第12話「覚悟を決めた」
「んー、涼しいね」
公園に着くと、柚希がそう呟いた。
確かに、心地よく吹いている夜風が気持ちいい。
今日は朝から晩まで騒がしいこと続きだったし、こうしてのんびりするのも良いな……。
「まぁ案の定大人たちが騒ぎたいだけになったわね……。毎年のことだけど」
「けど、今年は特に酷かった気もするが……」
理由はいちいち話さなくても全員分かっている。
俺たちの関係が大きく変わった、それが親父や母さんたちには嬉しかったのだろう。どうしてあそこまで手放しで喜べるのかは謎だが。
と、その時。二人を見て、ようやく気が付いたことがあった。
「プレゼント、してくれてるんだな」
柚希は腕時計を、美桜はネックレスを、互いに身につけてこの場所に来ていた。
「あ、やっと気づいてくれた」
「さっきからずっと付けてたのに、全然反応が無いんだもの」
「す、スマン……」
とてもそれどころじゃ無かったというか……。
「で、感想は?」
「え?」
「ふふっ、似合ってますか?」
ここぞとばかりに、互いに渡したプレゼントを主張する二人。
……まあ、流石というかなんというか。
「あー、その、なんだ。似合ってると思うぞ?」
「何よその反応、中途半端ね」
「そんなこと言われても、結局選んだのは俺だしなぁ……まあ、二人とも何を身につけても似合うと思うし、良いんじゃないか?」
そう答えると、なぜか二人は面食らったような顔を見せ。
「なっ……」
「はぅ……」
と、顔を真っ赤にしていた。
「ど、どうした!?」
「……優斗君ってこういうところが……」
「……ね、ズルいって言うか……」
俺に聞こえないよう、ひそひそと話し始める二人。
何だ、俺何か変なこと言ったか……?
「……そういえば、母さんたちにはずっと黙っててもらってたって言ってたよな? 今更理由を聞いたところで変わるわけじゃないけど、一応聞いても良いか?」
仕方なく話題を変えようと、少しだけ気になっていたことを尋ねることに。
二人は以前顔を赤くしたままだったが、一つ息を整え。
「──あー、そうだよね。……まぁ簡単に説明すると優斗君のため、かな?」
「俺の?」
「そ、優斗のため。二人で子供のときに話し合って決めたの」
いまいちピンとこないな。
「えっとね、確かに私たちはずっと優斗君のことが好きだったんだけど……でもそれは、私たちの気持ちであって」
「優斗が私たちを幼馴染以上に見ていないってことは、ずっと分かってたのよ」
「……まあ、そこは否定しない」
「で、私たちは十六歳になるまで気持ちを伝えるのを止めておこうって思ったの。もし十六歳になるまでに、優斗君が別の女の子を好きになっても良いようにって」
「ま、結局優斗は今まで彼女のかの字も出てこなかったわけだけど」
うるせえ、誰が彼女いない歴=年齢だ。
……俺だ。
「だからお母さんたちにも黙ってて貰ったの。もし優斗君に別の彼女が出来たら、その時は潔く諦めようって」
「けど、結局その心配は杞憂に終わって、無事十六歳の誕生日を迎えたってわけ」
「……なるほど、言いたいことは何となく分かった」
てっきり無理やりにでも約束を行使させようとしているのかと思ったけど、意外と考えてくれてたんだな。
まぁ美桜の言うとおり、実際それは杞憂に終わったわけだけど。この十六年間、特に彼女もいなければ好きな女の子すらいなかったわけだし。
「ねえ優斗君」
「ん?」
「私たちの告白、受け取ってくれますか?」
いつもの優しい口調で、柚希がそう尋ねてくる。
それに続き、美桜も。
「ま、ここまでしたんだから、今更断られてもって話なんだけど」
変わらない口ぶりで、そう付け足す。
いつだって、二人の意見は絶対だった。いかに俺が口出ししようとも、最終的には彼女たちに言いくるめられて。
……ああ、本当にこの双子には適わないな。
「……分かった。二人からの告白、しっかり考えて答えを出すよ。結果的にどちらかを悲しませることになるかも知れないが……それでもお前たちは」
「大丈夫だよ」
「覚悟は出来てるから」
俺が聞き終わる前に、二人からハッキリとした言葉で答えが帰ってきた。
なら、俺も二人の気持ちにしっかりとした答えを出さなければいけない。
「……とは言ったものの、流石にいきなり女性として意識しろってのは無理があるから、ゆっくりでいいか?」
「……はあ、優斗君」
「珍しくカッコいいところを見せたかと思えば……」
そ、そんなこと言われたって、こっちだっていきなりの展開でまだ頭が追いついてないんだぞ……!
「ま、優斗ならそう言うと思ってたわ」
「うん、その代わり私たちもアプローチしていくから……覚悟しててね?」
笑顔でそう語る双子たち。
なるべくゆっくりペースでお願いします……。
◇
「ただいまー……って、まだやってたのか」
一通りの会話を終え自宅へ戻ると、すっかり出来上がった大人四人が、相も変わらず楽しそうに酒を酌み交わしていた。
流石に飲みすぎだろと言いたいところだが、こいつらには何を言っても無駄だ。
「お、帰ってきたな!」
待ってましたと言わんばかりに、双子父が声を上げる。
そして──
「お前ら、今週の休みは旅行に行くぞ!」
……おい、ちょっと待て。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます