訳アリ生徒会 ~異能者ごった煮学校生活~

田戸崎 エミリオ

プロローグ① 超能力者の予知夢は当てにならない

片桐 兎カタギリ ウサギは、転校生である。


この春、厳密には明日20XX年4月6日を以て、茨木高校の2年次に転入となる。

今日は仕事の都合で先送りにしていた、転入先の高校に挨拶へ来ていた。

生徒会の面々が春休みを一足早く切り上げて登校し、学校の案内をしてくれたことに感謝している。明日からは彼らと同じ学校で、楽しい高校生活が始まるはずだった。


片桐 兎は、アイドルである。


中学の頃、友達に勝手に応募される形でとあるアイドルグループのオーディションに参加する羽目になった。もともと人見知りが激しく人前に出ることをよしとしない彼女だったが、結局友人に勧められるまま流されるままに参加した結果、彼女のある特技が事務所の目に留まり、グループではなく一人のタレントとしてデビューすることになった。


片桐 兎は、超能力者である。


彼女の特技と紹介されているのが超能力である。透視でカードの裏の柄を当て、テレパシーで共演者の考えを見事に的中させ、テレキネシスでボールを浮かせ、テレポートで別の場所へ出現する。およそ超能力と名の付くものは大体テレビで披露した。トークが苦手で番組でもほとんど喋らない彼女の佇まいはむしろミステリアスに映り、多くのファンを生み出した。本人も気付いていなかったが歌唱力が高いことも見出され、プロデューサの意向でCDを出すことにもなり、気付けば超能力アイドルという肩書がついていた。


片桐 兎は、“本物の”超能力者である。


彼女はあるとき突然、この不思議な力に目覚めた。中学1年に上がる頃に夢を見た。

『君の役は、“超能力アイドル”だよ』とささやかれる夢。その翌日に突然力に目覚めた。

それからは、時に周囲に恐れられ、時に周囲に羨ましがられ、時に周囲にもてはやされて生きてきた。ファンの間では彼女の超能力が本物かヤラセか議論するのが通例となっているが、実際の制作現場では多くの人間が彼女の力を本物だと知っている。番組でテレポートマジックを披露するのにマジック機材の代金が一切掛からなかったことは、業界内では半ば伝説扱いされていたりする。そんな彼女も一つだけ、公に見せていない超能力がある。


片桐 兎は、予知能力者である。


彼女は毎晩夢を見る。翌日の自身の様子を垣間見ることが出来るのだった。

時間にして最長3分間、翌日の一部を予知する。

ただし、どの3分間を見るかは彼女自身にも選ぶことが出来ない。

この能力は兎自身に様々な幸福も不幸ももたらした。

あるときは、クラスメイトと一緒にアイスを食べに行く何気ない時間。

あるときは、スカウトを受けてデビューすることが決まった瞬間。

あるときは、両親の死を知らされるとき。




そして、昨晩の彼女が見た夢は、“自身が誘拐される”夢だった。




自分でも不思議と落ち着いていた。

この予知はどんなことがあっても覆せない。そのことを彼女はよく分かっていた。

唯一この能力を知るマネージャーに連絡を取ったところ、誘拐されてもすぐに救助をしてくれるよう手配をすると言っていた。

それを信じ、彼女は一人で学校へ向かったのである。


そして、学校の案内を終え、生徒会の一員だという女子生徒が一緒に放課後の町に繰り出そうとしてきたのをやんわりと断り、一人で帰路へと着いた。

時間は夕方、日が傾き、空が綺麗なオレンジ色に染まる頃。

そこで、夢で見た通りの車が近づいているのが見えた兎は、人通りが少ない小道へと歩いていく。


自分の超能力は色々出来るが万能じゃない。

テレポートは長くても50メートルが限界だし物凄く疲れる。50メートル全力疾走して結局捕まるのとほぼ同じ結果になるのがオチだろう。

テレキネシスは総重量5キロ以下という制限がある。その辺のもの、たとえば近くの民家の植木鉢とかを適当に振り回したところで、大した武器にはならない。

テレパシーは半径100メートル、名前を知ってる者にのみ有効だ。越してきたばかりの自分に知り合いはおらず、一緒に帰ろうと言ってきた生徒会の人も、巻き込みたくないから一緒に帰るのを断った。

他の超能力で抵抗しても無駄だろうと結論付け、予知夢の通りに動くことにした。



あぁ、この場所だな……

やや冷めた感情で歩調を緩める。



予想通り、いや予定通り、車は自身の横を通る際に減速し、突如として停車。

車から数人の男たちが現れ、自身の身体を取り押さえられた。

口にハンカチを当てられた。たぶん何かの睡眠薬だろう、体から急速に力が抜けていく。


あぁ、夢で見た通りだな……非常識だ……


予知夢で見たのは自分が攫われる瞬間まで。

この後どうなるかは自分にも分からない。


どこかに監禁されて変態的な行為を要求されてしまうかもしれない。

あるいはすぐに殺されて臓器売買の糧にされてしまうのかもしれない。

もしくはすぐに救助されて、目覚めたら自分の部屋にいるかもしれない。


自分のことなのに、どこか他人事に思いながら、兎は意識を失った。



片桐 兎が予知夢で見ることが出来るのは、翌日のうちの3分だけ。

24時間のうちの3分だけ。1440分の3だけ。

その前と後に何が起こるかは、その日になるまで分からない。





だから、今。

目が覚めた兎は、目の前で何が起こっているのか分からない。



なぜ、今日学校を案内してくれた生徒会の女子達が傍にいるのだろう。


なぜ、特撮ヒーローがいるんだろう。


なぜ、腕がガトリングになった人型ロボットがいるのだろう。


なぜ、横にいる男子は首から下が床に埋まっているのだろう。



なぜ、目の前で。

生徒会長がトカゲの頭をした男と戦っているんだろう。


「てめぇら、いったいなんなんだよぉっ!!?」


トカゲ頭の男が吠える。兎と全く同じ疑問を。



「決まってるだろ。生徒会だ」


昼間学校を案内してくれた、生徒会長だという男子はさも当然だというように答える。


「ただし、ちょいと訳アリだがな!」

「ぶべらっ!?」


気合の入った声と共に、顔面に拳で一撃。

殴られた男は、まるで漫画のやられ役のように、きりもみ回転しながらぶっ飛ばされ、壁に叩きつけられた。



その一連の様子を呆然と眺めていた兎は、混乱する頭でとりあえず理解したことがある。

助けが来てくれたことと。

学校にも只者じゃない人たちがいること。

そして、自分の予知夢という能力が全くアテにならないことを。

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