゲートします!みんな隊列崩さないで、あの越冬地の湖に・・・!
飛ぶことに集中して誰も脱落者はいないように!でも、風船がやって来たら・・・
いや、何でもない!(皆フッドをジロッと見る)
兎に角、さあ風のビートに乗ってみんなでフォローしあってみんなで心を一つのにして風船のように・・・
すまん!(皆フッドをジロッとまた見る)
さあ飛ぼう・・・!」
コハクチョウとコブハクチョウ。違う種族のハクチョウ達の編隊は、まっすはるか遠くのハクチョウの楽園の湖目指して飛んでいった。
そのハクチョウの希望に満ちた旅路を見守るように、その下の雲間から青い一つの風船が飛んでいった。
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