13#愛の仲間たち

 オオハクチョウのメグ女王様は、周りの鳥達に萎んだゴム風船を手渡した。


 この風船は、割れずに萎んで地上に降りてきたものや飛んでいるゴム風船を捕まえて萎ませたもので、風船の吹き口の栓や止め具を外したり、嘴と足鰭で気合入れて吹き口を解いたものだった。


 「さあ、萎んだ風船がみんなに行き渡ったかな?じゃあ、このゴム風船に息を入れて膨らまし割ってたら、みんなは私達の仲間だよ!!」


 コハクチョウのチエミは、黄色い風船。


 その姉妹ハクチョウのランとスウとミキは、それぞれ赤い風船。


 コブハクチョウの息子のフッドは、青い風船。


 水色の風船を貰ったコブハクチョウのユジロウは、


 「でも、ゴム伸びきってるみたいだし・・・すぐ割れちゃう気が。」


 コブハクチョウのユジロウは質問した。


 「細かいことは気にするなって。ちょっと伸ばせばしわも元通りになるよん。」


 ハクチョウの女王様は微笑んで優しく答えた。


 「そして、タンチョウのリサちゃんは白い風船、で、フラミンゴのショー君は・・・」


 「ピンク!ピンクがいい!!」


 「あるよ!ピンク!」


 「僕の体はピンクだからピンクの風船だぜ!」

 

 ハシボソガラスのカースケとカーキチはそれぞれ、


 「おお!黒い風船だ!」


 「膨らますと深紫の風船だよ!」


 そして召使いのマガモのマガークは、緑色の風船。


 ガチョウのブンは、オレンジ色の風船。 


 そしてオオワシのリックは、黄緑の風船が渡された。


 「うわー!女王様の風船でけぇーーーーーーー!」


 他の鳥たちはビックリした。


 「これは、どこかの人間のイベントで使われていて捨ててあった装飾用の巨大風船なの。ありがとね、リック君!とっておきの餌場所教えてあげるよ!」


 「いやあ、それほどでも・・・!なかなか萎んでるの探すの苦労したんだよ女王様。」


 「じゃあ、準備いい?じゃあ、息を深く吸って、吸って、吸ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!

 せぇーーーーーーーのぉっ!!!



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



  鳥達が渾身の肺活量を込めて、それぞれゴム風船を大きく大きく大きく頬を膨らまし顔を真っ赤にして嘴でありったけの息を入れて膨らました。



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 まだまだ膨らむ。



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 もうちょっと。



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 もうパンパンだ。



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 パァーン!!



 最初に膨らまし過ぎてパンクしたのが、息子コブハクチョウのフッドだった。


 「おおー!肺活量あるねえー!」


 体がすっぽり入る位に巨大風船を膨らませたメグ女王様が感心した。


 「いやあ、それほどでも!」



 パァーン!!

 パァーン!!

 パァーン!!



 割れる度に「きゃぁっ!」と悲鳴をあげたのが、ランスウミキの3姉妹。


 「ビックリしたぁ~!」


 「あたしがいちばーん!」


 「ちがうよ!私が一番よ!」


 「違うあ・た・し・よ!」


 「いや私よ!」「違う!あたし!」「あたしが速かった!」


 「ほぼ同時だったよん。」先に風船を割ったフッドは言った。



 パァーン!!



 次に割れたのが、父コブハクチョウのユジロウ。



 パァーン!!



 今度は母コハクチョウのチエミだった

 「いやあ、息子に負けちゃったぜ。」


 「私も娘たちに負けるとは、成長したねぇ。」


 「チエミさん!風船を膨らましている時のお前の顔の美貌が崩れっぱなしだったよ!頬がパンパンで・・・」


 「貴方の顔の方が凄かったわよ!形相変えて血管凄く浮いて顔は真っ赤、頬は顔を形が変わる位にめいいっぱいパンパンで、膨らましている途中に何回も笑いが吹き出しそうだったわ!」


 「ぷーっ!!」


 「ぷぷぷぷぷ」


 お互い、顔を見つめて思わず吹き出し

た。



 パァーン!!



 今度は、タンチョウのリサの風船が割れた。

 

「あーあ、すんででハクチョウに先を越されたか。」



 パァーン!!



 フラミンゴのショーの風船も割れた。


 「ぜえぜえ・・・ふぅ!!ゴム風船を膨らますとすぐに頬っぺたがジンジン痛むんだよねえ。」

 フラミンゴのショーは長い首を曲げて、割れた風船の破片が触れた翼を嘴で羽繕いした。


 ハシボソガラスのカースケとカーキチの膨らませた風船はそれぞれ、洋梨のような形に大きく膨らんだ時、風船割り魂が燃え上がりカースケとカーキチの興奮した。やがて、



 パァーン!!パァーン!!



