第11話「両家公認」

「あー……疲れた」

 美桜とのデート(?)を無事に終え、ようやく自宅へと戻ってきた。

 着替えをする元気すらも無く、部屋に入るや否や、すぐさまベッドへ倒れこんだ俺を誰が攻められようか。

「一気に色々起こりすぎなんだよなぁ……」

 一瞬忘れそうになっていたが、ここへ戻ってきて改めて思い出した。

 そう。俺は今朝この部屋で、二人から結婚の申し出を受けたのだ。それも、高校卒業までに、どちらか一人を選ぶという条件付きで。

「どっちも選ばない、ってのは駄目なんだろうな……。あー、どうするんだよ俺は」

 この際二人への好意云々という話は一旦置いておいて、だ。

 いずれどちらか一人を選ばなくてはいけないということは、どちらか一人を選ばないということだ。

 その時になって俺がどんな選択をするかは分からないが、このままいけば美桜と柚希、どちらかの好意を無碍にしなければならない。

 今日二人と出かけて改めて思ったが、美桜も柚希も、好意の差なんて微塵も無い。

 そんな俺が、二人のうちどちらかを選ぶなんて、出来るのか……?

「……無理だろ」

 溜息を一つ零し、枕に頭を埋める。

 そうして考えて考えて、出た答えは──。

「──一旦保留で」

 二年半後までに考える、つまりは後回しというものだった。

 ……いや、そんなすぐに答えが出る訳ないしな。



「「「「誕生日おめでとう!」」」」

 四人の声が部屋中に響く。

 俺の両親、そして美桜と柚希のおじさんとおばさん。

 普段からやたらとノリの良い四人は、毎年特にこの誕生日パーティへの熱の入れようが半端じゃなく……今年も例年通り、無駄に豪華な装飾に、やたらと量の多い食事を用意して俺たち三人を待ち構えていた。

「毎年のことながら良くやるよな……」

 思わず言葉が漏れてしまう。

 まだ小さい子供たちってなら分かるけど、流石に十六歳にもなってこんなに盛大な祝われ方をすると、ちょっと恥ずかしいものがある。

「ふふっ。でも、こうやって祝ってもらえるのは嬉しくない?」

「そりゃまぁそうだけど……なぁ、美桜」

「優斗が何を言いたいかは分かるわ。……何だかんだ言って、最終的に一番楽しんでるのはお父さんたちなんだもの」

 結局俺たちのパーティだなんだと言いながら、本人たちが騒ぎたいだけなのだ。

「まぁそう言うなって、お前たちも早く座りなさい」

「そうよ、せっかくの料理が冷めちゃうわ」

 そうせっつかされ、席へと座ろうとすると──。

「……待て、この席順にもの凄く含みを感じるのは俺だけか?」

 大きなテーブルをぐるっと囲むように座る、これは毎年のことだ。

 だが、今年の席順はいつもと少し違っていた。

「なんで椅子が三つ並んで空いてるんだよ」

 ウチの家族三人が並び、対面に花咲家の家族が座って食事をする。これが毎年の座り方だったはず。

 だが、今年はなぜかいつも座るはずの場所に椅子が無く、空いていた両隣のスペースに三つ椅子が並べられ、そこに座れといわんばかりに両親たちがニヤニヤとこちらを見つめていたのだった。

「あら、優斗たちはそっちの方が良かったんじゃないの?」

「そうそう、美桜と柚希もその方が嬉しいよね?」

 両親──特に母親同士がやけに楽しそうな表情を浮かべてこちらを見ている。

 何だこの二人、まさかとは思うが。

「なあ美桜、柚希。まさかとは思うが、あのことを二人に言ったんじゃ……」

「何言ってるのよ優斗」

「そうですよ優斗君」

 そうだよな、流石にまだ母さんたちには──。

「「お母さんたちは、幼稚園の時からずっと知ってる(わ)よ」」


 ……ああ、そうですか。



「それにしても、ようやく十六歳になったか。美桜も柚希も、ずっとこの日を楽しみにしてたもんなぁ……」

 お酒を呷りながら、双子父が感慨深そうに口を開く。

 っておい待て、その口ぶりだとまるで俺以外の全員、結婚のことを知っていたみたいじゃないか。

 すると、そんな俺の様子を見て親父が一言。

「なんだ、優斗はやっぱり忘れてたのか?」

「そうなんですおじさん、優斗君ったら今朝私たちが説明するまですっかり忘れてたんですよ」

「まあ、良いサプライズにはなったんですけどね」

 ウチの親父まで知ってたってことは、知らなかったのは本当に俺だけなんだな……。

 いや、というかそれなら。

「親父も母さんも、知ってたなら教えてくれよ!」

「あら、忘れてた本人が偉そうによく言えたわね」

「そうだぞ優斗、忘れてたお前が悪い」

 ぐっ、それを言われると苦しいが……。

「ゴメンね優斗君、お母さんたちにはずっと黙ってて貰ってたの」

「……それはまたどうして」

「うーん、その辺の理由はちょっとだけ長くなるから、また後で説明するね」

「まぁ、それは別にいつでもいいんだけど」

 そもそも事前に教えられてても、どうしようも無かっただろうし。

「それより親父たちは……その、良いのか?」

「ん? 何がだ?」

「だから、二人と結婚がどうのって話だよ」

「ああ、私たちは別に構わんよ。なあ、母さん?」

「ええ、美桜ちゃんと柚希ちゃん以外を選んでたら反対するかも知れないけど、二人なら安心よねぇ」

 駄目だ、ウチの両親はすっかり乗る気だ。

「俺たちも別に構わんぞ」

「そうね、美桜と柚希は子供の時からずっと言ってたもの。将来どっちかが優斗君と結婚するんだって。だから反対なんて今更、ねぇ」

 ……何と、両家公認でした。

 幼馴染ってことで、無駄に信頼を得ていたのが仇となったか。

「はぁ……」

「なに優斗、アンタ二人と結婚するのが嫌なの?」

「いや、嫌って言うか、現実味が無さ過ぎるっていうか……」

 全員ずっと前から知ってたかもしれないけど、俺は今朝いきなり聞かされたんだからな!?



 その後もやけに上機嫌な両親たちに付き合わされ、大人たちの酔いも良い感じになった二十一時頃──。


 俺と美桜、そして柚希の三人は、一旦パーティを抜け出し、近くの公園へと足を運んでいた。

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