リレー小説③

啓生棕

小さな凱旋

「ありがとう、本当にありがとうございます!」

「あ、いやそこまで頭を下げられることじゃないですよ。ね、カシム。」

「そうだよおばさん。困った人を助けるのは当たり前のことだからな」

「ええ、私も神に仕えるものとして当たり前のことをしただけです。…といっても私はあまりお役に立てなかったのですが…」

「え」

「え」

「…なにか?」

「「イエナニモ」」


 ラシルら(特に撲殺シスター)の活躍により周囲のゴブリンたちの駆除に成功。

 その際、スプラッタというか、衝撃的な光景を目にしたラシル、カシムだったがその事実は(自分と村人のために)そっと目を背けることにしたようだ。

 それが一過性のものなのか、それともあれが素なのかは議論の残るところだが、その話は置いておこう。

 結果として村には一時の平穏が戻り、呪いに苦しむ幼子を救うことが出来たのだから、何の問題もないはずである…たぶん。


 そんな彼らを迎え入れたのは、村の人々からの多くの感謝の言葉だった。

 ラシルはあまり慣れていないのか顔を仄かに赤らめて、カシムとエリスは当然のことをしただけだと必要以上に誇ることはしない。


 それでも村人からすれば彼らはこの村の救世主も同然だ。

 村が諸手をあげて歓迎するのは必然であった。


 そんななか、この村の村長が前へ出てくる。


「皆さん、今回は本当にありがとうございます。-ところで、ここへはどう言った用件で?」


 にこやかな笑みを浮かべて問いかけた長に、意気揚々と答えて見せたのは、黒一点であるカシムだ。


「俺たちはヒュームストリングを妥当するための旅の途中なんだ。ここに寄ったのは…偶然あの子を見かけたからだな。」


 カシムはそういって旅の道中で倒れていた子供を指差す。

 呪いのせいで体力をごっそり持っていかれた子供はまだ目覚めないようだ。

 其れを見て長は感嘆するようにしきりに頷いた。


「成る程なるほど、まさしく不幸中の幸いですな。-本当に運がいい。」


 最後の方だけ隣にいないと聞こえないくらいの声量で呟いた長は、指で顎をなぞると人懐っこい笑みを張り付かせておもむろに提案を持ちかける。


「良ければ、ですが旅の疲れを癒すために泊まっていきませんか?勿論宿の手配はこちらでします、お金もこちらで持たせていただきますよ」


 出てきたのは大盤振る舞いにも近い歓待の言葉。

 思わず仲間内で顔を見合わせてしまう彼等だったが。

 少し考えたあと、村の好意に気兼ねなくあまえることにしたのだった。



「はぁー、久しぶりにリラックスできてる気がする」


 宿屋の一室、小さいながらも人一人泊まる分には十分な広さの部屋に一人。

 ラシル・ロータスはベッドに腰かけるとそう呟いた。

 旅の装備を一式床に放り投げ自身は動きやすくてラフな格好に着替えだらしなく延びをする。


 しかし今は注意を促す相手も、まして誰かに見られる心配もない

 プライベートな空間を彼女は堪能していた。


 それも無理はないだろう。

 自らの村が襲われてから今まで気が休まることのない強行軍をしていたのだから。

 その上着の身着のままで来たため最低限の装備しか持っていなかった。

 最悪野宿を考えていたところでこの提案を持ちかけられたのだ。

 形式上では遠慮していたが、心のなかでは皆嬉しく思っていたに違いない。

 


「一人につき個室一室なんて太っ腹よねあの村長さん。厚待遇過ぎてすこし気味が悪いくらい。」


 気だるさから瞼が閉じていくのを感じながら、彼女はこれまでのことを順に振り替える。

 

 村が襲われ、カシムと共にその元凶となったヒューム・ストリングを破壊するため旅立ち

 最初に立ち寄った村では奇しくも回復魔法の使えるシスター-エリスを仲間にすることができた。

 まさしく不幸中の幸いとしか言いようがない。

 そのあと、また近くの村を目指して歩いていると今度は小さな子供が倒れていて-。


「-あれ?何であの子、町外れあんなところで倒れていたのかしら……?」


 ラシルは微かな違和感を覚え、機能を止めていく頭脳を必死に働かせてみようとする。

 しかし深々と積もりゆく睡魔には抗いがたく、そう間もないうちに夢の世界へ旅立っていった。





 そして翌日、各自で十分な休息がとれたのか集まった面々の顔はとても晴れやかだ。


「おはよー二人とも。よく眠れたか?」

「はい、昨日の疲れが嘘みたいに取れるくらいには。お二方も…ええ、気力十分といったところですね。」

「そうね…私は一寸考え事してたせいで寝不足だけど」

「考え事…ですか?」

「まぁ、うん。ただ寝落ちしたせいで内容忘れちゃった」


 そういってラシルは思い出そうと試みる、が今度は寝起きのため頭がうまく働かない。

 思い出せないと言うことはソコまで大したものではないはずだが、何故か小骨が喉に刺さっているような気分が顔にでている。


 そんな嫌な気分を払拭するために彼女は「それは置いといて」と話題を変える。


「これからどうするか決めた方がいいと思うのよね」

「そんなのきまってるだろ?北を目指してヒュームストリングをぶっ壊す」

「その目標が大前提なんだけど。そのための手段をどうするかをきめたいの。」


 荒々しく手を叩いて殺意を剥き出しに意気込むカシムに、ラシルは落ち着かせるように諭す。

 カシムはヒュームストリングのことになると、頭に血が上りすぎるキライがあり、それを止める役目をもっぱらラシルが請け負うようになっていた。


 そんななかでエリスは思案顔で話しをつづける。


「確かに現状ではなにもかも不足しています。情報、資金、装備…できれば同行してくれる仲間や移動手段も欲しいところです」

「そう、私たちには足りないものが多すぎる。特に目下必要不可欠なのがやっぱりお金よね」


 エリスの考えにつけくわえながらラシルが溜め息をこぼす。

 そしてカシムも馬鹿ではない、頭が冴えていれば彼女たちが考えていることに間違いがないことに気づいた。


「お金、金かぁ一度戻ればそれなりに-いや流石にもう残ってないか。」

「盗賊に盗られているか、あるいは瓦礫の底ね。現実的じゃないし時間ももったいないわ。」

「私も似たようなものです……もともと持ち合わせは少なかったですけど。」


 そういって彼らが思いを馳せるのは、今はなき故郷の思い出…ではなく自らの懐の寒さであったという。

 

 とはいえ過ぎ去ったことをくよくよいっても仕方ない。

 それは共通見解だったので早速どうするか話し合おう、そういう流れができかけた頃


「あの、すいません。お時間はよろしいでしょうか?」


 タイミングを見計らったように宿の店主が割って入ってきた。

 ちょうど始まる、といったところで水を刺されたラシルたちは苦い顔で出迎えたものの、一宿の恩があるので直に話を伺う。


 何でも村長が直々に話があるそうで村長宅までご同行願いたいとの旨。

 その要請に彼らは快諾し、一路村長宅へと向かうのだった。



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リレー小説③ 啓生棕 @satoutuyukusa

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