 と、ほぼ同時に風船はパンクした。


 「やったあーーーーーーーーー!!」


 「ばんざーーーーーーーーーーい!!」


 カースケとカーキチは、お互いハイタッチして喜んだ。



 パァーン!!



 オオワシのリックの風船が割れた瞬間、この風船の見覚えがあるような感じがした。


 「こ・・・これは・・・風船の束が俺の体が絡んで浮かんでいた時に、絡んだ風船の1個だ!

 びゃあ!!あの時の風船を自ら膨らまして割ったとは、女王様は・・・泣ける演出を・・・!」


 リックの目からうっすらと涙が浮かんだ。




 焦ったのは、なかなかまだ割れない風船を膨らましているマガモのマガークとガチョウのブンだった。


 特に、風船が割れる音が大の苦手のガチョウのブンは、少し膨らましてはすぐにぷしゅーっ!!と萎ませた。


 「ねえ、ブン!膨らます気がないなら、この儀式が成立しないし、女王様に“ぺしぺし”されるどころでは済まなくなるよ。それでもいいならいいんだよ!!」


 辺りでパンパンと風船が割れる音がする度に、


 「ひゃあ!!」「ひゃあ!!」


 と、悲鳴をあげた。


 更に、隣のマガモのマガークの膨らましている風船までも、後ひと吹きで破裂する位に大きく膨らんでおり、ビックリした。


 「ひいいいいいいいっ!!」


 ガチョウのブンはその場から逃げたが、マガモのマガークは風船を膨らませながら、ブンを追いかけた。


 「ほら逃げんなよ!!割っちゃうぞー!!」


 その逃走劇に、周りの鳥達はやんややんやと笑い転げた。


 「頑張れーガチョウ!!」


 「割っちゃえ!!カモ!!」


 風船を膨らませながらどんどん追いかけていくマガークから、もう逃げられない!!と悟ったブンは、頬っぺたをめいいっぱい膨らませ、顔を真っ赤にして、やけくそにバワフルに嘴から風船に吐息を送り込んだ。


 やがて、ガチョウのブンの膨らませている風船も、どんどん大きくなり、マガモのマガークの風船よら大きく膨らんだとたんに、



 パァーン!!



 と破裂した。


 「あひゃあ!!」


 更に、マガモのマガークはガチョウのブンの風船が割れるとこを見計らって最後のひと吹きで、



 パァーン!!



 と割れ、ガチョウのブンは気絶してしまった。


 「あっ!!まだ肝心な・・・」


 マガモのマガークは、ふと気づいた。


 「やば!!まだ女王様の巨大風船が残っていたんだ!!」


 オオハクチョウのメグ女王様は頬をめいいっぱい膨らませ、


 「ぷぅーーーーっ!!」ではなく


 ほぉーーーーーっ・・・

 ほぉーーーーーっ・・・



 と優しく、ゆっくりと息を赤い巨大風船に吹き込んでいた。


 「綺麗だなあ・・・こんなに美しくゴム風船を膨らますハクチョウはめったに居ないな・・・」


 父コブハクチョウのユジロウはメグ女王様の嘴からのと吹き出す


 ほーーーーっ・・・


 の息の音に合わせて鼻の穴のかすかな、しゅー・・・と息を吸い込む音がリズミカルで美しく音色を取りながら大きな風船を膨らます様に、目を細めて見とれた。


 やがて、オオハクチョウのメグ女王様の膨らます巨大風船は女王様の体よりもっともっと膨らんでいった。


 「なんだかヤバイ気がするんだけど・・・」


 フラミンゴのショーはその女王様の巨大風船が、膨らましすぎてとても大きい音で割れることを危惧した。


 「まじやべえって!まじやべえって!」


 ハシボソガラスのカーキチとカースケは怯えて必死に羽根を頭を抱えた。


 「割れちゃう!割れちゃう!」


 「パァン!パァン!パァン!」


 「きゃー!きゃー!」 


 コハクチョウの3羽娘のランスウミキも、既に吹き口の付け根まで膨らんだ女王様の巨大風船に大騒ぎした。


 しかし、どんなに女王様の巨大風船が大きく膨らもうとも冷静な鳥達がいた。


 召使い鳥のマガモののマガークとガチョウのブンだった。


 2羽は冷静どころか、女王様の吐息ではち切れんばかりに膨らんでいく巨大風船にとても興奮していた。


 「メグ女王様の息がいっぱい詰まっているぅ!」


 「どんどん膨らめぇーーーーー!きゃー!」


 「あーっ!リック!嘴で女王様の風船に嘴近づけるな!パンクするだろ!」


 「ちげーよ!女王様の風船のゴムの匂いを鼻で嗅いでいるんだよ!ゴムの匂いの向こうに女王様の吐息が・・・」

   オオワシのリックは、うっとりと女王様の巨大風船のゴムを嘴の鼻の孔で嗅いでいた。

 

