第38話「柚希と、美桜と、俺と、スカウト」

「……で、どうしてこうなったんだ」

 生徒会長から呼び出された数日後、なぜか俺と美桜、そして柚希の三人は、揃ってまた生徒会室へと集合していたのだった。

「葉隠先輩、今度は何の用事なんだろ」

「今度?」

 美桜の言葉に反応する柚希。

 そういえば、俺たち二人が呼び出されたのは知らないんだっけ。

「何でもないよ、なんでも」

「ええ、私たちだけの秘密……ってとこね」

 あの日、勢いに任せてカッコいい台詞をポンポン吐いてた気がするしなぁ……。

 今思い返せばかなり恥ずかしいし、出来れば柚希には知られたくないところなんだが。

「むー……」

 どうやらそれが不服な様子。

「柚希? どうかしたか、そんなふくれっ面して」

「何でもないよ、なんでも」

 それはさっき俺が口にした台詞な気がするが……。


「──やあ、待たせたね」


 なんて会話をしていると、ようやく生徒会長さんがやってきた。生徒会室に俺たち三人だけって状況も落ち着かなかったし、色んな意味で助かった。

「あ、葉隠先輩。こんにちは」

「どうも」

「うん、三人ともよく来てくれた。特に二人は、先日のこともあったしね」

 ハハハッ、と笑いながら冗談交じりに口にする先輩。

 もしかしたら今日は気まずいかも……と心配していたが、どうやら杞憂のよう。

 というか、気にしてなさすぎでは。器が大きいということなのだろうか。

「それで先輩、今日私たちが呼ばれた理由なんですけど……」

 柚希が本題を切り出す。

 そう。こうして生徒会室へ三人集まったはいいものの、肝心の呼び出された理由をまだ聞かされていないのだ。


「そうだね。──早速だが君たちに話したいことがある」

「話したいこと、ですか」

「ああ。君たち三人なら、それに足ると判断した」

 足る? 何の話──。

「──君たち三人を、正式に生徒会メンバーにスカウトしたい」


「……え?」

「……は?」

「……ん?」


「もう一度言おうか? 私は、君たち三人を生徒会へと迎え入れたいと思っている。どうだ、引き受けてくれるか?」


 ……な、何を言ってるのかさっぱりだ。


「……あの、葉隠会長」

「ん? どうした、柚希君」

「えっと、生徒会の話はお断りしたはずじゃ……。それに、三人って……」

「ああ、もちろんそれは覚えているとも。だからこそ君たち"三人"をこうして呼びたてたんだ」


 ……つまりこういうことか?


「えっと、つまり柚希をスカウトしたいけど、俺たちとの時間が取れなくなるから断られた。それならいっそ三人まとめて生徒会に入れちゃえ、そういうことでしょうか」

「うむ。端的に言えばそういうことだな」

「うむって…・・・それはあまりにも極端なのでは……」

「おっと、勘違いしてもらっては困るぞ。私は別に、二人を"ついで"などとは思っていない。橘優斗、それから花咲美桜。君たちも我が生徒会の一員として活躍してくれると判断したからこうしてスカウトしているんだ」

「そうなんですか? てっきり私たちは、柚希をおびき寄せる餌なのかと……」

「そうではない。君たちの学園での評価、それから君たち自身の人間性や人となり、全てを総合的に評価した結果、二人なら生徒会メンバーとして問題無しと思っている。最も、一番の決め手になったのは先日の一件であることは間違いではないがな」


 ただまあ、少々学業に難アリとは聞いているが、と余計な一言を口にする会長。

 それは言わなくていいんですよ。


「まず花咲柚希君。君は以前も話したね。学業優秀、生活態度も極めて真面目。加えて生徒からの信頼も厚い」

「そ、そんな……恥ずかしいです」


「それから花咲美桜君。君はスポーツがかなり万能だと聞いている。部活動の助っ人も行っているそうじゃないか。そして、柚希君同様に生徒からも信頼されている」

「た、確かに助っ人はしていますけど……」


「そして最後に橘優斗。君は勉学もスポーツも極めて普通。特に生徒から人望を集めているわけでもなく……」

「なんか俺だけ貶されてませんか!?」

「まあ話は最後まで聞け。……だが、君はこの二人から明確な好意を寄せられている。違うか?」

「なっ……!?」

「その顔、図星だな。いや別に言いふらしたりはしないさ。あくまでこれは確認だ」


 その確認、果たして必要なのでしょうか。

 ……って、二人も黙ってないで何か言ってくれ!?

「学園でも五指に入るほどの美少女二人から好意を寄せられる。そんな男が、気にならないわけ無いだろう? それに、君がいた方が何かと上手く回りそうだからね」

「……あの、俺だけスカウト理由おかしくないですか」

「いやいや、無論それだけじゃないさ。先日の一件で、君という人間を少しだけ理解したよ。私相手に物怖じもせず意見するその姿勢、悪くない」


 あれは、柚希に関することだったからってだけで……。


「まあ、なんだ。最初は柚希君を欲していたが、今は違う。君たち三人、それぞれを必要だと思っているということを知って欲しい。もちろん、柚希君をスカウトするためじゃないということもね」

「はあ……」

 正直、これは予想外過ぎた。

 俺が生徒会? 二人ならともかく、俺だぞ?

「さて、三人の意見を聞かせてもらおうかな。まずは柚希君、どうだい?」

「……私は、元々生徒会に興味はありました。けど、三人の時間を大切にしたくて断っています。なので、生徒会に二人が入ってくれるなら……」

「私も同意見ね。生徒会に入るのは別にいいけど、二人が入らないなら申し訳ありませんが」

「なるほど、概ね予想通りの返答だ。……ということで橘優斗、選択権は君にゆだねられたわけだが」

「ま、マジっすか……」

 正直、俺なんかに生徒会が務められるなんて全く思わないんだが。

 ただ、一つだけ頭に浮かんでいることがあるとすれば。


 柚希が生徒会に興味を持っているのは多分本当だろうってことくらい。


 きっと、柚希が俺たちを選んだのは、生徒会の仕事よりも優先すべきことがあったからだと思う。鈍い俺でも、それくらいは流石に分かるさ。

 となれば、俺たちが生徒会に揃って入れば……三人の時間も守れて、かつ柚希が興味を持っている生徒会の仕事に携わらせることも出来る。

 そんな決め方でいいのかと自問自答したくなるが、二人も悪くない提案だと思っているみたいだし……。


「……分かりました。俺なんかが役割を果たせるかは自信無いですが、生徒会の提案、受けさせてもらおうと思います」

 

 まあ、なるようになる……だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る