第42話「会長の弟……?」
「おい、橘」
会長から頼まれたお使いをこなすべく、ショッピングセンターの散策を始めてすぐ、見知らぬ男からいきなり名前を呼ばれた。
一目で、すぐに同じ学校の生徒だと分かった。
それから、ネクタイの色からして……どうも同級生らしい。
「お前、橘優斗だな?」
「……ん、そうだけど」
その表情と口ぶりから、明らかに好意的でないことが分かる。
ただ、俺はこいつのことを知らない。
知らないが故に、どうしてこんなにも敵意丸出しで俺に声をかけてきたのか、さっぱり理由が分からな……いや、ちょっと待てよ。
『気をつけなよ? 大丈夫だとは思うけど、中には変なこと考えてる人もいるかもしれないからね』
そう、北条から忠告を受けていたのを思い出す。
まさかとは思うが、こいつは……。
「お前、生徒会に入ったって本当か?」
「え?」
「だから、生徒会に入ったのかって聞いたんだよ! どっちなんだ?」
てっきり、美桜や柚希のファンが突っかかってくるのかと思ったが、違うのか?
いや、まだ決め付けるのは早いが……。
「あー、えっと。一応そうだな。庶務っていう何をするのか良くわからん役職を与えられてるし、生徒会に入ったといって間違いはないと思うが」
今日だって、会長からの指示に買出しに来ているわけだし。
そう俺が説明すると、男は。
「……で」
「ん? 何か言ったk──」
「何でお前みたいなやつが、姉ちゃんに認められてるんだよッ!!」
思わず聞き返そうとすると、突然爆発したような大声で、男はそう叫んだ。
辺りが騒然となる。
いくら平日の夕方とはいえ、ここはそこそこ大きなショッピングセンターだ。当然、周りにはそれなりにお客さんもいるわけで……。
「お、おい。落ち着けって」
「うるせえ! 大体俺はお前が気に食わねえんだよ! 美人の双子をはべらせたかと思えば、今度は姉ちゃんたちまで……!」
「待ってくれ、そもそも姉ちゃんって誰だ!? 話が全く見えてこないんだが」
「だから、俺の姉ちゃん──葉隠椿に認められて生徒会に入ってるってのが気に食わないって言ってるんだ!」
……なんだって!?
「葉隠椿って、お前葉隠会長の弟なのか?」
「そうだよ! 俺は葉隠洋介、お前と同じ一年で、ウチの会長の弟だ!」
し、知らなかった……。
葉隠会長に弟がいたことも、その弟がウチの学校にいたことも。
大体、そんな話は一言も聞いたことが無いぞ。
「……お前、今『あの会長に弟がいたなんて知らなかった。だって存在感薄いからな』とか思っただろ?」
いやいや、そこまでは言ってないって。確かに知らなかったのは事実だが。
「分かってるよ。俺が姉ちゃんに比べたらカスみたいな存在だって」
「いや、そこまで自分を卑下することも無いんじゃ……」
「だがな、今はそんなことはどうでもいいんだ! それよりも今はお前だ、橘優斗!」
ビシッという効果音が付きそうなほどの勢いで、こちらを指差す。
「お、おう」
「俺は、今の一年生で生徒会に入会するとしたらあの二人しかいないと思っていた。そう、花咲さんたち姉妹だ」
「花咲さんたち姉妹……ああ、美桜と柚希か」
「あの二人なら、姉ちゃんが認めるのも分かる。だから、新しい生徒会が発表になったあの日も、別に何も思うことは無かった。ただ一つ、お前の名前を見るまではな」
なるほど確かに、美桜と柚希は一年生ながらすでに学園内でその地位を確固たるものにしているし、ウチのような生徒会の選び方であれば、選出されるのはある意味当然と捉える生徒も多いのか。
「つまりお前は、何のとりえも無い俺が生徒会に入ったのが気に食わないのか?」
「そうだ。花咲さん姉妹にくっ付いてるだけのお前が、姉ちゃんに認められて生徒会に入ったってのが俺はどうしても納得いかない」
つまりこいつは、面白くないのだろう。
大した人間でもない俺が、生徒会に入会しているのが。
それも、"自分の姉が認めて入会させた"という点が。
……そして、こいつが俺にここまで突っかかってきた本当の理由が、何となくだが読めてきたぞ。
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだよ」
「結局お前は、俺が生徒会にいることに腹を立てているのか、それともお前のお姉さん──葉隠会長に俺が認められて、お前が認められていないことに腹を立てているのか、どっちだ?」
「──んなッ!」
先ほどからの会話で、やけに『姉ちゃんに認められた』って言葉に力がこもっていたのを、なんとなく聞きながら感じていた。
それから推測するに、恐らくだけどこいつは……。
「優斗、どうかしたの?」
そんなやり取りをしていると、先に買い物を終えたのか、一階フロアを見て回っていた美桜がこちらへとやって来た。
遅れて、柚希も歩いてくる。
「あれ、優斗君。その人は?」
「え、ああこいつは──」
「クソッ、覚えてろよ!」
葉隠会長の弟だよ。そう説明しようとすると、急にそんな捨て台詞を吐き、その場から逃げるように走っていってしまった。
「え? え?」
事情を飲み込めない柚希は、わたわたと混乱している。
だが、俺は何となくあいつが考えていることが分かった気がした。
……多分、図星を突かれたのが相当痛かったんだろうな。
恐らくだが、あいつは……。
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