2#コブハクチョウの親子
「パパ~!待ってよ!」
子コブハクチョウの右脚には、吹き口にプラスチックの留め具の付いた割れたピンク色のゴム風船の紐が絡み付いていた。
「お前に目をそらしたとたんにもうこれだ!だから風船が脚に絡むんだ・・・!」
「ごめんなさい・・・!でも脚のゴム風船可愛いでしょ!」
「何言ってんだ!紐が絡んだ脚は血行がいかなくなって朽ちて失うんだぞ!」
父コブハクチョウのユジロウはどうせなら、自分の脚に風船が絡めば良かったと思った。
子コブハクチョウのフッドは、あの時ぼけ~っとして飛んでいた。
みんなは風船を避けたのにフッドだけ風船に突っ込んで脚に絡み、もがいているうちに脚の鰭先の爪が風船に触れてパァン!と破裂した時は仲間が音にビックリして離散してしまい、親子だけはぐれてしまった訳だ。
「息子よお前がいけないんだ!もっと身の回りを警戒していれば・・・俺だって風船が好きだけどな、程度があるよ!」
「・・・ちょっとお話の途中いいかなあ?ここで青い大きなゴム風船飛んで来ませんでしたか?」
いきなりコブハクチョウ親子に口出しして来たのは、あの母コハクチョウのチエミだった。
「風船?風船って、フワフワ浮いてる大きな卵みたいので、嘴で息を吹き込むと大きくなるあれでしょ?う~ん・・・気づかなかったなあ・・・」
「ありがとう。じゃあ良い旅を!」
チエミはそう伝えると、コブハクチョウの親子から離れようとしたが・・・
「あれ?こいつ脚になんか着いてるよ!」
「なにこれ?割れてるゴム風船だ~!」
「わたしにも見せて!」
コハクチョウのチエミの子のランとスウとミキが、子コブハクチョウのフッドの脚に絡んだゴム風船にちょっかいを出して来た。
「こらっ!やめなさい!」
余りにしつこい子ハクチョウのからかいに、フッドは今にも泣き出しそうになりました。
「君の子供はどういうことを教えてるのかね?」
親コブハクチョウのユジロウが、コハクチョウのチエミの躾に憤慨している所の目の前に、あの青い風船が横切った。
「ほほお!ゴム風船!大きく膨らんでいて元気だなあ・・・!」
ユジロウは頬を膨らませ感慨にふけり、目を細めた。
「あっ!これだ!私達が追いかけてた風船は!」
チエミは、雲霧に見え隠れする青い風船がふわふわ飛んでいるのを見つけた。
「風船!!」
ユジロウは、思わず目を輝かせて叫んだ。
「待ってよパパ!!」
フッドは、矢のように青い風船に向かって飛んでいく父ハクチョウのユジロウを追いかけた。
ところが、コブハクチョウのユジロウの側をコハクチョウのチエミが並んだ。
「この青い風船は私のものだからねっ!!」
「いや、俺のものですっ!!」
チエミとユジロウは、前をふわふわと飛んでいく青い風船を巡って空中戦を繰り広げた。
「パパ~!!」
「お母さ~ん!!」
もう、子ハクチョウそっちのけで2羽の親ハクチョウは風船の取り合いをした。
風船の紐が嘴にもう少しのところで届くところなのに押し戻されたり、羽根が触れて風船が揺れてたり、水掻きの付いた脚の爪先がすんでのとこで風船に触れそうになって破裂を免れたり、揉みくちゃになった。
「私のものよっ!!」
「俺のものですっ!!」
そこに一羽のタンチョウが、いきなり割り込んできた。
「えっ?」
「わぁっ!」
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