第26話「かなりラブラブ…?」

「こ、恋人関係ですか!?」

 美桜の言葉を聞き、驚きを隠せないといった表情の七瀬。

 ……と、俺。

「でもさっき、橘先輩は幼馴染だって……いえ、私も疑ってはいましたが」

「そうね。優斗は恥ずかしがりだから」

 ……は?

「だから、私と付き合ってることを隠したがるのよ。全く、今更照れることないのに」

 な、何を言ってるんでしょうかこの子は……。

「お、おい! なに言って──」

 すぐに否定しようとするも、ギュッと抱きつかれた腕に力が入り、痛みで思わず声が出なくなってしまう。それはまさに「余計なことを言うな」と無言の主張であった。

「そ、そんな……美桜先輩が、こんな……」

 結果、美桜の言うことを信じきった後輩は、この世の終わりとでも言うような面持ちで、立ちすくんでしまっていた。

 違うぞ! 俺たちは別に……!


「……それじゃ、美桜先輩が水泳を辞めたのも」


 そのまま、小声で何かを呟いている七瀬。

 美桜に腕を決められそれどころじゃないが、いったい何を喋っているんだ──。

「……私、認めません。美桜先輩には、もっと大事なことがあるはずです」

「大事なこと、ね」

「はい。きっと今は橘先輩に唆されて道を踏み外しているんだと思います。でも、私が目を覚ましてあげますから!」

 おい、その言い方だとまるで俺が悪者みたいじゃないか。

「ふーん、なるほどね」

 美桜も乗るんじゃない!

 ほら、後輩が凄い目でこっちを見てるぞ。まるでターゲットを見るような目だ。これ、確実に後で殺されるやつじゃ……。

「今日のところはここで失礼します。けど、私は諦めませんから」

 そう言い残し、この場を後にする。

「……おい、美桜」

「ん? どうかしたかしら?」

「どうかしたかしら、じゃないだろ! お前、お陰で俺はすっかり七瀬の敵認定じゃねえか!」

「ふんっ、ただの幼馴染なんて言うからよ」

 そんなこと言われても、じゃあ他になんて説明すれば良いんだ……!

「それに、丁度良い機会だと思うし」

「機会?」

「ううん、何でもない。それより、しばらくは私に付き合ってもらうからね」

「付き合うって……まさかさっきの」

「そうよ。あの子の前では彼氏彼女、そういうことになってるから」

「……ちなみに、それはいつまで」

「もちろん、私が良いって言うまで」

 にっこり笑い、そう答える美桜。

 ま、マジっすか……。



「付き合ってる……フリ?」

 帰宅した柚希に、事の顛末を説明する。

 というのも、余計な勘違いを生まないようにと美桜が提案してきたのだ。

 実際俺も、柚希に黙って行動するのは後が怖い──じゃなくて、結果的に面倒なことになる可能性を考えていたし、丁寧に一から十まで説明することにした。

 だが、当の柚希本人はというと。

「……むー」

 理解しつつも、納得はしていないといった表情だった。

「優斗君が言ってることは分かったけど、なんだかズルいなぁ」

「いや、これはあくまで付き合うフリであって……」

「それは分かってるけど! それでも納得出来ないの!」

 というか、俺だって別にこの状況に納得してる訳じゃないからな!?

「ゴメンね柚希。しばらく優斗は借りることになるけど……」

「……はぁ、分かった。納得はしてないけど」

 だから俺も納得は(以下略)

「その代わり、落ち着いたら次は私の番だからね」

「……は?」

「それも、二倍で返してもらうから。優斗君、覚えててね」

「いや、それは──」

「覚えててね?」

「はい」

 ……しまった、完全に気圧された。



「それで、今週のことだけど」

 やがて、美桜と二人で今後のことについて話し合うこととなった。

「とりあえず、日曜日でいいかしら」

「……待ってくれ、せめてもう少し詳しく説明を」

「ああ、そういえば話してなかったわね。あの後、胡桃から連絡があったの。二人の仲を確認するためるために、デートを見学させて欲しいだとかなんとか」

「何だその確認ってのは……」

「私たちが、どれほどお互いを好きあってるかを確かめるそうよ。だから、当日は胡桃が納得するようなデートをしないと」

 ……ということは。

「百歩譲ってデートするのは良いとして、当日は……その、恋人らしく振舞わないといけないのか?」

「当たり前じゃない。それも、かなりラブラブだって返信しておいたから。宜しく頼むわよ?」

 なっ……!

「ふふっ、楽しみね」

 ……おかしいな、俺は楽しみよりも不安しかないんだが。

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