プロローグ②:生徒会長は主人公補正付き
「で、結局俺達が学校案内をすることになったのかよ」
生徒会長・
4月4日。
世間ではまだ春休みなのにも関わらず、生徒会の用事だというので学校に呼び出された瞬助は、生徒会の顧問を務める教師からの“相談事”に頭を痛めることになった。
「くくっ、お前さん向きの仕事だろ?」
教師、
「人気沸騰中の超能力アイドルを親切に案内するイケメン生徒会長。どうやったって噂になるわな。てか、俺がする」
「勘弁してください、ただでさえうちの生徒会は問題児ばっかりなんですから」
タチの悪い冗談に頭を抱えながら、先ほど受けた相談ごとを反芻する。
「百歩譲って、普通は教師がするであろう転校生の学校案内を、同じ生徒の目線で語った方がいいだろうということで、生徒会が引き受けるってのはまだ分かりますよ。
けどなんスか、アイドルって!!
どうやったって騒ぎになるじゃないっすか!!」
「ああ。だから直前まで秘密になっていた。
まぁ、学校案内を遅らせたのは仕事の都合みたいだがな」
そう言いながら桧山教師は煙草を咥えて火をつける。
「ちょっ、先生!学校は全面的に禁煙っすよ!」
「かてぇこというなよ、本来は春休みで誰もいない学校なんだからよ」
「せめて窓は開けてくれよ……」
「んなことしたらバレんだろうが」
変なところで世間体を気にする教師に対してため息をつく瞬助。
その様子をくつくつと笑いながら、桧山は急に真剣な顔つきになる。
「まぁ、俺がわざわざお前を指名するってことで、察してほしいがな」
桧山の言わんとすることは瞬助にも分かってる。
頭では分かっているのだが、そのたびに顎で使われてはたまらない。
とはいえ、ここで反論したところで無駄なのも知ってるので、結局瞬助はため息をつくしかない。
「あーもー……つまり、この超能力アイドルってのも、“そっち側”ってことっすよね」
「ま、そういうことだ。能力はまぁ、大体テレビで出てる通りだ。
マネージャーと、テレビスタッフが彼女の力を知っている」
「思ったより大ごとっすね。てか、なんで急にウチに転校になったんすか」
「アイドルとしてなんだかんだと有名人になってきたからな。
ちょいと“思わぬトラブル”が起きてもおかしくない」
「おい、その“思わぬトラブル”をウチで引き受けようってのかよ」
「くく、その方が面白そうだろ?」
にやりと笑う桧山。
「真面目な話、この片桐って子は『異能者』としては珍しく、正体を隠したまま世間に認知された人間だ。しかも、本人は『異能者』って概念を知らないらしい。あくまでも、ちょっと特別な力を持ってしまい、それを使ったら成功を収めちまってそのまま生きてきたってパターンだ。
お前ら『訳アリ生徒会』の趣旨からすると、完璧な成功例、だろ?」
「まぁ…そうっすね」
「ただ、それがいつまで続くわけじゃない。現に、俺ら当局が監視対象にしたわけだからな」
「生徒のこと監視対象って言い切る教師ってのもどうなんだよ」
「そこはほれ、仕事だからな。
てなわけで、大人はなんだかんだで今後の彼女を注視せざるを得ない。
とはいえ、いつもおっさんどもが張り付くわけにもいかんだろ、女子高生に」
「普通に犯罪ですよね。逆に通報されます」
「だろ?
てなわけで、俺らの手伝いってわけじゃないが、彼女が学校にいる間は、生徒会で色々とフォローしてやってほしい。
表の意味でも、裏の意味でも」
「……で、それがなんで学校案内の話になるんだよ」
「自然と仲良くなれるよう、お膳立てしてやってるんだよ。
ちなみに俺の権限で、お前と同じクラスにしておいたからな」
「いち教師のくせに権限でかすぎねぇ?」
「いいんだよ。トラブルが起こらなきゃそれでよし、起こってもそれでよし。
どうせならアイドルとイチャイチャムフフな感じのラブコメ展開を期待する」
「あんたそう言って、もう二人も『異能者』の女子を預けてること、忘れんなよ…」
「おー、そっちともどうよ? 一般人の幼馴染も加えて、毎日Toらぶる的なハプニングの日々を送ってんのか?」
「あいにく、ラッキースケベどころかオープンスケベな野郎がうちにいるので。
単純なハーレム展開にはならないっすよ」
「なんだよ、つまんねぇな」
桧山は携帯灰皿に吸殻を放り込むと、話は終わりとばかりに立ち上がる。
「ま、単純に仲間が増えるってのは嬉しいっすよ。
もちろん、高校生として、ですけどね」
「そうかい。じゃ、あと任したぜー」
そう言って桧山はさっさと生徒会室を出ていってしまう。
瞬助はもう一度盛大にため息をついてから、一人ごちる。
「『異能者』だろうとなかろうと関係あるか。
せっかくの華の高校生活、存分に楽しまなきゃ損だよなぁ」
「ま、そうですねぇ」
「うおっと!?」
他に誰もいるはずのない部屋に、自分以外の声が聞こえてきて、瞬助は危うく椅子から転げ落ちそうになる。
音もなく部屋に入ってきた眼鏡を掛けた男子が、いつの間にか瞬助の後ろに存在していた。
「
「やれやれ、誰がオープンスケベですか」
「自覚あるんじゃねぇか…………はぁ」
もう今日だけで何度目のため息か分からないが、瞬助は声のトーンを真面目にする。
「理緒、分かってると思うが当分は転校生の前で『異能』を見せるなよ」
「分かってますって。一応、監視はしますけどね。
何事も起こらなければ、そのまま普通の学生生活を送ることになるんでしょう。
そうなると僕はお近づきになれないのが残念ですねぇ」
「間違って鏡に映ったりするなよ」
「はいはい。
明日は君や小夜さん、猫衣さんにお任せですかね」
「案内は俺ら3人でやるつもりだけどな。一応、空里と猪宮、亀井にも声は掛けておく。
猪宮と亀井は部活で来るって言ってたし」
「生徒会全員ですか?
珍しいですね、何か予感でも?」
「あー、なんつーか、変な予感はあるんだよな」
「まったく。君の『異能』は予知ではなく、別のものに決まってるでしょう?」
「何だ?」
「頼まれなくても女の子とトラブルがやってくる。ラブコメ主人公補正ってヤツです」
「そんな『異能』があってたまるか! つか、俺は『異能者』じゃねぇ!」
その後、瞬助は理緒といくらかやりとりをすると理緒を追い払った。
理緒は現れた時と同じで、音もなく生徒会室から出ていく。
一人になった瞬助はスマホを取り出すと、生徒会の仲間に連絡を回していった。
連絡を一通り回してから、もう一度溜息をつく。
高校生活もいよいよ2年目。
今後も立場上、どうあがいても『異能者』絡みの騒動に巻き込まれることになるだろう。
「『異能者』を生み出す謎の人物、『
どこの誰かは知らないけど、少なくともシナリオ作りが出来ない奴なのは間違いないな」
昨年の騒動の末、一年生で生徒会長になった男は、すべての元凶と考えられる人物をこう認識していた。
が、瞬助にとってはそんなどこかの黒幕には興味はなく。
「そんなもんより、明日の転校生!」
生徒会長としての仕事を優先するのだった。
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