第15話「水着、ナンパ」

 食事を終え、海へとやってきた。

 時間は丁度一時。天気も良いし、泳ぐのにはベストなタイミングだろう。

 だが──。

「……遅いな」

 ここに来て既に二十分ほど経過しようとしていた。

 男の着替えに比べて時間がある程度掛かるのは分かっているが、それにしたってこんなに掛かるものだろうか。

 部屋で先に着替えを済ませていた俺は、先に言っててほしいと二人から告げられ、こうして海辺まで一人で足を運んでいた。

 そして、こうして浜辺で二人の到着を待っているわけだが……。

「一応様子を見に行くか……」

 海はホテルのすぐ目の前だし、何かトラブルがあったとは考えにくい。だが、少し遅くなっているのがどうにも気になり、一旦部屋へと向かうことに決めた。

 ……と、歩き出したのは良かったのだが。


「──ねね、いいじゃん」


 歩き始めて数分、二人がやけに遅かった理由がすぐに分かってしまった。

「ほら、一緒にさ~」

「俺たち、バーベキューしてるんだけど──」

 うんざりとした表情の二人に対し、随分と楽しそうな笑顔の男三人組。金髪サングラスと見た目から分かる軽さ。見た感じ大学生っぽい。


 ……ああ、またか。


 ナンパ。こうして二人が知らない男に声を掛けられる光景は、正直見慣れたものだ。

 街を歩けば視線を集め、ちょっと目を離せば声を掛けられ……その度に何度俺が間に入ったことか。

「おーい、柚希。美桜」

 こういう手合いは、連れがいると分かるとすぐに離れていく。これが長年の経験で得た知識だ。

「「……あっ」」

 俺の呼び声に気づき、こちらを向く二人。先ほどの表情とは一転し、笑顔で俺のところへ駆けてきて腕を取り……って、ちょ──

「あ、ごめんなさーい。どうも"彼氏"が迎えに来てくれたみたいなので」

「そういうことなので、失礼しますねー。"彼氏"が来てくれたので」

「ああっ! ちょ──」

 俺の右腕を美桜が、左腕を柚希がギュッと抱きしめ、やけに「彼氏」というワードを強調しその場を後にしようとする二人。男たちの方を見向きもせず、俺を引っ張って歩いていく。

 ……って、水着だから直に肌の感触が伝わってきてヤバイ! やけにさわり心地の良い感触だあぁとか、左腕からは柔らかいモノが伝わってくるなぁとか──いてぇ! 右腕を締め付ける力がなんだか急に強くなったぞ!?

「ん?」

 思わず美桜の方を向くと、笑顔で首をかしげる仕草を見せる。

 なんだか後ろに黒いオーラのようなものが見える気がするんですが!!



「……はぁ、いつものこととはいえ」

「そうだね、今日のはちょっとしつこかったかなぁ……」

 泳ぐ前から疲れた様子を見せる二人。

 何故だろう、俺もちょっと疲れたよ……。

 あの後、何故か一向に腕を離してくれる様子が無かったので、しばらく両腕に二人が抱きついた状態のまま浜辺を歩くこととなったわけだが、そうなると周りからの視線が嫌でも集まってしまい……。

「女の子二人をはべらせて云々……」

「最近の若いのはどうたら……」

 なんて、嫌な目立ち方をしてしまったわけだ。

 そりゃまあ、女の子二人と腕を組んで歩く男なんてろくな人間じゃないと思うのが普通だよな……。

「お前たち、いつも抱きついたりしないくせになんで今日だけ……」

 思わず言葉が漏れる。

 いつもなら声をかけて終わりなはずが、今日は余計な仕草や言動が加わっていた気がする。

「ま、まぁ何にしてもありがとうね、優斗君」

「そうね、特に今日は長引きそうだったから助かったわ」

 ……ま、二人に何事も無かったからとりあえずは良いか。


「──それより優斗」

「ん?」

「私たちの姿を見て」

「何か言うこと、あるんじゃないかな?」

 そう言われ、改めて二人を見る。

 ……そうか、ごたごたがあってすっかり忘れてたけど、ここは海だった。

「水着……だな」

 向かって右側、黒色の水着を身に纏っている美桜。服の上からでも分かるが、美桜は本当に体型がスラッとしていて綺麗だ。運動が得意なだけあって、程よく引き締まった身体。立ち姿も美しく、恐らく遠くからでも映えて見えることだろう。

 大して左側、美桜とは正反対に真っ白な水着に身を包まれている柚希。フリルの付いたタイプで、どことなく清楚っぽさが見て取れる。美桜とは逆に運動は苦手なタイプだが、だからといって見劣りするような体つきではなく、やはりモデルのような見た目で……あと、胸がごほんごほん。

「……えっ」

「……まさかアンタ、それで終わるつもりじゃないでしょうね?」

 一言呟き、二人を眺めながら頭の中でそんなことを考えていると、呆れ半分、怒り半分といった表情を二人が浮かべていた。


「あーあ、せっかく新しい水着買ったのになぁ」

「ね、優斗に期待した私たちが馬鹿だったわ」


 止めろ! ジトッとした目でこっちを見るんじゃない……!

「……あー、悪かったって。二人とも、似合ってるよ」

 なんだこれ。

 幼馴染だし、二人の格好を褒めるなんて今までしたこと無かったからめちゃくちゃ恥ずかしいぞ……。

 だが、そんな俺の頑張りも二人には不服のようで。

「似合ってるだけ?」

「それに、"二人とも"ってまとられると──」


「あーもう! 柚希も美桜も、可愛いよ! 二人とも自分にピッタリの水着だし、内心めっちゃドキドキしてるって!!」


 ついヤケになってしまい、大きな声が出てしまった。

 そんな俺の言葉を聞いて満足してくれた様子だが……お陰でまた周りから注目される羽目になり。

 ……俺もう帰っていいですかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る