 「うわっ!」


 コツンと鼻の孔で巨大風船を触れていたリックは、嘴の先に巨大風船が触れたたんにビックリして羽ばたいて後退した。


 突然、オオハクチョウのメグ女王様は後ひと吹きで破裂する位に大きく膨らんだ巨大風船を膨らませていた嘴からそっと離した。


 ぶおおおおおおおおおお!!!!!!

 ぶしゅーーーーーーーーーーーーーー

 しゅるしゅるしゅる・・・・・・


 女王様の膨らませた巨大風船は、豪快に吹き口から女王様が一生懸命詰め込んでいた吐息をゴムの縮む威力で押し出して、まるでロケットの様に右往左往に吹っ飛んでいった。


 その巨大風船から吹き出される女王様の吐息は、周りの鳥達に降りかかった。




 母コハクチョウのチエミにも。


 姉妹コハクチョウのランやスウ、ミキにも。


 父コブハクチョウのユジロウにも。


 息子コブハクチョウのフッドにも。


 ハシボソガラスのカーキチやカースケにも。


 タンチョウのリサにも。


 フラミンゴのショーにも。


 そして、


 マガモのマガークやガチョウのブン、オオワシのリックの召使い鳥にも。


 そして、メグ女王様にも。



 ぶしゅーーーーーーーーーーーーーー

 しゅるしゅるしゅる・・・・・・

 ぽとっ。




 やがて、その巨大風船の中の女王様の吐息は抜けきりすっかり萎み地面に墜落した。


 「よし!今だ!」


 メグ女王様の嘴を付けた巨大風船の吹き口に嘴をくわえて“間接キス”をしようとして、マガモのマガークとガチョウのブンは向かった・・・が、


 「もらい!」


 オオワシのリックはの太く黄色い嘴が、女王様の巨大風船の吹き口をくわえた。

 そして、


 ぷぅーーーーーーーーーーーーーっ!!


 と黄色く輝く嘴からリックの吐息を一生懸命に思いっきり息を吹き込んだ。


 だが、


 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・」


 と、全体に息が行き渡って膨らみ始めたとたんに、リックの息があがってしまった。


 「リックちゃんたら、チャレンジャーねえ!」


 と、メグ女王様は、オオワシのリックの吐息の少し入った巨大風船の吹き口を開いて、しゅーっ!とリックの息を抜いて萎ませた。


 「いいなあ、リック。」


  マガークとブンは、女王様の“間接キス”をきめたオオワシのリックを翼で小突いた。




 「さあ、これで貴方たちは互いの絆は深く深くなったよ。“愛の仲間たち”になったんだよ。

 互いに精神を磨き合い、互いに助け合って、互いに生きようとするひとつの“愛の仲間たち”になったんだ。

 そう!私達は“家族”になったんだよ

 貴方たちは。私の嘴で膨らませた青い風船に偶然に導かれた出会いは必然だったんだよ。

 さあ、ここからまた互いの“旅立ち”が始まるよ。

 この絆が今からの“旅立ち”が新たな心の糧となることと・・・」




 オオハクチョウのメグ女王様はそう言い終わると、目から大粒の涙がこぼれた。




 「あれ?自然に心が熱くなった・・・」


 他の周辺の鳥達も、目から涙を流した。


 誰ひとり泣いていない鳥達は居なかった。


 「女王様のこの言葉はいつ聞いても泣けてくる・・・ううう・・・」


 召使い鳥のマガークやブンも目から涙を浮かべていた。




 しばらくして、


 「リックぅ!ちょっと!」


 「はい?」


 「このみんなが膨らまし割ったゴム風船を、例の風船花壇に生けて来てちょだい!」


 「はーい!」


 オオワシのリックは、今さっきみんなして嘴で息を入れて割れるまで膨らましたゴム風船の破片をせっせと、カラフルに“咲き乱れる”風船のお花畑に、逞しい脚の爪で地面を掘って丹念に一つづつ生けていった。


 「おおーい!リック!」


 そこに、リックの幼友達のタンチョウのリサがやって来た。




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