第40話「席順と、文化祭の……」

「葉隠先輩」

「どうした、橘優斗。文化祭に向けての話し合いが気に食わないか?」

「いや、俺が突っ込みたいのはそこではなく……」


 いよいよ生徒会として活動がスタート。

 まずは開催を一ヶ月後に控えた文化祭、これを成功させることを目標に動き出すのが、毎年生徒会としての動きらしい。

 ……いや、それは別にどうだって良いんだ。

 俺が葉隠先輩の言葉に口を挟んだのは、そこではなくて。


「どうして俺の席が、美桜と柚希の真ん中なんですか!!」


 そう、これは文化祭へ向けた会議が始まる五分前のこと。

 新生徒会メンバーとなった俺たち五人は、自己紹介を終えた後に席順を改めて決めることとなった。

 会長である葉隠先輩は生徒会室の一番奥、一つだけ特別に用意された机と椅子を陣取った。まあ誰が見ても会長専用の場所だし、そこに文句はひとつも無い。

 ただ、残された俺たちは普通。


「普通、二対二で対面に座るものじゃないですか? 何で俺の隣に二人が来て、皐月先輩が一人で一つの机を使ってるのかって言いたいんですよ!」

「なんだ、君はあやめの隣が良かったのか?」

「え、そうなの? 優斗君」


 なにやら会長が良く分からない勘違いをしている。

 そこ! 柚希も会長の冗談を真に受けない!


「あら、私は別に構いませんよ? 橘君、こちらに座ります?」

「いや、だから皐月先輩も悪乗りに乗っからないでくださいよ……」


 出会ってまだ少しだが、皐月先輩の人柄も何となく分かってきた。

 この人も基本的には葉隠先輩寄りだ。相手にすると面倒なことにしかならない。


「何、優斗はこの席順が不満なの?」

「美桜まで……いや、不満って訳じゃないんだけど」


 誰がこの部屋を訪れるか分からないんだ。こんな席順見られたら、明らかに変な目で見られるのは間違い無いだろう。

 主に俺が。


「まあ、君の隣を誰にするかは悩ましいところだったんだがな。どちらかを選べば、どちらかが悲しい思いをするかもしれない。だったらいっそ、二人とも隣にしてしまえとね」

「……葉隠先輩が気を使ってくれたのは分かりました。ただ──」

「さて、それじゃあ会議を始めようか」


 あ、駄目だ。この人話を聞く気が全く無いぞ。


「みんなも知っての通り、来月は峰高祭だ。我々生徒会に化せられた使命は唯一つ。祭りを無事成功させること。そのために、みんなの力を借りたい」

「はい、もちろんです」

「私も。やると決まったら頑張ります」


 新メンバーの二人、柚希と美桜がやる気を見せる。

 それを見た葉隠先輩は……。


「橘優斗、君はどうなんだ?」

「……俺も、こうなった以上は精一杯サポートしますよ」

「うむ。それならば良い」


 文句は言わせない。言葉に出さずとも、先輩の発するオーラのようなものが、そう物語っていた。

 ……はぁ、この席順で我慢するしかないのか。



 ひとまず今日は、峰高祭の日取り確認などで終わった。

 俺たち一年生にとっては初めての文化祭。まさか生徒会として運営側に立って参加することになるとは思わなかったけど……とりあえず、こうなった以上は頑張るしかない。


「それにしても二人とも、本当に良かったの?」


 その帰り。

 いつものように幼馴染二人と帰宅していると、柚希がふいに俺たちへと質問を投げかけた。


「良かったって、何が?」

「生徒会のこと。私のことを気遣って入会してくれたんだよね? 本当に良かったのかなって……」


 どうやら柚希は、まだ俺たちが生徒会役員になった経緯を気にしているらしい。

 まあ確かに、柚希のために……って一面が無い訳じゃないけど。


「柚希、それは気にしなくて良いぞ。俺も美桜も、自分たちがやりたくて選んだんだからな」

「そうよ。私だって、生徒会に興味なんか無かったら入ってないもの。ちゃんと自分で選んだ道なんだから、柚希はそのきっかけをくれただけ」


 これまでのことを考えれば、確かに俺たちと葉隠先輩の間に色々あったのも事実だ。柚希が気にするのも仕方ないのかもしれない。

 けど、それはあくまで過去の話。

 今はもう葉隠先輩のことをどうも思っていないし、生徒会として頑張ろうという気持ちの切り替えもできている。


「んー……それなら良いんだけど」


 それでも、どこか納得していない様子の柚希。

 それを見た美桜は、柚希の近くへ寄って。


「そんなことを気にするよりも、文化祭で──だからさ」

「そっか。──だもんね。今はそっちの方を……」


 と、小さくお互いに耳打ちを始めた。


「ん、どうしたんだ二人とも」

「ううん、何でも」

「そ、何でもないわよ」


 明らかにこちらを見ながら喋っていたし、俺が関係ないはず無いと思うんだが……。


「ま、そのうち分かるわ。とりあえず今日のところは……ね」

「そうだね、お姉ちゃん。優斗君も、文化祭までには分かると思うよ」

「そうか? なら別に良いんだけど……」


 結局二人が何を喋っていたのかは分からないまま、その日は分かれることとなった。

 二人が話していた内容……文化祭までには分かるって柚希は言ってたけど、何だろうか。気になるな。

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