第36話「柚希の決意と、突然の呼び出し」
「懐かしいな」
優斗君の家から帰って、なんだか急に懐かしくなって引き出しに閉まっていたこの紙を取り出し、幼稚園の頃を思い出していた。
あれから十年経って、それでもやっぱり私の気持ちは変わらず……ううん、むしろあの頃よりももっと強くなってるかも。
今日一日、久しぶりに二人きりで過ごして改めて気づいた。
一緒に勉強をして、私の作ったご飯を食べてくれて、たまに休日には一緒にお出かけしたりして……生徒会のお誘いもすごく嬉しいんだけど、それでもやっぱり私は、そんな変わらない毎日が大好きなんだって。
"コンコンッ"
「柚希、入るわよ」
すると、お姉ちゃんがドアをノックし部屋へと入ってきた。
「お姉ちゃん……」
ゆっくりと私の元へと歩みを進め、じっと私の顔を見つめる。
こんなに近い距離でお姉ちゃんと向かい合ったのは久しぶり。
やがて、何か納得したような表情へと変わり。
「……うん、いい顔してる。その様子を見るに、背中を押すことは出来たかしら?」
そう、口にした。
きっとお姉ちゃんは、全部分かっていたんだろう。
私がハッキリと生徒会を断る勇気が無かったことも、お姉ちゃんたちの仲が知らないところで縮まってるんじゃないかって不安を抱えていたことも、全部。
だからきっと、今日も。
「──ありがとう、お姉ちゃん。試験が終わったら自分の気持ちを伝えてくるね」
「うん、頑張って」
……本当に、ありがとうお姉ちゃん。
大好きだよ。
◇
「すみません。私、やっぱり生徒会には入れません」
テストが終わり、一時的に休んでいた生徒会のお手伝いが再開した日。
ずっと言いたかった言葉を、ようやく葉隠会長に伝えることが出来た。
「……そうか。残念だな」
表情にも表れていた。会長のその言葉は、心からの本心なんだってのが分かる。
「ちなみに、理由を聞いても良いかな」
けど、もう迷いは無い。
「大切な人の側に、これからもずっといたいと思ったんです。……生徒会も魅力的なお誘いだったことは間違いありません。けどやっぱり、私にとって一番大切なことは何かなって考えたら……」
「……それは、君の好きな人かい?」
「はい。私の大好きな"二人"のために、私は自分の時間を大切にしたいんです」
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ優斗君への気持ちが強くなっちゃったけど。
それでも私は、やっぱりお姉ちゃんのことも大好きみたいで。
──これは、私のわがままだ。
自分からあんな約束を提案したんだ。卒業したらお姉ちゃんとは離れなきゃいけないって分かってる。多分だけど、恋敵として仲良くするべきじゃないのかもしれない。
けど……いや、だからこそ私は。
今はこの三人の時間を、大切に出来たらなって。
「……なるほど、君の言いたいことは何となく分かった」
これが正しい答えなのかは分からない。
けど、自分の気持ちに嘘を吐いたら、きっと後で後悔するんだろうなって気づいたから。
*
「ねえ優斗。アンタのところにも…・・・」
「ああ、美桜のところにも来てたか。この手紙」
テストを終え、数日が経った頃。
その手紙は、俺──橘優斗と、幼馴染の花咲美桜の元に突如として送られてきた。
『放課後、花咲美桜と共に生徒会室へ来るように』
送り主は、葉隠椿と書かれている。
葉隠……つまり生徒会長だ。
「ちなみに美桜の手紙にはなんて書いてあったんだ?」
「優斗と同じよ。放課後、橘優斗と一緒に生徒会室へ来るように、だって」
「ホントだ……え、俺たちなんか悪いことしたか?」
「いや全く心当たりは無いんだけど……もしかして、テストの点数が想像以上に酷くて、それで」
「ま、まさか。そんなことで呼び出しなんかされないだろ」
「そうよね……あと考えられるとしたら、生徒会へのスカウトだけど……それもちょっと考えにくいし」
「そうだな。お前ならともかく、俺がスカウトされるのは……」
「あら、褒めてくれてるの?」
「褒めるっつうか……まあ、勉学はあれだけど、柚希もスカウトされてるならお前がされてるもおかしくはないだろって」
「一言余計なのよ。……ま、褒めてくれてるみたいだからいいけど」
にしても、本当に心当たりが無くて怖い。
わざわざ美桜と一緒に、なんて書いてるところが特に。
「ま、とりあえず行ってみるか」
「そうね。ここで話をしてても埒が明かないし」
ひとまず放課後を待ち、二人で生徒会室へと向かうことにしたのだった。
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