第32話「柚希と生徒会長」
「ごめんっ!」
放課後。いつものように俺を迎えに来たはずの柚希が、開口一番こんなことを口にした。
「今日は……ううん、ちょっとしばらくは勉強教えてあげられないかも」
「あー、それは別に構わんが……どうした? テスト週間なのに、放課後何か用事でも」
「ち、ちょっとね。今日も生徒会室に……」
「生徒会?」
「あっ、何でもないから! それで、一緒に帰るのも厳しそうだから先に帰っててくれるかな?」
「そうか? ならそうするけど……」
今日からまた勉強漬けだと覚悟していたので、ちょっとだけ拍子抜けした感じである。
俺にそう告げると、柚希はなにやら駆け足気味で教室を後にした。先ほど生徒会室がどうとか言ってたけど、柚希が生徒会に何の用事なんだろうか。
「優斗」
「おお、美桜か。迎えに来てくれたのか」
「まあそんなとこ。……それより柚希知らない?」
「柚希? ついさっきまで一緒だったけど、生徒会室に行くとか言ってどっかいったぞ」
「生徒会? 柚希って、生徒会役員だったっけ?」
「いや、そんな話は聞いたこと無いが……」
美桜も知らないとなると、いよいよ謎は深まる。この双子、お互いに知らないことは無いってくらいプライベートを共有してるからな。
「ん? どったの二人とも」
互いに顔を見合わせていると、同じ教室にいた北条がやって来た。
そういえば北条と美桜は知り合いだったな。この学校で唯一、俺と幼馴染二人の共通の顔見知りかもしれん。
「……そうだ、北条なら知ってるんじゃないか?」
無駄に学園の情報について詳しいコイツなら、何か話を聞いてるかも。
「私? 何を聞きたいの?」
「いや実は柚希がな、何か生徒会に用事があるとかなんとかで……」
「あー、生徒会か」
柚希のことを説明しようとすると、北条は『生徒会』というワードを聞いて何か納得した様子を見せた。
「舞、何か生徒会について知ってるの?」
「というか、むしろ二人とも知らなかったんだ。この時期の生徒会のこと」
「「この時期の生徒会・・・…?」」
思わず美桜と声が揃ってしまう。
「まぁ二人とも一年生だしね。知らなくても仕方ないか」
いや、お前も一年生だろ!
と、美桜も同じく心の中で思ったに違いない。
「えっとね、ウチの生徒会ってのは基本的に選挙をしないんだよ。ほら、普通生徒会って立候補者を募って、その中から選挙で決めるものじゃない? けどウチの学校は、生徒会長が次のメンバーをスカウトして、そこから生徒会役員を決めていくの」
「へー、知らなかったわ。ということは、今の生徒会役員も前の会長さんが決めたってこと?」
「うん、そういうこと。まあでも、今の生徒会長さんだけは特別なんだけどね」
「特別?」
「今の会長──
「支配って……というか、生徒会長なら俺も見たことあるけど、あの人二年生だったのか」
「そうそう。で、多分柚希ちゃんだけど、いま葉隠先輩からスカウトを受けてるんじゃないかな?」
「役員にか?」
「分からないけど、大体生徒会役員が決まるのはテスト明けだからタイミング的にそうなんじゃないかな。それに、柚希ちゃんなら選ばれてもおかしくないしね」
「なるほど……」
確かに、北条の言うことは分かる。
柚希は学年でもトップの成績を残しているし、学園生活の送り方も模範生徒そのものだ。それに、何といっても学生たちの支持を圧倒的なまでに得ている。
一年生ながらファンクラブ(?)のようなものまであるらしいし……生徒会役員になっててもなんら不思議ではないな。
「……けど、柚希は──」
「美桜? どうかしたか?」
「あ、ううん。それより舞、そのスカウトってのは断ることは出来るの?」
「んー、どうなんだろう。流石に無理強いはしないと思うけど、生徒会役員に選ばれるのって結構光栄なことって思ってる人も多いからね。だからこそ、この学校の生徒会がそれなりの影響力を持ってるみたいなところあるし」
「なるほど……」
何かを納得したような口ぶりで、美桜は北条の話に耳を傾けていた。
「ま、かもしれないって話だからね。もしかしたら別件かもしれないし、今度話を聞いてみたらいいんじゃない?」
「そうね、そうしてみるわ。ありがとう舞」
「いいえ~、どういたしまして~」
そう言いながら、北条はどこかへと去っていってしまった。
「にしても生徒会か。そんなに凄いことなら、俺たちにも話してくれたらよかったのに」
「……優斗、それ本気で言ってる?」
「え?」
「はぁ……ホント鈍いわね、全く」
何だ、なんで俺は今呆れられたんだ……?
*
「すまない、明日も生徒会室に来てくれるか?」
優斗君とお姉ちゃんにテスト勉強を教えている最中、私──花咲柚希のもとに一本の電話がかかってきた。
通話の相手は……生徒会長さんだ。
「あの……葉隠先輩」
「ああ、何。それほど時間は取らせないさ。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」
「……えっと、でも私」
「頼む、君の力が必要なんだ。この通り」
電話越しにも伝わる、真剣な声。
そんな風に頼まれてしまったら……。
「……分かりました。明日の放課後、生徒会室に伺わせていただきます」
「本当かっ! 助かるよ。花咲君がいると、作業のペースがかなり向上するからね」
「い、いえ……そんな、私なんて」
「何を言う。君の実力は、この私が認めているんだ。……なあ、改めて聞くが、生徒会に入る気は無いか?」
「え?」
「前にスカウトした時、君は私の誘いを断っただろう? だけど、やっぱり来年の生徒会に君の存在は必要不可欠だと思っているんだ。ぜひ君に副会長の役を担ってもらって、私のサポートをして欲しいんだが」
「……すみません、そのことは」
「まあ何だ、まだ時間はあるからな。しっかり考えて、また話を聞かせてくれ。じゃあ明日頼んだよ」
そう言いながら、葉隠会長は通話を切ってしまった。
「……はぁ」
そうして、スマートフォンを手に思わずため息を吐いてしまう。
「ちゃんと断ったはずだったんだけどな……」
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